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🌙小説 月と眼鏡〖3〗



       〖   3秒間 〗

「オムライス食べる?」


そう声をかけてくれたのは堅物メガネの方。
私が彼の食べるオムライスをずっと見ていたらしく...(無意識)そう声を掛けてくれた。

「食べます!」と勢い良く返事をすると、
「はい、どうぞ。あでも、俺の食いかけ嫌かな...?」

そう声を掛けてくれた時にはもう、一口目は既に私の胃袋へ。あまりの美味しさに食欲も倍増し、私は大好きなオムライスをあっという間に完食してしまった...人間の三大欲求の一つ、食欲を満たす事に必死だったのだ...


特に気にする事なく食していたが、初対面の人と料理をシェア。気にする人は気にするだろう。寧ろそっちの人の方が多いか...なんて食べた後に思った。だが大好物のオムライス、仕事終わりで腹ペコ魔人だった事を思えば...
仕方ないと言えば仕方ないよね←


そしてハッとした。
そういえば彼は全部くれると言っていたっけ...?今更ながらに気付いた私は恐る恐る斜め前の彼の方を見遣った。向こうも見ていたらしい、目が合った。

笑う事もなく、かと言って言葉を交わす事もなく、じーっと見ている彼。第一印象の堅物そうというイメージそのままの私は内心ドギマギしていた。


やはり...
オムライスを完食した事を怒っているのか...?このメガネ...分けてもらっておいて、メガネ呼ばわりの私←


気まずい雰囲気の中、
「全部食べちゃった...ごめんなさい...」
そう沈黙を破ると、ゆっくりと喋り出す彼。
「いや、良いよ。お腹すいてたの?」と。

そこから二言三言くらいは会話をし、安心した私は店員さんがやっと運んで来たポテトフライに手を伸ばす。サラダや唐揚げを頬張り、空腹も満たされた私は内心ご機嫌になっていた。

内心、とつけるのは依然このテーブルの空気は盛り上がりに欠けているから。だがもうそんな状況もどうでも良くて、私がひっそりと心の中と胃袋でこの会を楽しめつつあるので良しとしていた。

そう考えている間も時計は進み、お開きの時間となった。

会計の準備をしようとお財布を準備するも、「あ、もう払ってあるので大丈夫です!」と幹事さん。トイレへと立った際に済ませていたらしい。銀行員はそんな所もスマートなのか?
いや人によるか。

お言葉に甘え、その場は解散となった。
別れ際にグループLINEが作られたが、もちろんすぐに退会するつもりだ。

「今日はありがとうございました」
皆さんに挨拶をして助手席に乗り込んだ。

友達の車で来ていたので、お酒も飲んでいない私達はそのまま帰る事に。勿論、代行を使う気でいたが、お酒好きの彼女が飲む気にもならないほど、今回の会はハズレであったらしい。
私もお酒が好きだが、ドライバーの彼女が飲まないのならと遠慮した。アルコールが入っていない事も盛り上がりに欠けた原因か...?と振り返って思う。

エンジンをかけると、聞こえて来た彼女の第一声。

「いや、マジでなし過ぎん??」
開口一番、元気にそう言う彼女に笑ってしまった。

信号待ちをしながら、飲み会の振り返り。
この時間が1番楽しいものだよな...と笑いながら外を見ていると、歩いて帰宅中の銀行員の方々がいた。

「うわ、きっまじい」(訳:気まずい)と彼女。
歩道と車道であるし、少し距離もあるので向こうは気付いていないみたいだが...
まあどうせもう会う事もないのだ。
ぼんやりと彼らを眺めていた。
信号が青になり、ゆっくりと車が走り出した。
ゆっくりと近づき、そして彼らを追い越していく。

ぼんやりと、ただぼんやりと眺めていた。
眺めていたらふいに、突然に、こちらを向いた。

目が合った。

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