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一行怪談創作集『観覧車のゴンドラが一つ消えた』

試しに自分のツイに「いいね」をすると、「ありがとう」と自分からダイレクトメールが届いた。

「さて、そろそろ帰宅かな?」と学校帰りの娘の居場所をGPSで確認したら、ロシアとモンゴルの国境辺りに矢印マークがあった。

ビートルズの曲がフェードアウトして静まり返ると、スピーカーから love……、peace…… とささやくような男の声がする。

おみくじの余白に、「その手は食わない」と薄く書いてある。

ハチ公前のスクランブル交差点に、スペースインベーダーのようにぞろぞろと人が溢れだし、光を放って次々と消えた。

面談場所の地下室へ行くため指示された螺旋階段を下りて行くと、バタンと急にドアが閉まり暗闇となった。

たくさんの集合写真を一度に見ると、なぜか怖い。

ライブ配信中の無音のブラックスクリーンに、コメントだけが永遠と流れている。

目の前を猛スピードで通り過ぎる通過列車の乗客のうち、3人と目があったが、全員同じ人だったような気がする。

鉄塔の送電線にぶら下がり、足をばたばたさせている男の映像が一瞬テレビに映り込んだ。

大物だと思い、思いっきり竿を引き上げたら人の顔だった。

廃校の美術室にある書きかけの肖像画が、毎日少しずつ僕の顔になっている。

料理教室の生徒が1人減るたびに、巨大な寸胴が1つずつ増えていく。

深夜の夜景スポットで、見知らぬ男に「この女性を知りませんか?」と虚ろな表情の女性の写真を見せられ、気味が悪くなって「知りません」とその場をやり過ごそうとしたら、「あなた知ってますよね、ほら、後ろ」と指をさされた。

陸上男子100mで、決勝進出者8名の中にはいない第9レーンにいる選手が、ぶっちぎりの5秒でゴールしてそのまますーっとレーンから消えた。

側溝に転がり込んだ野球ボールを取ろうとして無理な姿勢で奥に手を入れると、いきなり手首をつかまれた。

力まかせに大根を引き抜くと、真っ白な腕が出てきた。

深夜の公衆トイレで、「こんにちは」という少年の声と走り去る音が背後から聞こえたので、急いで外に出てみると地蔵が立っていた。

男芸人3人だけの旅番組なのに、なぜか1人の女性がずっと付いてきていて、結局誰もその女性に触れないまま2時間の番組が終了した。

寺の古文書によると、私の家の裏庭に、昔、落武者の八つの墓があったらしい。

周りの一軒家より半分以上家賃が安いので、ストリートビューでこの家の住所検索をしてみると、規制線とブルーシートで家が覆われていた。

「俺に近づくな」とTシャツにプリントした男が、俺に近づいてくる。

人を掻き分けこちらに向ってくる黒い影が、通りすがりに「次はお前だ」と言った。

摩天楼最上階の熱帯夜、寝付けないのでシャワーを浴びようと浴室に行くと、エゾ鹿が水風呂を浴びていた。

暑苦しさと悪夢にうなされながら目覚めると、トドがその辺をあさっていた。

一人カラオケなのに、誰かがハモってくる。

一人カラオケなのに、誰かが次の曲を入れてくる。

一人カラオケなのに、勝手に唐揚げが注文されている。

一人カラオケなのに、盛り上がる歌を選んでいる。

一人カラオケなのに、最後はみんなで大合唱となった。

心霊スポットに行く途中道に迷ったので、勝手に動き出したナビの通りに車を走らせた。

ヘリコプターから見下ろす高層ビルの模様に違和感があったので、なんだろうと双眼鏡を覗いて見ると、たくさんの人間が壁にへばり付いていた。

孤独に死んでいった男の周りに、多くの人が集まっている。

念願かない、やっとの思いで迎えた紅茶喫茶の開店初日に、店内を見回しながら一番乗りで入って来た品のある年配女性が、「ここ……霊気の流れが悪いわね」と窪んだ眼を私に向けた。

今日3時50分から、『宇宙の神』と題された講演を校長先生が行う予定。

授業中、突然先生が「祟りじゃ、祟りじゃ、校長の祟りじゃ!」と叫びながら、どこかへ走り去っていった。

吸い込まれそうな視線を感じて振り向くと、こちらを見ている男の目の、白目と黒目が逆になっていた。

露天風呂の白い湯気の向こうに黒い影が見えたので、湯につかりながらそーっと近づいてみると熊と目があった。

自分の顔が二つに割れて、片方だけが海に深く深く沈んでいく夢を、たまに見る。

夜中に山道を歩いていると突然目の前に女の子が現れ、「鬼ごっこしてるの」と言って暗がりに消えた。

若くて綺麗な女性の霊が取り憑いていると霊能者に言われたが、なんだか悪い気はしない。

一つだけ手だけの吊り革が見える。

新幹線が八甲田トンネルに入った瞬間、轟音で震える窓にパタパタと無数の手のひらが貼り付いた。

誰もいない駅ホームの白線に立つと、後ろから誰かが押してきた。

戦時中に人知れず消えた廃線から、汽笛の音がたまに聞こえる。

会社帰り、規則的に光が並ぶプラットホームの薄暗い先端に、いつも人の気配を感じる。

混んでいる一号車の前になぜかもう一つ一号車があったので、それに乗り込むと「乗ってはいかん、君はまだ若い!」と言う乗客の顔が半分消えていた。

古着屋で買った一万八千円の中古ジャケットに初めて袖を通すと、一瞬誰かと手が触れた気がした。

朝起きると、ツイッターのフォロワー数が2件から127万4865件になっていた。

家族との湖畔キャンプで撮影したホームビデオに、行ったことのない恐山の湖が数秒だけ映っている。

楽しそうな歩き遠足の園児たちの後ろに、旧日本兵の列が続いている。

観覧車のゴンドラが一つ消えた。

朝、陽光に光るレースのカーテンをふわりと開けると、サイリウムを両手に持ったサラリーマン風の男が、一心不乱にロマンスを踊っていた。

二十歳になった友人が、ムシキングのカードをいまだに集めている。

先祖代々、霊媒師だったという私の家の裏庭に、無数の枝が空高く伸び、苦痛に歪んだ顔にも似た木肌の松の木が、一本だけ生えてある。

深夜2時、隣で寝ていた旦那が「おっ、おっ、俺を……、こっ、殺してくれ!」と突然悶え始めた。

深夜3時、隣で寝ていた旦那が「アイラービュー、アイニージュー……」と再び悶え始めた。

踊りや御輿に和太鼓と、昨夜あれだけ賑わっていた商店街が、今朝来てみるとダムになっていた。

誰に聞いてもわからないという人物が、卒業アルバムに一人だけ写っている。

小池旋風が吹き荒れ、突如、橋下徹が総理大臣となった。

一匹の子猫を追いかけ誤って入った人家の庭から、リーゼント姿の強面の男がカッター片手に追いかけて来たので、全力で逃げて角を曲がると、「君、待ちなさい」と二人の警官が男を追いかけていったその一部始終を、子猫が見ていた。

「今日は刺身よ」と突然母が鰹一本まるごと食卓に抱え上げ、見たこともないでかい包丁を取り出して、その胴体にブスリと刺した。

付き合って初めての深夜のドライブ、林道を運転していた彼がふいにラジオを止めて、「知ってる? 童謡ってけっこう怖いんだよ……」と言って『とおりゃんせ』をゆっくりと歌い出した。

寝静まる新宿格安ホテルで、明日の書類を鞄に整理し、目覚ましを6時にセットしてライトを消すと、「君、止まりなさい、君止まって、おいっ止まれ! 止まれって! 止まれって言ってるだろ、このバカヤロー!」と外から聞こえた。

「来ちゃだめ!」「なんで?」「あなたはここに来ちゃだめなの」「私も行きたい」「だめ、ほら来たよ、早く帰って!」
「いたぞ!」「えりちゃん!」
― 30年前、林間学校で迷子になった私はそうして無事、保護されたのです。

庭で息子と芋掘りをしていると、突然後ろに見知らぬ男がきて言った。
「昔、ここに俺の墓があったんだ」

「俺、彼女できたんだ」 と健治が僕に見せた写真は、明らかに女装した健治の写真だった。

追伸 今私は、あなたの後ろにいます。

キン、コン、カン、コーン……
「こちらは、広報ふれあいです。本日午後5時頃、45年前に行方不明になった佐野山富貴子さんが、お岩山の山頂付近で、無事保護されました…………
繰り返します……

この記事は、決して一人で見ないでください。

(了)

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