ポケモンの謎



甲子園では何故あんなにもXJAPANの紅が演奏されるのか?

いまだに疑問である。

メッセージ性やストーリー性を大事にする日本人の性質を加味して考えると、「紅に染まったこの俺を慰める奴はもういない」という歌詞を持つこの曲を選手に捧げることは、「死ぬな(負けるな)。死んだ(負けた)お前を慰める奴など誰もいないぞ。」というこの上ないプレッシャーを叩きつけているように思えてならない。僕が甲子園に出場する選手なら恐怖するだろう。


どうだろうか。屁理屈ここに極まると自分でも思う。

実際には甲子園で演奏される紅に歌詞などないし、単にメロディとリズムがノリやすいから使われているで事足りる話だ。

揚げ足取りで偏屈、批判精神旺盛な天邪鬼に育った僕は、こういった答えを出す必要のない、取り止めの無い疑問に対して思考を巡らせることを好んでしまう。


そんな僕にとって、未解決の疑問がある。


「ポケモンにあくタイプはいるが、なぜせいぎタイプはいないのか?」


なんと幼き話だろうか。
しかしながら、このくだらなく幼稚でいて、ある意味では善と悪という哲学的な要素を含んだこの疑問が頭によぎる度、僕は楽しい思考の旅へと誘われる。僕はこの問いが堪らなく好きなのだ。

僕の父が言うには、哲学なんてものは今や、研究者か暇な奴がやるものらしい。


この記事もみなさまにとっての暇つぶしとなってくれたら幸いである。


幼少期から光や正義といったヒーロー側よりも悪や闇といったヴィランズ側に魅了され、その感覚が消えぬまま成長した僕は、大学院生の時に書いた論文に性悪説に盛り込むほどに悪が大好きな人となった。

先に断っておくが、別に私は性悪説論者でもなければ性善説論者でもない。

乱暴に言ってしまうならば、「善か悪か?」などといったものは僕にとって、所謂男どもの恋愛話において度々あがる「好きな髪型はロングか?ショートか?」と同等の話である。
僕は基本的に髪が短い女性に惹かれることが多いが、別に髪の長い子を好きになったこともある。要は時と場合、内面による話なのだ。


話を戻す。
当時の僕にとって、ありふれた勧善懲悪の世界と打って変わった、明確なせいぎが存在せず、あくだけは明言されているポケモンという世界の登場は衝撃的で魅力的に写った。

両親や先生などの周りにいる大人たちにこの問いを投げかけても納得行く答えをもらえなかった幼き頃の僕は、「まぁ、善ではなく悪という僕の好きな方が実装されただけマシか。」と簡単に片付け、次第にこの疑問への興味も薄れたものだ。


この疑問が再び浮上したのはそれから20年近く過ぎた時のこと。僕がまだしがない大学院生だった時だ。

僕は大学時代に英語教育について学んだ経験を実践に落とし込むため、学童保育での「異文化理解を図る」という取り組みのお手伝いをはじめた。

そこに通う子ども達の中ではポケモンが大ブーム。僕は子ども達とのコミュニケーションを図る手段としてポケモンを利用したのだ。

ポケットモンスター、通称ポケモン。
2024年現在、実に28年の月日を超えた人気を誇るポケモンはその小さく可愛らしいイメージを持つ名前に反し、ポケットはおろか日本に留まらず、今やワールドクラスのモンスターコンテンツだ。

例に漏れず、幼少期にポケモンに熱中していた僕は子ども達との距離を簡単に縮めることができた。
異文化理解の活動の後には決まって、子どもたちから「好きなポケモンは?」とか「先生の時代のポケモンってどうだったの?」など色んな質問がきたものだ。

僕が特に好きなポケモンはゲンガーとブラッキー。他にもたくさんいるが、そのほとんどがあく、ゴースト、エスパーに属するものだ。

「うわー、確かに先生あくタイプだよね。」

唐突に子ども達からあくタイプとレッテルを貼られた僕は悪い気はしなかった。所謂幼少期のごっこ遊びで大好きなゲンガーやブラッキーを任された気分になっていたからだ。
そんな僕に対して、特に懐いてくれていた男の子も口を開く。

「どくタイプでもあるよね。」

一転して僕はゲンガーからベトベターにされた。

このような具合に子ども達と時に真面目に、時に面白おかしくコミュニケーションを取っていたある日、子どもたちがふと僕に質問を投げかけてきた。

「なんであくタイプのポケモンはいるのに、せいぎタイプはいないの?」

僕は戸惑った。

僕が幼い頃に大人に投げかけた質問を、今まさに子ども達から大人になった自分が受けている。

僕は答えることが出来なかった。

家に帰ってもこのことが頭から離れなかった僕は、一度この問題に対して本気で考えてみようと思ったのだ。

平成生まれのベトベターも今や大人。様々な知識や経験を吸収した僕は令和になってベトベトンに進化しているはずである。本気を出せば納得のいく答えが見つかるだろう。そう思っていた。



それから数年後、大学院も卒業した今現在、まだ明確な答えは出ていない。

様々な仮説はあるのだが、納得のいく答えは出せていない。


くだらない疑問について長々と話したが、ここまで読んでくださったあなたも是非一度、考えてみて欲しい。

「ポケモンにあくタイプはいるが、なぜせいぎタイプはいないのか?」

あなたはこの疑問、どう答えますか?

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