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イギリスを拠点にするエレン・マッカーサー財団は、循環経済(サーキュラーエコノミー)がどのように投資家・銀行・他金融サービスの価値創造に寄与するかをまとめたレポート(Financing the circular economy - Capturing the opportunity –)を発表しています。

https://www.ellenmacarthurfoundation.org/assets/downloads/Financing-the-circular-economy.pdf

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カーボンゼロにもつながる循環経済の急激な拡大基調の中、
・金融機関がどのようなサスティナビリティファイナンスを展開しているか
・金融機関が循環経済の機会をつかむ方法はなにか
・金融機関が進むべき方向性はなにか
を調査分析した秀逸な資料。

生き残りをかけ新たな事業展開を模索している金融機関の皆様には、オススメの資料です。
それではお楽しみください。 ではまた!


って・・・本コラム終わるわけにはいかないですねw
実は、この資料、デジタルマーケターやDXプランナーの皆様にも新たな気付きをもたらすいい資料なのです。ではDX視点で読み解いてみますね。

補: 文意を理解しやすくするため意訳しているところもありますので、詳細につきましては原文をご確認ください。


●線形経済(リニアエコノミー)から循環経済(サーキュラーエコノミー)へ

===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:
過去2年間で、気候変動やその他のESG問題は、資産運用会社や銀行、その他の金融サービス会社にとって重要なトピックとなっています。顧客は解決策を期待しており、規制当局からの圧力も高まっています。問題は、気候変動やその他のESG問題が金融サービス部門にとって重要かどうかではなく、どのように対処していくのかということです。循環経済は、この問題への答えの重要な部分を占めています。
循環経済は、今日の抽出的な「採って、作って、ポイ捨て」という線形モデルを超え、製品が再利用(reused, repaired or repurposed)されるように設計し、自然環境に組み込まれる経済の前向きなビジョンとなります。
===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:

まずは用語解説です。


線形経済(リニアエコノミー):
従来の経済モデルを「Take(原材料を採って)」「Make(作って)」「Waste(ポイ捨て)」を表しています。自然界から取り出された資源やエネルギー、そしてそれらを用いて生産された製品が一度きりの「使い捨て」の形で消費されてしまい、その結果として、既に私たちの社会では資源やエネルギーの不足、地球温暖化、廃棄物処理などの環境問題をおこしています。

MakeとWasteの間にひとつ要素を加えてみます。「Take(原材料を採って)」「Make(作って)」「Buy/Sell(販売・購入して)」「Waste(ポイ捨て)」 
こう見ると・・・(従来型)マーケッターの皆さんは、このBuy/Sellの片棒をかついでいる職種といえます。地球にやさしくない職種ですね。 orz


循環経済(サーキュラーエコノミー):
資源や製品を経済活動の様々な段階(生産・消費・廃棄など)で円を描くように循環(Circular)させることを指します。

これを聞くと、ああそれって、従来からある3R「Reduce(減らす)」「Reuse(再利用する)」「Recycle(リサイクル)」でしょ!っと誤認する方も多いかと。循環経済はその3Rの考え方とは根幹で異なり、そもそもの原材料調達・製品デザイン(設計)の段階から回収・資源の再利用を前提としており、廃棄ゼロを目指しています。できる限りバージン素材の調達・使用を避け、回収後のリユースやリサイクルがしやすいよう解体を前提としたモジュールデザインを導入し、修理や部品交換などを通じて製品寿命をできる限り長くするなどの取り組みが挙げられます。

もうひとつ誤認されるのが「循環型社会」。資源や製品の循環を通して環境への負荷を減らすという意味では近しいですが、経済活動を無視した「循環型社会」だけでは経済が疲弊してしまいます。一定の経済成長や便利さを維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく、即ち両者をデカップリング(切り離す)の発想が必要になります。循環経済は、環境への負荷を減らすだけでなく経済成長も同時に実現しようという点が「循環型社会」と異なる大きな特徴です。


●CO2排出の原因の45%はプロダクトが起因

===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:
循環経済は、私たちが商品を生産し、使用する方法を変えることで、世界の気候目標を達成するのに役立ちます。エネルギー効率や再生可能エネルギーへの切り替えだけに頼っても、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の55%にしか対応できません。例えば、新しいものを生産するのではなく、製品や材料を循環させることで、それらを作るために使われたエネルギーを再活用することで、無用のエネルギー需要を削減することができます。
研究によると、わずか5つのセクター(鉄鋼、アルミニウム、セメント、プラスチック、食品)で循環型アプローチを採用した場合、2050年には年間の温室効果ガス排出量は93億トンのCO2eが削減され、これは世界のすべての交通機関からの排出量を削減することで達成できる削減量に相当します。
===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:

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左: 温室効果ガス総排出量の構成
右: 循環経済が気候変動への取り組みにどのように役立つか
   ・温室効果ガス排出量を削減するために、バリューチェーン全体で廃棄物と汚染を再デザインする
   ・使用中の製品や材料を長期利用することで無駄遣いを失くす
   ・自然生態系を活用して土壌や製品に炭素を封じ込める

エネルギー効率や再生可能エネルギーへの切り替えだけに頼っても、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の55%にしか対応できず、残り45%はプロダクトによる排出だというのはショックな報告です。

えっ? 我社はプロダクト製造していないから関係ないって? 
いやいやどのような企業でも、事業活動においてプロダクトを使わずして成り立たないはず。それぞれのプロダクトの調達にどのような基準をおいていますか? また各プロダクトを使い終わった後、破棄した後の循環性にどこまで意識を向けているのでしょうか?
それはあなた個人の見解は?貴社としての公式見解は?
それは貴社をとりまくステークホルダーに正しく認識されていますか?

この観点からも、モノ訴求のバラマキ広告から、コト軸訴求の共感を得るマーケティングが重要なことに気づくはず。企業は情報発信の方向性を大きく変える必要がありますね。

いま取り組んでいるDX、この循環経済においてどのような貢献ができるか顕在的な整理はできていますか?


●循環経済は社会的にも影響力大

===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:
循環経済の導入は、他のESG課題への対応にも役立ちます。例えば、循環経済は、資源採取の必要性を減らし、農地を再生することで生物多様性を向上させます。さらに、循環経済は、再販、再製造、リサイクルなどの活動において、2030年までに英国だけで50万人以上の雇用を創出できると推定されています。循環経済は数兆ドル規模の経済機会を提供するのです。
===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:

循環経済は、環境への負荷を減らし、かつ企業の成長も実現することにつながります。成長と便利さを維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく、即ち両者を切り離す「デカップリング」という考え方を実現する手段となります。

今回のコロナ禍を好機ととらえ、サプライチェーンの海外依存を国内や地域内に移管し、かつ循環できるようにする。サプライチェーンは循環経済の動脈、対する再生・再利用は静脈。この動脈と静脈の流れをスムースにすることにより経済リスクの分散化、景気刺激、雇用増大、地域活性にもつながっていきます。

コロナ禍というピンチをチャンスに変える発想としても、また、歴代の内閣が対策を打ち出すも、長年解消できていない”東京一極集中”と”地方活性”の課題を解決できる可能性を循環経済は秘めています。

●世界各国が循環経済化に注力

===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:
コスト削減、収益増加、リスク管理のために循環経済原則を採用する企業が業界を超えて増えています。(中略)各国政府はこの変化を加速させており、循環経済は欧州グリーンディールの主要な柱であり、中国、チリ、フランスを含む国々では循環経済のロードマップや法律が整備されています。
人口動態の変化、デジタル化、資源不足などのメガトレンドは、循環経済への移行を後押ししています。コロナウイルスの大流行は、線形経済に内在するリスクの多くを浮き彫りにし、2020年6月には、50人以上の最高経営責任者やグローバルリーダーが、パンデミックを受けてより良い状態に戻すための解決策として、循環経済を支持しました。
===エグゼクティブ・サマリーより抜粋&意訳:

日本でも循環経済に向けた取組みは勢いを増しています。

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-1.pdf

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利己的資本主義から公益的資本主義へ時代は急激に変化しているようですね。


●ブレンディッド・ファイナンス

聞き慣れない言葉がこの、ブレンディッド・ファイナンス。

ESGに関連した取り組みでは、不確実性が高く、従来の銀行融資モデルではリスク算定できず、資金調達できず計画自体が頓挫するケースがあります。

そうした場合に、公的資金、民間資金、慈善基金などを組み合わせて、社会的課題に取り組もうと組成するのが、このブレンディッド・ファイナンスです。世界経済フォーラムが74のブレンドファイナンス機関に行ったサーベイによれば、公的資金を1ドル投入すると1~20ドルの民間投資を惹きつけるとの結果となっています。

社会的によいことを、みんなでリスク分散し資金調達の支援をしようという動きですね。

身近なところでいうと、クラウド・ファンディングもそのひとつですね。
・購入型クラウドファンディング 
・融資型クラウドファンディング 
・ファンド投資型クラウドファンディング 
・株式型クラウドファンディング 
・寄付型クラウドファンディング 

社会的に、環境的によいものを買おうという消費行動に加え、
社会的に、環境的によい企業に投資・融資しようという投資行動へ。

マーケティングの範囲が、消費行動の促しのみならず、投資行動の促しに広がったと捉えるべきではないでしょうか。
エンゲージメントの高いファンを獲得するという意味でも投資行動の促しはとても大切な活動といえますね。


●最後に・・・

有名なイソップ話にこんなのがあります。

旅人が忙しそうに仕事している男たちに聞いた。
君はどんな仕事しているのかいって。

男Aは、答える。
レンガ積みに決まっているだろ!って。
男Bは、答える。
教会を作る仕事をしているんだ!って。
男Cは、答える。
多くの人が祝福を受け街の自慢になるすごい教会を造っているんだ!って。


如何に商品を買ってもらうか・・だけを考えるマーケター。
DXを実現し自社が儲かるか・・だけを考えるDXプランナー。
これは従来型行動モデル。線形経済に毒された行動ですね。 

ただただ、目の前のレンガを積み上げる男Aとまったく同じ。

一方で男Cは、レンガの調達からはじまり、
レンガの再生・再利用まで考え(循環経済)、
かつ、多くの人が祝福を受け感銘し(ファンの獲得)、
街のにぎわいを実現(景気刺激、雇用増大、地域活性)する。

マーケティングも、”モノ訴求”から、さらなる”コト訴求”へ。視座を高く捉える必要がありますね。

DXは未来像。

利己的な未来を追い求めるのか、社会性・公益性の高い未来を追い求めるのか。さてさて、あなたはどちらの視座と視点で仕事をしていますか? 

では、また!


PS 前述した「循環経済ビジョン2020」の末尾にこう書かれています。
「循環なき経済は罪悪であり、経済なき循環は夢物語である。」
まさにそのとおりです。循環経済、注目のキーワードです。


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