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コント「犬」(1739字)

好みのコントが書けた気がします。


A「はぁ。また駄目だった。私はいつも失敗ばかりだ。今日だって、徹夜して仕上げたプレゼンは取引先に『実現性に欠ける』とかなんとか言って一蹴されたし、そのせいで部長にこっぴどく怒られたし。そのことを友達にLINEで愚痴ろうと思ったら誤爆して部長に送っちゃったし。帰りの電車でなぜか女子高生に睨まれたし、お惣菜のコロッケをレンジであっためようとしたらビショビショになっちゃったし。だからこうやって、深夜誰もいない公園でぼーーっとしてる時が一番幸せ。」
B「ワン!」
A「ん?」
二人の目が合う。
B「ワンワン!犬だよ!」
A「…なんだ犬か。はぁ、どうして私はこうも…」
B「???ワンワン!!ワン!!」
A「うるさいなぁ犬!」
B「…受け入れ早くない?」
A「受け入れってなにが」
B「いやその、私を犬だと仮定するの早くない?」
A「は?自分で犬って名乗っといて何言ってんの」
B「犬が犬だと名乗ることへの違和感とかないの」
A「考えもしてないよそんなこと」
B「てかあなた今犬を見上げてるんだよ?犬見上げることなんてそう無いよ?」
A「仁王立ちしといて何を言う」
B「…ワンワン!」
A「思い出したように鳴くな」
B「ワンワン!ワン!ワワン!」
A「日本語でお願いします」
B「問題!私はここまでで何回“ワン”と言ったでしょう」
A「知らないよ、タイムショックかよ」
B「え、タイムショックって何?」
A「なんかあんじゃんテレビのクイズ番組でさ、こう、楕円形のゲージみたいなのがあってその真ん中に回答者がいてさ、クイズ答えてくみたいな」
B「なんか説明下手だね」
A「ぐはっ」
B「全然イメージ湧かない」
A「ぐはっ」
B「もうちょっといい説明ないの?」
A「ぐはっ…もう…やめて…私のライフはもうゼロよ…」
B「それ自己申告することあるんだ」
A「私の傷を抉るなよ犬のくせに、今日散々取引先と部長に言われたことをまた…はっ、犬お前もしかして…部長か!?」
B「違うでしょ、顔見たら分かるでしょ。あと犬のくせにってなによ」
A「犬のくせにちくちくしたこと言わないでって話。犬はワンワン吠えてりゃいいんだからお気楽だよね」
B「ワンワン!!ワンワンワン!!!」
A「あぁ、もういいもういい、めんどくさい」
B「ところで、なんでこんな時間に公園のベンチなんか座ってるの。危ないんだから家帰りなよ」
A「余計なお世話ですー。別にどうだっていいんだよ、私のことは。」
B「どうだっていいなんてことはないよ」
A「なんで」
B「…実は私、普通の犬じゃないんだよね」
A「そんなことは初めからわかってる」
B「私も昔は人間だった。普通に学校出て、就職して。でも就いた会社が超絶ブラック企業だったの。毎日残業、休日出勤。有給なんてあってないようなもの。だから、会社の犬になった。でもある時、そんな自分がみじめでたまらなくなって、会社も、社会もろとも抜け出したの。だから今は、ただの犬。」
A「ちょっと何言ってるか分からない」
B「ニュアンスだけでも汲み取って。そんなこんなだから、あなたの魂の抜けた顔が昔の自分みたいに思えてね。」
A「ふぅん。そもそもあんたこそこんな時間に何してたの?家は?仕事は?」
B「なーんにもない。目的も、家も、仕事も。だって、そもそもみんなからは見えてないし。」
A「え?」
B「おばけ。」
A「えっどこどこ!?おばけいんの!?こわいこわいこわい」
B「違う違う、おばけはここ、私。」
A「なんだあんたか…ってえええ!?あんたおばけなの!?」
B「しーっ!!今深夜!!近所迷惑!!」
A「おばけがご近所さん気にしないでよ」
B「気にするよ…。とにかく、犬のおばけからの助言です。心して聞きなさい。」
A「はぁ、」
B「私は、犬になったことを後悔してる。まぁ犬の身も悪くはないけど、できるならもっと人間でいればよかったって思ってる。だから、あなたも人間である自分を、もっと大切にした方が良い。」
A「なるほどね。確かにそうかも。よーし、じゃあ奮発してコンビニでケーキ買って帰ろ!」
B「そうそう、その調子!」
A「ところで犬になる前の名前ってなんだったの?」
B「わん子。田中わん子。」
A「嘘だぁ」
B「嘘だよ」
A「もう、そんなつまんない冗談犬も食わないよ。」

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