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なんとも素敵な 氷室冴子さんの話①~とにかく、おもしろい~

今回は作家の氷室冴子さんについて書きます。先日NHKで特集が組まれていたので、私が思う氷室さん作品の魅力やそれを読んで得たものについて書きます。

1.NHKの番組

先週NHK北海道の「没後15年 氷室冴子をリレーする」が放映されました。NHKプラスでも7/7(金) まで配信されています。以下がリンクです。

没後15年。北海道・岩見沢出身の作家・氷室冴子。多くの作品で十代の女子が「自由に生きようとする姿」を描き、少女たちから圧倒的な支持を得た。人気作は漫画化された「なんて素敵にジャパネスク」やスタジオジブリによりアニメ化された「海がきこえる」など多数。友人や編集者の証言から氷室の足跡をたどりつつ、その影響を受けた現代の作家の姿と言葉から、時代を超えた普遍性を持つ氷室作品の意味に、改めて光をあてる。

生前の氷室さんと親交があった方々のインタビューもあり、氷室さんの様々な面が知れて、なんだか泣きそうになりました。

氷室冴子さんの作品を読んだのは、小学生の頃だったと思います。リアルタイムの読者ではないため、周りにその感想を話せる人がいませんでした。大好きな作家さん、というか、もう読みすぎて、影響を受けすぎて、自分の血肉になっているのではと思う時があります。

何かを発言した後、「あれ、この考えはもしかしたら氷室さんがどこかに書いていたかも。」と思ったりするのです。

2.私が考える氷室さんの魅力「とにかく、おもしろい」

NHKの番組は素晴らしかったです。ただ私はもっと氷室さんの作品の魅力を強調したいと思い、今書いています。

それはつまり、氷室さんの作品は はちゃめちゃ 面白いのです。

読んでいてワクワクする、主人公の困難に汗握る、一緒に悲しむ。そして読んだ後に、元気をもらえるのです。私も頑張って、真摯に、生きよう、と。

それは人物設定がしっかりしていたり、話の展開にすごく上手だったりもすると思うのですが、私がいつも圧倒されるのがその言語力です。
何かを描写するその言葉が、的確すぎる。表現が力を持ち、物語が立ち上がる。だから物語の中にいつの間にか入ってしまうのです。自分がわからない言葉が出てこないので、自分が脳内で考えているような錯覚に陥ることもあります。

また氷室さんは小説でもエッセイでも、人の感情の機微を逃さず書いてくださいます。そこで、私は自分のこの感情はこんな風に表現できるんだ、小さいからといって見過ごされるべきものではないんだ、と思えたのでした。

3.言語能力の例①:タイトルがドンピシャすぎる

20代半ばになって、無意識に氷室さんの影響を受けていたとわかったことがあります。それは、タイトルへの考え方です。

氷室さん作品以外でも本、映画、様々な芸術作品を楽しんできましたが、私はいつもこう思っていました。「うーん、題名(タイトル)がいまいちだなあ」と。

それである時、「大体の作品のタイトルって、毎回ドンピシャなものって少ないよなあ」「あれ、なんで私はタイトルがドンピシャなのが当り前と思っているんだろう?」と考えた結果、氷室さんの作品だけは、ほぼすべての作品が、「タイトルはこれ以外考えられないよね」というものであることに気づきました。

私が好きなのは、最初に見た時に興味を持てて、読んだ後に「なるほどこういう意味だったのか」と思えるタイトルです。氷室さんの作品は、タイトルだけでも最初と最後、二度楽しめるのでした。

好きなタイトルの筆頭は「なんて素敵にジャパネスク」!!
これは平安時代の宮廷貴族社会を舞台にした物語なのですが、なんて素敵なタイトル!生命力あふれる主人公の瑠璃姫と、周りの人々がすごく良いのです。

そして私は「素敵」という言葉の響きが好きになり、このブログのタイトル” Suteky”にもしてしまったのでした。これは私が心ときめくものにあった時に「きゃーー、す て き ―!!」と言ってしまうことにちなんでいます。

3.言語能力の例②「シンデレラ迷宮」

氷室冴子さんの作品は電子版でも読めるので、気になるタイトルがあれば、サンプルだけでも読んでいただけたらと思います。
一押しの「シンデレラ迷宮」の冒頭を紹介します。

序章 目覚める前に……

昔、ずいぶんと昔、朝、目覚めるのがとても待ち遠しくて、それでいて、ひどく怖かった時期があったっけ。
どうしてかというと、髪の毛のせいなのよね、これが。
その頃、あたしは実に、一転曇りのないオカッパ頭だったのだ。
なんたって、美容院は大人の女の人が行くところと思っていたから、男性向けの理髪店ですっぱり切ってもらっていたのよ、いつも。
でも、リボンやヘアバンドで飾る余地のない、スットントンのこけし髪って、乙女心を傷つけるものなのよね。

で始まります。この後を少し省略しますが、序章の最後は

でも、変ね。なんで、あたしは今、そんな昔のことを、やけにしみじみ思いだしてるのかしら。
もう、朝が近いんじゃない?いつまでも寝ていちゃ、大変よ。
今日は、何か重要なことがあるはずだわ。
誰かが起こしに来たら、どうするのよ。
あら、やだ。ほら、誰かが肩を揺すってる。
「ったく、ぐーすかぐーすかと、いつまで寝呆けてるのよ、このガキは!とっとと起きなってんだ。おら、聞こえてんの!?」
誰かが、起こしに来たんだわ。起きなく……ちゃ……。
で、でも、なんだか妙な起こし方ね。うちに、こんなにガラの悪い人、いたかしら……。

で終わるのです。

いかがでしょうか。このテンポの良さがずっと続き、細かな感情描写までもつくので、もう虜になります。

この物語は色々な立場の人から物事が描写されていて、抜群に面白いです。
いわゆるお伽話は、本当にめでたしめでたしなの?お姫様は本当に幸せになったの?熱烈に求婚した王子は、本当に彼女を愛していたの?など、段々と明かされていきます。
氷室さんの物語では、主役、脇役に関わらず、それぞれの人物が血肉をもって生きているように感じます。

4.おわりに

まだ話したりないのですが、一旦ここで終わります。
氷室冴子さんの作品から何を感じるのかは人それぞれですが、私は早い段階で読むことが出来てよかったなあと思います。

強く優しく明るく、物語のそんな主人公たちに何度も元気をもらいました。そして氷室さんのエッセイからも同じメッセージをいただきました。
復刻して電子版が出て、本当に嬉しいです。これからも、自分さえ言葉にできない寂しさや苦しみに襲われたときに、氷室さんの作品を読んでワクワクドキドキしながら、言葉を取り戻し、生きる活力を得ようと思います。