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【読書録】ゼロ時間へ / アガサ・クリスティ

2022年2月22日 読了

タイトルがSFみたいで前から気になっており、さらにクリスティ本人の選書でもファン投票でもベスト10内に入っていると知って手に取った。

通常の推理小説は殺人が起こってから推理が始まり犯人を見つけ出すが、この小説は殺人が計画された時間から始まり、犯行の瞬間である「ゼロ時間」へ向かっていく、ということが作品内でも冒頭で語られる。前情報としてその叙述法を聞いていたので、どんなトリックなのかとワクワクして読み始めた。

しかし、実際読み進めても普通に殺人も起こるしそこから推理パートが始まって……と、ごく普通のミステリーのような展開が続く。「ゼロ時間」に向かっていく様子もなく、「聞いていた話と違うぞ?」と思っていたが、当然一筋縄ではいかないクリスティ作品。しっかりラストにどんでん返しが用意されていて、「ゼロ時間」の真相を知ることになる。これにはまんまとやられてしまった。毎回毎回この巧みなトリックの構築力に脱帽させられる。これだけの多作でありながら毎回斬新な発想のトリックを組み込んでいるのは本当に戦慄する。

また、一見本筋となにも関係なさそうなエピソードを冒頭で見せておいて、その伏線もしっかり最後に回収するところや、登場人物がみんな魅力的で生々しいところなど、トリックだけではなくシンプルに話を作るのが上手いと感心した。

この作品はバトル警視という、ポアロシリーズにも登場する人物が主人公として活躍するが、ポアロが名前だけ登場して重要なヒントを与える存在となるのも小ネタとして面白い部分だった。


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