花組公演「冬霞の巴里」感想ーアンブル編-

アンブル

アンブルのお芝居はすべてを覆す。私が初めて冬霞を観たとき、なにが誰がどう考えどう思ってるかまったく分からなかった。言葉にできなかった。アンブルがいたからこそ私はこの作品に踏み入れられた。そんな気がする。

アンブルのお芝居も大好きだ。

まず、冒頭、影絵の話から。オクターヴの憎しみの持ち方はじわじわゆっくりであったのに対してアンブルはグサッと刺さる感じであった。

きっとこの時から二人は二つで一つになったのだろう。

登場シーンから彼女は溢れんばかりの憎しみを抱いていた。彼女が母に向ける目がとても怖かった。女の恨みという感じのあの目は忘れられない。そして復讐の炎がどんどん燃えていく昼食会。

勢いを増した炎は消えることなく続いていく。怖いくらいに激しく燃え上がる。

そしてラストオクターブが復讐を遂げる場面に移る。母達がなぜ父を殺したのか。それは父が「貴族の称号を………」と知らされたとき。

その瞬間、燃え上がっていた炎が一気に消えた。炎が存在していたことが信じられないように。そこには広く大きい湖が視えた。あったのに、そこにあったのに、無い。魔法みたいに消えた。      誰かにそこに炎があった!燃えていたんだ!そう言ってもそんなのあるわけないって笑って相手にしてくれないだろう。消えた。そのものすべてが消えた。

そして、

「こんなにも壊してほしくはなかった。」

彼女は父を殺した母達を理解し、でも自分たちの幸せだった生活をこんなに壊すことはなかったのではないかと問いかけている。

からのオクターブへの「ごめんね」

彼女は父を殺した母達を憎みそれがゆえに弟を巻き込んでしまった、苦しませてしまった後悔が含まれるのではないかと思う。

自分が憎しみに巻き込まれていたこと、自ら自分の幸せを手放していたこと、アンブルは全部気が付いたのだろう。

「本当の事は誰にも分らない。」

言うのは簡単であるこの言葉。理解して言葉にできるのは彼女だけだったのではないのか。

もしかすると、本当の主役はアンブルなのではないのか?

オクターヴが爆弾により怪我をし、ジャコブさんが手当てする場面で「最も彼女(アンブル)は父親と血が繋がってると思っとるがな」というセリフを口にする。彼女は、オクターヴは父親が他で作った子供だと知っていた。しかし、自分が父親と血がつながっていないことを知らなかったのではないか。彼女はイネスが死んだあと父親がそんなことを口にしていたことも彼の人となりも知らなかったのではないかと感じた。

では、最後に彼女は弟と血がつながってないことを知ったのか、もしすべてを知ったのなら、彼女はなぜ兄弟であるという選択を選んだのか。気になる。



そうか。彼女は霞ませたんだ。事実、自分の弟に対する想い、私達が出した真実、すべてを明らかにせず、霞ませた。

彼女は冬霞で霞ませたすべてを置いて巴里をはなれ生きていく。




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