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DX視点で読み解く:東証取引停止とシステム障害

今日の新聞、株式欄が真っ白です。初めて見ました・・・・
ご存知のとおり、昨日2020年10月1日に東証にトラブル発生。
終日売買停止になりました。

これをDX視点で捉え、他山の石としてなにが学べるか考えてみましょう・・・・

====東証システム障害全体像

●東証トラブル経緯

07:04 システム障害検知
08:01 証券各社に障害連絡
08:39 全銘柄売買停止を発表
08:54 東証と証券会社の接続遮断
16:30 東証社長謝罪会見
19:25 翌2日は通常通りに売買を行うと発表


●東証トラブル原因
ハードDISKエラー&バックアップ切替不調。
・08:00-08:30で各証券会社から注文データが東証に届く(=注文受付済)
・この状態で、ハード取替後システムをリブートすると注文消失。(=データ回復不可)

●影響範囲
・株式注文受付済の取消&連絡
・投信基準価格の決定  補:投信買い付けは月初多い
・IPO3社 実質延期
・約定後の受け渡し処理 T+3
・貸株料、プレミアム料などの取扱検討
   :
・企業は、資金繰り再検討
   :
   :
・日本金融界への不信

現場での張り詰めた空気、経営層の苦渋の選択、証券会社の個別応対、投資家の後処理・・・
昔証券会社のシステムに携わり、東証システム接続も経験しただけに・・・想像するだけで身の毛もよだちます。 
あー、胃がキリキリしてきた・・・

いや、そうじゃない。この東証障害からなにを得るか。
DX視点で捉え、他山の石としてなにが学べるかでしたよね、失礼。


====DX視点で捉える: 安直な意見への考察

ではまず、安直な意見に対して考察してみます。 
安直な意見1: クラウドにすればいい!
安直な意見2: ブロックチェーンつかえばいい!


こういう話になると、クラウドにすりゃいいだろ!とか、ブロックチェーンにすりゃあいい!とか、思う方が必ずでてきます。

クラウドでもオンプレ(自前)でもサーバ並べて、あらゆる物を冗長化するのは一緒です。クラウドはコスト面で優れていますが、ハイスペックな仕様を求めることができません。

東証の株式売買の基幹システム「アローヘッド」は富士通が設計・開発、2010年に稼働を開始し2019年11月に新システムに刷新しています。その取引システムのスペックは、世界最高性能がうたわれており、注文応答は0.2ミリ秒、情報配信(気配値等)0.5ミリ秒です。
https://www.jpx.co.jp/systems/equities-trading/01.html

これは、注文が何千件、何万件あっても、必ずその性能は担保するという意味で、とくに注文系については東証専用に富士通が独自開発した超高速処理サーバが使われてます。

こんなハイスペックなものを、クラウドは提供できませんし、ましてブロックチェーンでは更新速度は絶対に無理。オンプレ(自前)が大前提となります。

====DX視点で捉える: 他山の石と捉える

「障害が起きないことを前提としたシステム設計が根本的に時代遅れだ」
この意見、間違ってはいません。けれどそれはシステム担当者の視点。


「障害は必ず起きる。起きたとしても最小限の影響と速やかな回復を目指す」 これが、DX視点ではないでしょうか。 一言でいえば”レジリエンス(粘り強く立ち直る力)”の最大化を目指すという視点です。

この”レジリエンス”は、コロナ禍でも注目されているワードですね。企業はもちろん国もその重要性に着目し、Society5.0 (*1)でも取り上げれています。

*1 Society 5.0(ソサエティ5.0)とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のことです。内閣府の「第5期科学技術基本計画」にて定義されています。


●視点1: ボトルネックを捕らえよ

今回の東証トラブルでは、バックアップが機能しなかったこと、注文受付データを消失せざるを得なかったこと がポイントです。注文受付システムを独立させておけば回避できた可能性があります。
想定の障害範囲を広げ、想定外を最小限にする・・・日々拡張するビジネスにおいて定期的な見直しをルーチン化する必要があります。
DXは、デジタル革命。従来のビジネスモデルとは異なる事象ですので、発生するであろう障害の種類・範囲も大きく増えるはず。あらゆる事象におけるボトルネックの把握と対策が必要となります。


●視点2: サプライチェーンを再検討せよ

東証の視座ではなく金融機関・投資家・国の視座で捉えると、東証の代用がない点が問題視されます。

日本では1998年に株式売買の取引所集中義務が撤廃され、PTS(私設取引システム)が解禁、一時期には7つのPTSが運営されていました。しかしその後撤退が相次ぎ今や2つでシェアは4.8%。東証のシェアは85%ですので、PTSでの流動性が乏しすぎて代替機能となり得なかった。今後日本政府は、金融大国を目指す上で今回の東証リスクを”レジリエンス”するためPTS育成にカジを切るかもしれません。

コロナ禍での企業も全く同じ。海外との貿易停止により、グローバル・サプライチェーンが大きく麻痺してしまいました。これを反省材料とし、いま国内回帰による新たなサプライチェーンを検討している企業が増えています。

サプライチェーンの再構築と、有事の際にスムーズな切替ができる仕組みを構築する、そこにブロックチェーンやAI/MLなどのDX的要素を加える・・・やるべきことは山積みですね。


●視点3: スピードを重視せよ!

07:04 システム障害検知を捉え、08:39 全銘柄売買停止を発表。


これだけ早いタイミングで現場から経営層まで連絡が届き、経営層は意思決定し、国を含む関係者へ了承を得て、世間へ広報出来る・・・素晴らしいスピード感ではないでしょうか。

有事の際のプロセスが整っており、かつ、マネジメントチームが機能している証左でしょうね。

さて・・・貴社で、果たして同じことができますか?

●視点4: エンゲージメントこそすべて!


信頼やブランドは簡単に、一瞬で崩壊します。東証のスピード感も素晴らしいものでしたが、もうひとつ特筆できることは、その胆力。

「責任はベンダーである富士通ではなく、我々にある」という発言には、潔さと清々しさを感じたのは私だけでしょうか? 

SNSの世界でも、非常に明快な会見で素晴らしいと、称賛の声があがっています。経営陣がこれほどシステムについて説明できる会見がかつてあったでしょうか。まさしく技術がわかる経営陣という感じで、世の経営者は模範にすべき会見だったと思います。

投資家も政府も世界の金融界もこの会見で、日本は大丈夫だと感じたでしょう。 なによりも・・・富士通のエンジニア達は魂震えたはず。

気骨あるリーダーたる経営者がいる・・これだけで皆が安心しますね。


=====まとめ


障害を恨んで人を憎まず。

これはDXも全く同じ。デジタル革命を推進する上でいろいろな波乱はおきるでしょうね。それを責任転嫁せず、胆力で進める・・・そんなリーダーがいて、ステークホルダーとのエンゲージメントが成立してないと・・・DXなんて夢のまた夢。

今回の東証障害で教えられたことは多かったですね。

最後に、ささやかですが・・・感謝の気持ちとともに。
東証の関係者の方へ、お疲れ様でした! みごとな対応でした!

敬礼! 

いただいたサポートは、活動費・購入費など有意義に使わせていただきます!