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【読書日記】表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 / 若林正恭

2023年5月27日 読了。

お笑いコンビ「オードリー」の若林さんによるエッセイ。若林さんのエッセイは以前『社会人大学人見知り学部 卒業見込』を読んだことがあり、オードリーのことを何も知らない自分だったがそのひねくれた視点に共感しまくってとても好感を持った。

この本は若林さんがキューバ、モンゴル、アイスランドにそれぞれ一人旅をしたときの様子が綴られた、いわゆる「旅エッセイ」だ。初版発行は2017年とのことだが、2020年に文庫化されていて、コロナについても触れたあとがきが書かれている。

旅エッセイが面白いものとなり得るのは、著者の独特な視点が反映されてこそだと思う。ただ日本と海外の違いをウンチクのように並べ立てた内容ではなく、著者の視点が色濃く反映され、その著者のパーソナルな部分に共感したり刺激されたりしてこそ面白い紀行文となるはずだ。
その点で言えばこの本は、100点満点中100000000000点の旅エッセイと言えるだろう。
単純に自分が若林さんの考え方に強い共感を覚えるタイプの人間だからというのも大きいと思うが、そうでなくてもこの人のユーモア、ひねくれ方、鋭い視点が詰まっていて、若林正恭という人物のパーソナルがこれでもかと表現されている、とても素晴らしいエッセイであると思う。めっっちゃくちゃ面白くて、読み始めてから3時間程度、ノンストップで読み終わってしまった。

日本の競争社会、勝ち組負け組、マウンティング、承認欲求、そういうものに唾を吐きながら、それに対して諦めのような感情を抱き、しかしジッと睨みつけることはやめない。そういう視点を持ち続けている若林さんが、社会主義国であるキューバへ行き、移住民族がいるモンゴルへ行き、荘厳な自然を持つアイスランドへ行く。仕事でもなんでもなく、ただ1人で旅をする。
その中で、ただ異国の文化に圧倒されるだけでなく、その文化からの気づき、客観的に見た日本という鋭い視点が描かれる。

決してビジネス本のような説教くささもなく、誰もが共感できるような視点でそれを紐解いてくれている。こんな視点で、クスッと笑ってしまうエピソードを交えながら、旅行の楽しさと、日本の社会性や国民性に対する考えを同時に描いた本が他にあるだろうか?この本を「名著」と言っても過言ではないはずだ。

自分で「筋金入りのファザコン」と称する若林さんの、お父さんが亡くなったエピソードもこの本に度々登場する。父が生前行きたかった国として、社会主義国キューバに行くことを決意する若林さん。日本の新自由主義と他国を比較する中で、競争社会の中で唯一絶対的な味方が「家族」なんだな、ということに気づくエピソードは思わず涙が込み上げた。父の最期のメッセージを受けて結婚願望が湧いたというエピソードもグッときてしまう。

また、『社会人大学〜』を読んだときにも若林さんの哲学に対し、生き方に影響を与えるレベルに感銘を受けた話があるのだが、この本にもそのレベルのエピソードが登場した。

まず『社会人大学〜』で影響を受けた哲学というのは「大丈夫、という言葉をひとにかけるときは、たとえ大丈夫じゃなくても"その問題に対して自分も責任を負う"という意味で使って良い」というものだ(読んだのがずいぶん前なのでうろ覚えだしちょっと間違っているかもしれない)。
これは自分の脳天に電撃が走るほど衝撃的な考え方だった。「大丈夫」と簡単に言ってしまうのは無責任だと思っていたが、言っても良いんだと気付かされ、自分の生き方を大きく変えるほど影響を受けた。

そして今回この本を読んで凄まじく衝撃を受けたのは、若林さんが父親を含めて家族旅行をしたときのエピソードだ。
もうあまり長くないかもしれない父と、この旅行を通して腹を割っていろんなことを語り尽くしたいと思って家族旅行を企画したとのことだったが、結局できた話は「どのアメフトチームが勝つか」みたいなことばかりだったという。

それに対して、「だけど、愛とか、人生とか、感謝とかっていうのは、本来こういうアメフトの話とかにすべて含まれているものなのかもしれない」というようなことを綴っていた。

これもまた電撃が走った。人の、人に対する「気持ち」というものは、言葉にして伝えるよりこういう何気ないやりとりにすべて含まれている。当たり前のことのようだけど、この本を通してその哲学に触れ、また人生観に影響を与えられるほどの衝撃を受けた。

その他にも、メモを取りたいほど面白い考え方や文章が、メモを取りきれないほどたくさん出てくる。この本はカフェに置いてあってその滞在時間中に読み切ってしまったけれど、自分でも改めて購入しようと思った。

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