思い出の鳥、キセキレイ(770字)
バイトで失敗してちょっとしょげながら歩く帰り道、ふと前方に野鳥が飛んできた。
私と鳥との間に生まれる絶妙な距離。一定の間隔で少し追いかけっこをしたのち、互いに少し止まり、すぐに飛び去って行った。キセキレイだった。
励ましに来てくれたのかな。
いつもキセキレイを目にするとラッキーな気がして嬉しくなる。なんせ名前に奇跡って入ってますから。由来は黄・セキレイだけど。
実はキセキレイは私が野鳥好きになるきっかけとなった鳥だった。
中学生のころ、母と温泉に行った帰り道。母の運転する車が橋の上で赤信号で止まり、私は窓越しに見える欄干とその先に流れる穏やかな小川を眺めていた。
するとどこからか鳥が飛んできて目の前の欄干に留まった。
黒い背にひときわ映えるレモンイエローのお腹をしたその鳥は、くるくると体を反しながらそこに佇んでいた。
水浴びをしてきた後だったのか、翼は少し水滴を弾いていた。
その姿は当時の私の目には、とかくスタイリッシュで優美で、可憐に映った。
どのシーンも、モデルがポーズを決めているかのように画になる。
つぶらな瞳に入る小さなハイライトまでが印象的だった。
こんなに美しい生き物がこんなに身近にいるのかと感動し、帰宅早々名前を調べたのを覚えている。
のちに描いたキセキレイの絵がちょっとした賞をもらったのも、思い出深い。
あれ以来家の近くでもよく見かけるようになったが、それはキセキレイが来るようになったのではなく、私が気づけるようになったのだろう。ずっと前から近くにいた存在だったのかもしれないが、認識して意識するようになって初めて気づけた命である。
人生はそういう出会いの連続なのだろう。
そしてこの間、ずっと鳥たちから見た私は特に何でもない他の生物でしかなく、何をどう悩めど、愛せど、知りもしない。私はそれが心地よくて仕方ない。愛おしき鳥、美しき鳥。
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