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【分解する物語(8)】一意分解条件

簡約条件を満たす可換な単位的半群において、素元は既約元であった。しかし、一般には素元でない既約元がある。今回は既約元分解可能な状況においては、既約元がすべて素元(素元条件)であれば分解の一意性(一意分解条件)が従うことをみよう。そして逆に一意分解条件から素元条件が従うこともみよう。素元性が一意性の根幹部分になっていることがわかる。

さらに一意分解条件とは、零元以外の任意の元が素元の積に分解されるという条件(素元分解条件)に集約される。

今回によってこれまで登場した概念たちの論理的関係が結びついて、可換な単位的半群の分解ついてのひとつの結論を得る。

1.定義

まずはここまでに出て来た条件を思い出し、素元条件、一意分解条件、素元分解条件の3つの条件を新たに定義しよう。

(I)簡約条件
可換な単位的半群Rにおける零元以外の任意の元aについて、
 ax=ay ⇒ x=y
が成り立つ。(x,yはRの元)

(Ⅱ)約鎖条件
簡約条件を満たす可換な単位的半群Rが、約鎖条件を満たすとは、Rの元から成る任意の列(a(0),a(1),a(2),・・・)について、次が成り立つときにいう:
 この列が性質
  ・・・|a(n)|a(n-1)|・・・|a(2)|a(1)|a(0)
 を持つとき、ある番号Nが存在して、N以上のすべてのnについて
  a(n)~a(n+1)
 となる。

(Ⅱ’)既約元分解可能
簡約条件を満たす可換な単位的半群Rが、既約元分解可能であるとは、Rの零元0以外の任意の元が既約元分解されるときにいう。なお、元a≠0が既約元分解されるとは、
 a=up(1)・・・p(n)
となる可逆元uおよび、0個以上の既約元p(1),・・・,p(n)が存在するときにいう。

以下、追加の定義である。

(Ⅲ)素元条件
簡約条件を満たす可換な単位的半群Rが、素元条件を満たすとは、Rにおいて既約元と素元が一致するときにいう。

(Ⅳ)一意分解条件
簡約条件を満たす可換な単位的半群Rが、一意分解条件を満たすとは、Rの元について次の条件を満たすときにいう:
 ”零元でないすべての元は既約元分解され、その分解は同伴性と既約元の順序を無視して一意的である”
なお、可逆元は0個の既約元と考えて、可逆元自身も既約元分解されると考える。

(Ⅴ)素元分解条件
 簡約条件を満たす可換な単位的半群Rが、素元分解条件を満たすとは、零元以外の任意の元は、可逆元といくつかの素元の積に分解されるときにいう。

2.証明の地図

可換な単位的半群Rが(Ⅰ)簡約条件を満たすとする。Rにおいて、証明の地図は次のようになる。

・ (Ⅱ)約鎖条件 + (Ⅲ)素元条件
 ⇒(Ⅱ’)既約元分解可能 + (Ⅲ)素元条件   (※済)
 ⇒(Ⅳ)一意分解条件
 ⇒(Ⅱ)約鎖条件 + (Ⅲ)素元条件

・ (Ⅱ’)既約元分解可能 + (Ⅲ)素元条件 
 ⇔(Ⅴ)素元分解条件

※第6回により(Ⅱ)⇒(Ⅱ’)は終わっている。

3.(Ⅱ’)+(Ⅲ)⇒(Ⅳ)

簡約条件を満たす可換な単位的半群Rについて、
(Ⅱ’)既約元分解可能 かつ(Ⅲ)素元条件 ⇒(Ⅳ)一意分解条件
が成り立つことを示そう。

これを証明するには、aの既約元分解が2通りあると仮定して、実はその2通りの既約元分解は、それぞれの既約元から成る集合が同伴の関係で互いに1:1対応していることを示せばよい。

記号の簡単のために、添え字の表現はあえて使わずaの2つの既約元分解を
 a=upqr・・・=vxyz・・・    ・・・(♠)
とする。ただし、u,vは可逆元、p,q,r,・・・,x,y,z,・・・は既約元とする。また、積の表記として「・・・」とあるが、これは有限個の積と考える。

これは同伴”~”を用いれば、
 pqr・・・~xyz・・・
と表現される。同伴の範囲では可逆元倍の違いを忘れても問題なかった。

このとき、左辺は既約元pを含むから、
 p|xyz・・・
である。ここで(Ⅲ)素元条件からpは素元であり、素元性によってpは右辺に現れている既約元たちのいずれかを割り切る。つまり、
 p|x または p|y または p|z または ・・・
(詳しくは積の長さに関する帰納法で証明される。)

これより、特にp|xと仮定しても一般性は失われない。
(p|xでないなら、あるt≠xで
  p|t
 となっているが、積の可換性によりtを先頭に持って来れば、初めからtをxとして考えればよい。)

ところでxは既約元だからxの約元pはxと同伴な元であるか、または可逆元である。しかし既約元pは可逆元ではないから、必然的にxと同伴な元でなければならない。つまり、
 p~x
である。

よって、簡約条件によって、
 qr・・・~yz・・・
を得る。

こうして、もともとの同伴の意味で等しい2つの既約元分解が、左辺からはpを、右辺からはp~xとなるxを消去して再び2つの既約元分解に関する同伴の意味での等式が得られた:
 pqr・・・~xyz・・・ ⇒ qr・・・~yz・・・

以後、この操作を続ければ必然的に
 1~1
となる。なぜなら、もし両辺の既約元の個数が一致していなければ
 1~(既約元の積)
という形を得るから、既約元が可逆元となって矛盾する。

従って、この議論で分かったことは、
 元a≠0の2つの既約元分解(♠)について、
   pqr・・・~xyz・・・ 
 ⇒ 両辺の既約元の個数が一致して、
   適当に積の順序を入れ替えて対応付ければ
    p~x,q~y,r~z,・・・
   を満たす。

これは一意分解条件を示している。

4.(Ⅳ)⇒(Ⅱ)

簡約条件を満たす可換な単位的半群Rについて、
 (Ⅳ)一意分解条件 ⇒(Ⅱ)約鎖条件
を証明しよう。

Rの元の列a=a(0),a(1),・・・が
 ・・・|a(n)|a(n-1)|・・・|a(2)|a(1)|a(0)
となっているとする。一意分解条件からaを既約元分解すると、
 a=upq・・・
となる。ただし、uは可逆元、p,q,・・・は既約元とし、積における最後の・・・は有限個の積とする。

各nについて、a(n)の既約元分解に現れる既約元の個数をN(n)個とする。このとき、aの約元の列
 a(0),a(1),a(2),・・・
に対して、この順に、
 N(0)≧N(1)≧N(2)≧・・・
という0以上の整数の減少列が得られる。

このことの証明は、一意分解条件における次の補題による:

【補題】
 簡約条件を満たす可換な単位的半群Rが一意分解条件を満たすとき、
  x|y ⇒ {xの既約元}⊂{yの既約元} (同伴を同一視して)
 である。特に、
  x|y ⇒ (xの既約元の個数)≦(yの既約元の個数)
 である。■

【証明】
 xの既約元分解に現れる任意の既約元をpとすると、
  p|x,x|y
 であるから、
  p|y
 である。
 よって、yの既約元分解が一意的であるから、pはyの既約元分解に現れる既約元と同伴である。
 従って、pは任意だったから、同伴を同一視すれば
  {xの既約元}⊂{yの既約元}
 である。どちらも有限集合であるから、後半は明らか。■

従って、どこかの番号Nでこの減少列は
 n≧Nのとき、N(n)≧N(n+1)
ということになる。

これは約元の列でみれば実質的に既約元の個数が減らなくなっている状況に相当する。従って、
 n≧Nのとき、a(n)~a(n+1)
である。

よってRは約鎖条件を満たす。

5.(Ⅳ)⇒(Ⅲ)

簡約条件を満たす可換な単位的半群Rについて、
 (Ⅳ)一意分解条件 ⇒(Ⅲ)素元条件
を証明しよう。

既約元pが
 p|ab
とする。元a,bについての一意分解条件、特に既約元分解ができることを使って、
 a~p(1)・・・p(m)
 b~q(1)・・・q(n)
(ただし、p(1),・・・,p(m),q(1),・・・,q(n)はそれぞれ既約元でm=0やn=0の場合は、0個の既約元という意味でその場合は右辺は既約元積は1となる。)

この2つ積を取れば、
 ab~p(1)・・・p(m)q(1)・・・q(n)
を得る。

今、p|abの仮定より、
 p|p(1)・・・p(m)q(1)・・・q(n)
である。

ここで上の補題によって既約元pは
 p(1)・・・p(m)q(1)・・・q(n)
の既約元分解の中に同伴を無視して含まれる。

よって、
 p~p(i) または p~q(j)
となるi(1≦i≦m)またはj(1≦j≦n)が存在する。

このとき、
 p|a または p|b
である。

これでpは素元であることが示された。

6.(Ⅴ)⇒(Ⅱ’)

簡約条件を満たす可換な単位的半群Rについて、
(Ⅴ)素元分解条件 ⇒(Ⅱ’)既約元分解可能
を証明しよう。

素元は既約元であった。よって任意の元≠0が素元分解できるなら、それは既約元分解でもあるから直ちにいえる。

7.(Ⅴ)⇒(Ⅲ)

簡約条件を満たす可換な単位的半群Rについて、
(Ⅴ)素元分解条件 ⇒(Ⅲ)素元条件
を証明しよう。

任意の既約元pを持ってきて、pを素元分解すると
 p=uxyz・・・ (uは可逆元、x,y,z,・・・は有限個の素元)
となる。

pの既約性によって
 x~1 または x~p
である。

しかし、xは素元だからx~1ではない。よって、x~pである。

従ってpは素元xの可逆元倍に過ぎず、pは素元である。

8.(Ⅱ’)+(Ⅲ)⇒(Ⅴ)

簡約条件を満たす可換な単位的半群Rについて、
 (Ⅱ’)既約元分解可能 かつ (Ⅲ)素元条件 ⇒(Ⅴ)素元分解条件 
を証明しよう。

任意の元≠0が(Ⅱ’)より既約元分解され、さらに(Ⅲ)により既約元は素元であれば、その分解は素元分解でもあるから直ちに従う。 

9.結論

以上で一意分解条件について次の同値な条件が得られた:

可換な単位的半群Rが(Ⅰ)簡約条件を満たすとき
  (Ⅱ)約鎖条件 かつ (Ⅲ)素元条件
 ⇔(Ⅱ’)既約元分解可能 かつ (Ⅲ)素元条件
 ⇔(Ⅳ)一意分解条件
 ⇔(Ⅴ)素元分解条件

例えば自然数の素因数分解の一意性の証明は、(Ⅱ)約鎖条件と(Ⅲ)素元条件を確認することに帰結する。(Ⅱ)はすぐに確認されるが、(Ⅲ)は少し注意がいる。素数の定義は素元性でなく既約性である。素数の素元性はどのように証明されるだろうか。もう一度自然数の世界に戻ってこのことを調べてみよう。

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