花組公演「冬霞の巴里」感想ーオクターヴ編-

オクターヴ

私がこのオクターヴを観て感じたことは

怖い

だった。

あの人が何を観せようとしたのかがわからない。考えれば考えるほどいろんなオクターヴが見える。きっとひとこさんは、こう!と決めて演じていないと思う。決めてたこともあるはず、伝えたいこともあるはず、だけど、大部分は観客に解釈を委ねたのだろう… 

わからない何もわからない。

わからないが怖い。答えがないのが怖い。

考え歩きいろんなオクターヴに出逢い、彷徨い、ふと見たげたらそこは深い霧。呆然としているとだんだんと霧が深くなって前も後ろもみえない。このまま歩き続ければきっと素敵な世界を魅せてくれるのは分かってる、知ってる。

だけど…だけどこの足を踏み出したらそこには底がなくて突き落とされてもう帰ってこれない。そんな気がして足が震えて怖い。

だから、自分の心に蓋をしてこの世のものあの世のもの形あるもの無いもの全てに見つからないようにじっと息を潜めてしゃがみ込んでいる。

いつか、いつか、ひとさんのお芝居を観てまた歩き出せるから。大丈夫と信じて。

では、私が出逢ったオクターヴを語りましょう。霞となりつつある記憶を手繰り寄せて……

心がないオクターヴ

彼の中にいる本当の彼はどこにいるのか。

まず、洗脳というものを感じた。彼と父親との会話は多くの場面で出てくる。彼は自分の父親が優しいと、そして自分が将来父の会社を継ぐという生活が絶対的な正だと感じていた。

だからこそ真実を知ることこそが正義になった。

そして姉のアンブルを通してみる。もしもアンブルが本当の主役としていたのなら、彼は姉によって復讐に巻き込まれたのではないか?姉によって振り回されているオクターヴ。

ジャコブさんとの会話「死んだ者の想いをくみ取る」父の為、姉の為、自分の為に復讐をしている。本当にそうなのか?本当に自分の為なのか。彼の心はどこにあるのか。

ひとこさんがおっしゃっていた幼き自分と父との約束が復讐。では、彼の心は復讐にあるのか?きっと彼は自分の心はそこにあると信じ生きてきた。でも、でも、実際はそうじゃない。心がないこと、気づかないまま生きてきた。

だからこそ、イネスの「自分の心に従う」というセリフが頭の中で離れないのではないか。

ヴァランタンの「本心に従うと…」これはヴァランタンの目線のヴァランタンの言葉。

でも、彼から見たら?彼の目線から彼の立場から見ると…ヴァランタンの言葉が離れなかったのではないのか?だから何回もこの台詞がでてくるのではないのか。

イネスの言葉、ヴァランタンの言葉は彼に刺さる。

ラストの場面。きっと彼はそれに気がついた。自分の心がどこにもないことに。

彼の心はどこにあるのだろうか。心がない人なんているのだろうか。

最後に彼がしっかりと心を持って生きていたのは感じ取れた。どこで見つけたのか、はたまたずっといたのか…わからない。

優しいオクターヴ

きっと彼は優しすぎるのだ。

姉が怒りを抱くとき彼は姉に「違うよ」と言っている。そう、違う。

シルヴァンのことも心配していた。彼は人を分け隔てなく人としてみていた。

父の想いをくみ取り、姉の想いを知り、出逢った人たち皆を心配する。優しすぎるがゆえに弱く脆く強い。

家族を殺された被害者の自分。殺した加害者の自分。両方の立場に立った彼は何を思ったのだろうか。

そして、誰にでも優しい彼は真実を知ったとき惑う。 

自分の優しさが優しさであるのか迷う。周りを感じ、すべてを自分一人で受け止めようとしたその優しさは自分の自己満ではないのかと感じる。

誰にでも優しいってことは矛盾が生じる。実際人との関係でもそう。色んな人に優しくしていたときのあの人とこの人が喧嘩したときの気まずさだよ…そして省かれるのはいい顔していた自分らしい…

話がズレましたが…まぁ、優しさの領域がわからないからこそ言っちゃえば自己満。

そして彼の姉さんへの優しさは一番大きい。そのなかで姉さんが自ら歩き出した、自分の優しさから離れて。

その上にのしかかる、自分の信じてきた優しさの道、父さんへの想い。違っていたなら…じゃ、なんの優しさであったのか。

なんのために生きていたのか、そして生きていくのか。わからなくなったから誰かに命じてほしかった。自分がどうすればどうして行きていくかが見えなくなったから。

周りをみて、周りのために生きた彼。これからは、自分を見て自分のために生きてほしい。

復讐に燃えるオクターヴ

ヴァランタンの下宿の紹介場面。

きっとオクターブはその生活に初めて出会った。お金持ちの家の子、かつ、復讐心に燃え周りがみえていなかったから。そして、その生活でもいいと思った。始まらない終わらないそこにいてもいいんじゃないかと。

でも、新聞をみてそこにある復讐心が沸々とする。

復讐してやるんだと…

だから、ねぇさんに「復讐する気がなくなった?」と聞いた。だって、似た者同士ですもの。

そして、食卓のシーン。ここでもこの生活に満足している。

引き金を引いたのは「オーギュストもそうだった…」

ここからまた底にある復讐心が沸々と…

彼の中にはずっと沸々といて一言一言によって出てくる。こういうところの細かいお芝居はひとこさんの得意分野!と勝手に思っておく。見えないものが視える…どうしたらそんなお芝居、できるのだろうか。好きです。

エルミーヌとの焼き栗売り場面。

笑顔だけど…やっぱり心の底には消えない復讐心があるんだ。優しい彼女、優しくしてる自分、そんな世界にいたいけどそれはできない。

だからこそ「優しいのは苦しい。」

そして「君と同じ世界にうまれていたら良かった。」

姉さんと違い彼の復讐心は結末をこえても無くなることはない。消えてもそこにしっかりとあったことが確かめられる。そしてその上に立ち生きていく。ラストの場面はそんな姿が見える。

姉さんとは違うお芝居。ひとこさんのお芝居。好きです。

覚悟がないオクターヴ

彼は弱かった。覚悟がなかった。

「俺の正義」と言いながら怖くてたまらなかった。

冥界へ入っているようで入ってなかった。

殺せるつもりの覚悟を持っていたけど持っていなかった。

この彼の覚悟が決まるのは終盤、ヴァランタンによって…

このときの声が好きだ。覚悟の決まったひとこさんの声。大好きだ。

ブノワを殺したときに冥界へと入ったようにみえて実際は入ってなかった。冥界への扉は開き、あとは踏み出すだけなのに、そこでぐるぐる回ってる感じ…その扉をくぐったのはまさしくヴァランタンがいたから。彼がいたからこそオクターヴには覚悟ができた。

そのままでも良かったんだけどね。もう、その扉の前でずっとウロウロしていてほしかったよ。私は。

過去に囚われたオクターヴ

姉さんの為。父さんの為。そんなことをいって生きている。そうでなくては生きていけなかった。

彼が最も囚われていたのは“幸せな家庭”

幸せになりたい、幸せな家庭がほしい。

幸せな家庭とはあの頃…あの頃に戻りたい。あの世界へ。

なくなったものは戻ってこないのに…過ぎた時間は取り戻せないのに…

そのために姉のため、父のためといい生きてきた。生きる希望だった。彼が過去にとらわれていると気がついたとき…何も見えなくなった。

何も見えなくなった彼の瞳でもヴァランタンだけは視える。

あぁ…やっぱり彼らは似たもの同士。

きっと二人だけの領域。私達が踏み入れるなんて不可能な領域。わからない。少しもどかしいけど少し安心する。

彼にはヴァランタンがいたのだから、ヴァランタンには彼がいたのだから…よかった。

オクターヴの目と声

まず目。

オクターヴの目。復讐のあの目は好きだ。じっと先を見据え、揺らぐことなく、きらきらとした惹きつけられる瞳。私はあの目をそらすことなくじっと見つめて彼の心の中を考えるのが好きだ。たどり着くことない答え。でも、少しだけ触れることができる。触れたれたときの喜びはこの上ないものである。

そして、

「オーギュストが悪だくみを命ずる目だ。」

その通り。あの時目が光った。漫画のように、アニメのように。キラリと光ったのだよ。なんで目だけでここまで世界を作れるのか。すごいよ。ほんとにすごいです。

そして、今回新しい目を見つけた。

ミッシェルに向ける目だ。

表情、息遣い、目線、全てが合わさった、あの目。オクターヴにとってはミッシェルは羨ましい相手。でも、あれは

『ミッシェルの腑抜け顔に虫唾が走っただけだよ』

ではないですよね。何を思っていたのか、言葉にしたいのにできない。きっと彼の感情が言葉にできないのだろう。だからこそこちらも言葉にできない。なんだかむず痒くて、もどかしくて、そして、私の心を捉えて離さない。何ですかあの目は。

次に声。

今、私は声のお芝居にはまっています。声のお芝居の始まりは、哀しみのコルドバのロメロさんの「ありがとう」、そして元禄バロックロックのクラノスケの復讐を語る声で油を注がれ、笑う男でとどめを刺された。あの、計算された声のお芝居が好きだ。

だからこそ声に注目してみた。

そして、声のお芝居を求めたのだが、オクターヴは面白いくらいに感情のお芝居であった。だが、これもまた面白い。

計算ではない感情で左右される声。役と感情が重なったときの声はたまらなく最高でした。

姉さんへの彼そのものの声、ヴァランタンへは心からでる素直の声、二幕始まりの声は覚悟を持ってるようで持ってない落ち着いた声で迷いほんの少し震えている。そして、覚悟を持った時の復讐に燃える声。

最後に来るのは

「どこから何が間違っていたんだ。」

「教えてくれよ」

「命じてくれ」

彼の心からの嘆きのような声。今までのすべてが詰まったあの声。好きです。

全部違う声なのに全部オクターヴ。 

全部ひとこさんの声。

好きです。


結論

結論としては私はひとこさんのお芝居が好きなんだ!それ以上でも以下でもない。ただ好きです。ひとこさんが魅せてくれる世界がたまらなく好きです。それだけでいいですよね?ひとこさん。







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