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ブラックユーモアを切り捨てないで(1892字)

私は昨今の「人を傷つけない笑い」の風潮があーんまり好きではない側の人です。
でも「人を傷つけない笑い」自体は好きです。悪が存在しない、心温まる笑い。例えるならかが屋。
それに、「人を傷つける笑い」を是としたい訳ではないんです。

でも、「傷つける笑い」と「ブラックユーモア」を一緒にしないで。と思う時があるのです。

私なりに気になること、 思うこと、書いてみます。

私のブラックユーモアの原点、「笑ゥせぇるすまん」

ブラックユーモアを語るなら外せない作品。
笑ゥせぇるすまん、私が出会ったのは高校に入ってからです。

応援してたダンサーさんが「Don't」(笑ゥせぇるすまんNEWのOPテーマ)を踊ってましてね。せっかくなので貼っておきます。

まともに知ったのはそこからです。

昨今のアニメとはだいぶん毛色が違う昭和の世界に衝撃こそ受けましたが、私もそれを楽しめるぐらいの精神年齢にはなっていたのだと思います。

ここで私の好きなお話を。
公式で上がっている原作のアニメの方が私はお気に入りです。

※ネタバレ上等でございます※

離婚倶楽部

現在公式の公開はないようなので画像だけ。

主人公の福水 凡(画像左)は、結婚したはいいものの子宝に恵まれず、妻と義母から陰で散々に言われているのを耳にする。

堪忍袋の緒が切れた福水は離婚を切り出し妻と縁を切る。
そして喪黒に教えられるがまま、「離婚倶楽部」というパーティーへ繰り出すのだった。

オチとしては、そこで出会った美女(画像右)は実は男性だったが、変わらぬ想いで愛し合い共に暮らした、という感じ。

個人的に、種無しなんてワード今じゃぶどうにしか使わないだろとか思いました。衝撃でした。

藤子不二雄A先生がこの話の中に描かんとしたのは誰に対する皮肉なのだろうか。
この話は笑い話なのか、ハッピーエンドなのか。
最後のシーンの喪黒の表情は何を示唆するのか。
昭和から令和にかけてLGBTQのあり方の変化を感じ取れるのでは。

このあたりを考えるのが面白いのです。

ブラックユーモアとは

私はブラックユーモアに以下の2つの側面があると思っています。

  • 知的興奮を利用した笑いの一種

  • 触れづらい問題に触れるための手段

まず1つ目、ブラックユーモアは「本来触れるべきでない話題」への前提知識を要し、それに触れることへの背徳感や笑ってしまうことへの罪悪感を含みます。

だからこそ笑いにありつくまでの過程を踏む必要があり、そこで作り手の思惑を垣間見るのです。"解る"喜びだと思います。

2つ目、ブラックジョークで扱われるのは過去の事件や社会問題、芸能人のスキャンダルなど、センシティブで忘れてしまいたいような、古傷を抉るようなものも多いです。

でもそれを教科書的に過去に仕舞い込むと、その事柄と第三者との距離はとても大きいものになるかもしれない。リアリティのない「歴史」でしかなくなってしまうかもしれない。

真の理解と教訓には、受け手の興味が必要です。悲劇を多角的に捉え、悪事を多方面から見ようとする。そんな思考を誘うには。

そこにじっとりとした笑いがよく合った。
沢山の表現者が見出したひとつの手段なのだと思います。

「傷つける笑い」とは

「傷つけない笑い」という概念がある一方で、あらゆる笑いを「傷つける」ものと「傷つけない」ものに二分できる訳ではありません。

当然です、傷つくかは人それぞれですから。

痛烈な皮肉が含まれていても、その前提知識がなければ傷つかない。何らかの被害の当事者でないと実感が湧かない。前提知識がしっかりとあり、作り手が本当に伝えたい悪と教訓を汲み取れていれば、傷つかない。

だから、傷つく場合はこの逆のはずです。

前提知識があるから。当事者だから。知識が浅く、作り手の真意が汲み取れないから。

こうして聞き手を選ぶ笑いである点が、時に物議を醸します。

と、ここまでは「ブラックユーモア」と呼べるものについて。

私の思うに、本当の「傷つける笑い」は「明確な悪口」や「権利侵害」、「特定性のある侮辱」などなのではないでしょうか。

相手の見える悪意。極めて主観性が強く、作り手と他者の対面構造が見えるようなもの。
これにはどうも不快感があります。

これらを同一視してほしくない、と私は思うのです。

さいごに

この手の論争になると、時にブラックユーモアを「当事者のことを考えない酷い笑いだ」と言う人が出てきます。

ですが私は、必ずしもそうではないと思うのです。

事象を俯瞰し、受け止めた上で考えさせるための手段としての笑い。
多角的に捉えて笑いの根源を探る営み。
それを面白がりたいのです。


どうか、なんでも統制するだけの世の中になりませんように。

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