国際女性デーで思い出した強いひと『砂漠の女 ディリ―』

先週は何だか「国際女性デー」に関する報道が多かったので、私の中の「強い女性」代表の一人、『砂漠の女 ディリ―』の著者ワリス・ディリーさんを思い出しました。
今回本を読み直ししてみた所、色々興味深かったので書きます。

この本では、ワリスさんの以下の様な半生が語られています。(著者紹介より抜粋)

ソマリアの砂漠に暮らす遊牧民の家庭に生まれる。13歳のときに砂漠から逃げ出して、ロンドンに渡り、写真家に見いだされてモデルになる。ELLE、Vogue、Glamour誌などにたびたび登場し、スーパーモデルとして活躍。アフリカのイスラム社会で今も行われているFGM(女性性器切除)の体験を記し、この慣習の存在を広く世界に知らしめた。

・・・wikipedia曰く、女性器切除(略称:FGM)は女子割礼とも呼ばれ、主にアフリカを中心に行われる風習であり、女性器の一部を切除あるいは切開する行為のことであり成人儀礼のひとつ。」とのことです。
想像するだけで痛い・・・。

この本はある意味では劇的な「シンデレラストーリー」ですし、一番最初に読んだ時は女子割礼の残酷さ、それがワリスさんの日常生活にどれほど影響を与えたかが強烈に心に残りました。ただ読み直すと、他にも情報があって。

例えば

◆少女時代の動物との関わり。特に遊牧民にとって大事なラクダ(時に補償、結納代わりに贈られる)、ヤギ(ワリスさんは群れの世話をまかされていた。一頭でもいなくなると大変)、イボイノシシ、ハイエナ、ライオン・・・。ちょこちょこ出てくる描写(+豆知識)に、自然と暮らすってこういうことなんだなあと驚きました。
何回か「ラクダやヤギに詳しいだけでは、イギリスでは暮らしていけない」とワリスさんは仰るのですが、逆に遊牧民としては動物の知識が必須ということでしょう。

◆助け合う人々 
家族や親せき同士で助け合い、それが当たり前とされるソマリアの社会が新鮮でした。もちろん自分もその一員として子どもの頃から働き、拘束を受けるわけですが。 
ワリスさんが家から逃げ出した時には親戚の家を転々とし、ロンドンに行けたのも大使に就任する叔父さんの召使としてでした(その内容は休みなしで働く過酷なものでしたが)。
何よりロンドンで一人ぼっちになった時に、お店で会ったソマリア出身の女性が住まいやアルバイトを見つけることを助けてくれます。異国で同じ国出身者に会うと親近感もわくのでしょうが、初対面でこの面倒見の良さはすごい。本より先に見た映画『デザートフラワー』ではこの助けてくれる役がイギリス人という設定になっていたのですが、当時英語が話せないワリスさんがほぼ無言で懇願する様子に根負けして助けてくれる、という話の流れは奇妙に感じたので、やっと納得しました。

◆「マクドナルド」が象徴するもの
マクドナルドは就労許可のないワリスさんのアルバイト先でした。店側には不法就労者を雇う事で「通常より賃金を低く抑えられる利点があり」「まじめに働きさえすれば、どこの国の人間であろうと雇ってくれた」と書いてある通り、何とか生活できるお金を彼女は手にします。
また彼女を見出した写真家と再会するのもマクドナルドで、そこから彼女のモデル人生が始まります。(つまりは経済的成功の大きなきっかけ)
・・・英語の話せない外国人とその国で高名な写真家が出会える場所。そこでは「お金」の辻褄さえあっていれば、国籍や身分は関係ないという資本主義的な平等さ?が動いているように感じました。(勘違いかなあ・・)

そこで思い出したのが
・この本の続き「ディリー 砂漠に帰る」で、兄とソマリアに帰ったワリスさんがご飯を食べようとしたら「男性専用」の食堂を使わせてもらえず、悪臭漂うトイレの後ろの「女性専用」の場所を指定されたこと。
・別の本であるエコノミストの方が、「資本主義のいいところは、金を払えば自由だということ。」と仰っていたこと。

・・お金優先で人権が侵害されることは言語道断ですが、伝統社会と資本主義社会の、考え方の違いによる人(特に女性)が受ける制約の違いが、何だか印象に残りました。

◆チャンスの神様の前髪つかみまくり
ワリスさんは素晴らしい人ですが、手段のために目的を選ばない加減がすごいです。

例えば「家出した自分を置いてくれた叔母を差し置いて、家に来ていたその親戚の叔父(ロンドン大使)にメイドとして雇ってほしいとアピール」「仕事でモロッコに行かねばならず、友達のパスポートをこっそり借りる」「それにこりてパスポート取得のために偽装結婚」とか・・・。

ただ、これらは全て彼女の今の成功(によって保障される彼女の自由)に不可欠だったわけで。仁義を欠く、とも言えるのですが、そうしなかった場合、彼女の望みを誰がかなえてくれたのか?そして自分の行動の代償を彼女は受けています。

批判されても目的のために突き進むワリスさんの姿を見て、周りの批判に落ち込んで結果的に自分のやりたいことを抑えてしまうこともある私は、身につまされると共に何だか元気をもらえたのでした。

・・・話は尽きず、続刊もすごく良かったので紹介したいですが、またの機会に!