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140字小説(ついのべ)/推理小説を書くのはもうやめる他15作

2023年1月前半の140字小説(ついのべ)15作です


推理小説を書くのはもうやめると言うと、友人は「それは困る」と喚いた。僕の小説の殺人トリックはすべて友人が発想したものだ。「書いてくんなきゃ、俺、実際に試したくなる……」泣きながら言われて、渋々もう少し続けることにした。後日、友人が持ってきたネタの被害者は推理作家だった。(2023.1.10)


メイドロボの修理をしていた若手が「えっ」と声をあげた。「どうした」「中の部品が一つだけ違うメーカーのなんスよ」「お前、初めてか」親方は説明する。ときどきそういうのがいるんだ。仲良くなったロボット同士でこっそり部品を交換するらしい。指輪みたいにさ。信じられないか。ハハハ。
(2023.1.13)


当たると評判で一年待ちもざらという人気占い師なのに、なぜか当日に予約できた。「待ってたわ」占い師は私に水晶玉を覗かせた。きらきら宇宙が見える……。「見えるわね? じゃ」そのまま彼女は去った。え? すぐさま次の予約客が来る。そうして私は強制的に占い師を襲名させられたのだ。
(2023.1.15)


不老不死だという鈴虫を貰った。「人魚の血を舐めたんだよ」信じたわけではなかったが、一年過ぎてもまだ生きて鳴き続けている。騙されたと知ったのは取り返しがつかなくなってからだった。うたた寝していて、籠から逃げた鈴虫に噛まれて。不老不死の原因は人魚ではなく吸血鬼だったのだ。(2023.1.12)


町の電気は半月前から止まったままだ。「僕、貴方のこと好きですよ」言ってみたが、自転車を漕ぐのに夢中の主人にはよく聞こえなかったようだ。「何だって? お前のエネルギーを溜めてんだから無駄遣いするなよ」「はい」ソファに座った執事ロボットは、人力発電に勤しむ主人を眺めて微笑む。
(2023.1.11)


先輩が嫌いだ。いつも油っこい物ばかり食べてる癖に、スタイルがいい。肌も綺麗。仕事もできる。何度目かのダイエットに失敗した私が「先輩ずるい」と八つ当たりすると、彼女は困り顔で笑った。私、親が持病あって、家ではそれに付き合って病人食みたいな物しか食べてないの。その反動なの。
(2023.1.11)


古い家をDIYで少しずつリフォームしている。貰ってきた洒落た古い玄関ドアを取り付けて、開けてみたら、そこに見知らぬ世界が広がっていた。思わず閉じてしまって、再び開けたらいつもの景色だった。それから毎日、ドアを開けるたびわくわくする。今度は飛び出そう。あの、月が三つある世界。
(2023.1.11)


百年の恋も冷めてしまった。奥さんも子供もいる人なんて無理だって始めから思っていたけど。「え? 課長、独身だし離婚歴もないよ?」「だってデスクに奥さんとお子さんの写真を飾ってるじゃないですか」「あれ、課長本人の写真よ。赤ん坊の頃の。抱いてるのは若い頃のお母さん。美人よね」(2023.1.9)


画家は泣きながら言った。本当は俺には才能なんかないんだ。酒を飲みながらでないと何も描けない。本当は俺の絵も腕もただのクズなんだ……。その奥方は笑ってこっそり言った。まあ最初はそうなんだけどね。描くことに熱中しだしたら、あの人、酒瓶にただの水が入ってても気づかないのよ。
(2023.1.7)


死んで気がついたら、やたら巨大な扉の前にいた。これが天国の扉か。眺めていたら、一匹の白猫が足元を通り抜けて、扉の端っこでするりと消えた。よく見るとそこには猫一匹通れる程の小さな猫用ドアがあった。あー。可愛いもんなあ、猫。僕は笑って、審判を待つ長い長い列の最後尾についた。(2023.1.7)


騎士達は捕らえた魔女を神殿に連れてきた。大神の加護あるここでは魔女の力は封じられる。はずだった。魔女は……少女は太古の歌を歌う。ここに連れてきてくれて有難う。地響き。床石を割り、山のように巨大な女が地中から起き上がる。大神とやらよりずっと前からこの地にいた、古き女神が。(2023.1.5)


バスで山の遠足に行った帰り、人数が増えたことに気づいたのは僕だけだった。僕の隣に座る子なんているはずないのに、行きは一人だったのに、帰りは違ったから。「内緒だよ」その子は言った。皆も先生も、その子が始めからいたようにふるまった。バスが、山の『何か』を人の世に連れてゆく。(2023.1.5)


「先日助けて頂いた鶴です。恩返しに参りました」女はそう言ってうちに住みついた。機は織れなかったし料理も下手だった。でも毎日が楽しくなった。「お前、鶴じゃないだろ?」正体がバレてもいなくなることはないと思っていた。「前の戦さで死んだはずの姫さんだろ?」翌朝、彼女は消えた。
(2023.1.4)


幼い頃、不思議な友達がいた。空を飛んだり雷を落としたりできるのだ。今にして思うと、私があの子と遊ぶのをよく母は止めなかったものだ。「ママー! 友達ができたよ!」ある日、幼い娘が友達を連れて帰ってきて、わかった。優しい子だとよく知っていたからだ。かつて自分が友達だったから。
(2023.1.3)


初めて君に逢ったのは十三の歳。君はいつか名探偵になるのだと言った。僕にはわかった、君は確実にそうなるだろうと。そしてもう一つわかった、僕に選択肢が突きつけられたことを。相棒として君を支える者になるか、敵として君に挑戦する者になるか。君に一番近づけるのはどっちだろう?
(2023.1.2)

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