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140字小説(ついのべ)/ゴミ捨て場で人型執事ロボットを他15作

2023年1月後半の140字小説(ついのべ)15作です。1作だけ続き物が混じってます。


ゴミ捨て場で人型執事ロボットを拾った。顔を拭いてあげたらダンディな紳士の顔で、「初めまして、新しい旦那様」と挨拶された。足の電子系統が完全に壊れていて歩けない彼を背負って持ち帰った。今は僕のスケジュール管理その他をしてもらっている。古い車椅子を乗りこなしながら。有能だ。
(2023.1.26)


「若い頃、山の神様に見初められたことがあってね」祖母が言う。「私はただの人間だから、いずれおばあちゃんになって嫌われるのが怖いからって、振ったの」縁側に知らない人が座っている。とても綺麗な。「そしたら今頃また来たのよ。既におばあちゃんなんだからもう怖くないだろうって」
(2023.1.20)


友人はときどき僕に書きかけの小説を押しつけてくる。いつも怪奇物なのだが、趣味ではないので、僕は論理的に説明されたミステリとしての結末を書き加える。「なぜいつもこんなことさせる?」「練習さ」ある日、友人が僕を訪ねてきた。本物の怪異を背に。「さあ、論理的に俺を助けてくれ」
(2023.1.30)


彼は、立派なお屋敷の広大な庭の隅の小さな離れに住んでいた。れっきとした主人なのに。屋敷には幽霊が出て五月蝿いのだそうだ。「大事なものは全て屋敷内にあるが、不便はないんだ。銀行の利子で暮らせるし」紅茶を片手に優雅に語る。「泥棒は抹殺されるから」屋敷の方から悲鳴が聞こえた。
(2023.1.29)


夫が帰宅する。「お帰りなさい、今は誰?」「タカシです」「じゃあユイに変わるね」とたん妻は笑顔になる。「ヒロが唐揚げ作ってくれたの」「うまそう」夫も妻も多重人格者である。相性の合う人格も合わない人格もいる。ただ、皆、普通に生きるための仲間であるという認識は共有している。
(2023.1.28)

続)休日、夫と妻はときどき手を繋いで出かける。仲のいい夫婦だと思われている。実際には、多重人格者である二人の、夫の中の中年女性『ママ』と妻の中の『幼児』だったり、二人の中にそれぞれいる女子高生二人組だったりする。何にせよ楽しく遊んでくる。この社会で生きる力を溜めるために。
(2023.1.29)


戦争ロボットが戦闘不能に陥った場合、取り替えのきく身体部分は捨てても、機密情報の詰まった頭部だけは自軍で持ち帰る決まりになっている。今回、一体のロボットが判断回路に損傷を受けた。彼は味方が全て戦闘不能に陥ったと認識した。そしてロボットと人間の区別ができなくなっていた。
(2023.1.28)


なぜ古本屋かというと商品が腐らないからだ。客が来るあてもないのに飲食店は無理。新刊は出ないから古本。発電機で、暗い街でこの店だけが煌々と明るい。人の滅びた街で、彼は一人で古本屋を営む。街の外にきっといる人類の生き残りがいつかこの店に来るのを待っている。商品を読みながら。
(2023.1.25)


勇者として選ばれるために必死で努力してきた。ついに数多の候補者を退け、勇者の称号を得て、王宮の謁見の間にたどり着いた。「勇者よ、おぬしならきっと魔王を倒」最後まで語らせなかった。俺は俺の剣をふるった。俺がずっと倒したかったのは、圧政を敷く人間の王だ。俺は高らかに笑った。
(2023.1.23)


同居している人外が喪服で現れた。「葬式か?」「古い友のね」そう言って出かけたと思ったら慌てて戻ってきて、「間違えた、彼はこっちだった」と、パーティー向きの華やかな衣裳に着替えてきた。「彼が恋人に再会できるお祝い会なんだったよ」長命すぎるといろいろあるんだな、と思った。
(2023.1.22)


「しばらく旅行するから、うちの犬とか猫とかの世話をしてほしいの」独り暮らしの叔母に頼まれた。動物は好きだから犬も猫も問題はなかった。問題は『とか』の部分だった。この異様に懐いてくるこれは、生き物なのか、まさか妖怪なのか、何なのか。叔母はちゃんと帰ってくるのだろうか。
(2023.1.21)


「君は名探偵なんだよ」僕には自分の記憶が何一つない。「君ならどんなトリックも解けるよ」過去に起きた難解な事件の詳細を聞く。確かに僕にはすぐわかった。犯人がどうやって不可能殺人を可能にしたか。説明すると相手は喜んでくれた。僕は名探偵なんだと思うと嬉しくなった。 牢の中で。
(2023.1.20)


友人が飼っているのは猫だとずっと思っていた。前の冬の寒波に、野良だったのを何とか家に迎えたと言っていたから。だが見せてくれた画像は鉢植えの植物だった。「説得するの大変だったんだよー。無理に抜いて悲鳴をあげられたら、こっちが死んじゃうからね」それはマンドラゴラだった。
(2023.1.19)


一族の当主が死ぬ前に描かせた肖像画は少々変わっていた。中央に当主その人が座り、周囲に空の椅子が並ぶ。やがて次に当主の座に着いた者は、前当主の遺言に従い空の椅子の一つに自らを描き加えさせた。そうやって椅子は埋まっていき、ついに空の椅子がなくなったとき、一族は滅びた。
(2023.1.18)


百年ぶりに喚ばれた! はりきって飛び出したランプの精が見たのは、暗闇の中に座る人々の困り顔だった。「ランプに戻ってくれないかね」「電灯は目立つから駄目なんだよ」遠くで爆撃の音が響いている。「ランプの小さな光をご所望で?」そうだよと人々が頷く。優しく静かで、あたたかな光を。
(2023.1.16)


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