見出し画像

より良い対話への、新しいアプローチ -「対話型ファシリテーションの手ほどき」

今回は中田豊一さんご著書「対話型ファシリテーションの手ほどき」について紹介します。

著者の中田さんが代表理事をされている特定非営利活動法人「ムラのミライ」さんでは、「メタファシリテーション」(「対話型ファシリテーション」の正式名称)研修が定期的に行われています。私も数年前受講し、その凄さを体感しました。

副題にあるように、このファシリテーションは「人間関係をより良いものにするための方法論」です。事実を質問することがポイントなのですが、この本を読む前であれば「事実?私はいつも事実を聞いてるから問題ないよ?」と思ったかもしれません。私はまだこの手法を練習中で、上手く使えてはいないのですが、試行錯誤含めて書きたいと思います。

※私は著者さんもムラのミライさんも大変に尊敬していて、メタファシリテーションはものすごい手法だと思っています。そのため、この記事では色々と前のめりですが、どうぞご了承くださいませ・・・。

1.商品紹介 

Amazonの商品紹介には以下と説明してあります。

対話型ファシリテーションとは、NPO法人ムラのミライが、国際協力の現場で使える実践的なファシリテーション手法として開発した課題発見・解決のための対話術です。この本では、その対話術の初歩を、身近な事例を中心にわかりやすく解説しました。 以下のような悩みを解決したい方にオススメです。
-相手の悩みを解決するのを手伝ってあげたいけれど、どうしてよいのかわからない・・
-相手のことを知りたくていろいろ聞くけれど、本音を語ってくれていないと感じる・・
-問題について話し合っても、話が上滑りしてしまう・・・

この本はムック本で118ページほどなのですが、自学出来るくらい実践的な内容です。研修で学ぶ内容をここまで書いてくれるなんて、本当に太っ腹だなあと思います。

2.ポイント

このページにメタファシリテーションの定義とポイントが端的に紹介されていました。以下引用します。

メタファシリテーションとは、当事者自ら決断して問題の分析・行動変化に向かうよう、一問一答形式で当事者の気づきをサポートする方法です。

思い込みが出てこないよう、「事実」だけを聞いていきます。これを、事実質問と呼びます。
「朝食には何を食べるのが好きですか?」は、感情を聞く質問です。
「ふだん/いつも、朝食には何を食べますか?」は考え・認識を聞く質問です。
「今朝、朝食に何を食べましたか?」は事実質問です。

事実質問に使える疑問詞は・・・
What(何)
Who(誰)
Where(どこ)
When(いつ)
How much/many(どれくらい)

使ってはいけない疑問詞は・・・
Why(なぜ)
How(どう)

「なぜ」や「どうやって」を使ってはいけない理由は、その質問が相手の思い込みを引き出してしまうからです。問題解決するためには思い込みではなく、事実を知る必要があります。その事実を知るためにこの手法は有効です。

ただ、理屈は分かるのですが、事実質問を続けることが私にとってまだ難しく・・・。と同時に、これまで自分がずっと相手の思い込みを聞いていたことを痛感しました。

3.不思議な瞬間

事実質問を重ねていくうちに、見えなかった現実が目の前に浮かび上がってくることがあります。メタファシリテーションの創始者である和田信明さんはそれを「違った景色が見えてくる」と表現されています。私も数少ないながら、そういった経験をしました。

一例として母親との会話をご紹介します。事実質問の基礎練習の一つに「これは何ですか?」と聞くものがあります。聞き手と答え手に分かれて、交代で質問し合うのです。研修でこれを習って、どうしても練習したくなった私は、遠方の母親に電話越しでこの練習に付き合ってもらったのでした。

 「え?ファシリテーション?何でも聞いていいよ。」という母親に、傍に置いていたというバックについて聞いてみました。最初は「またこの子、変なことし始めたわねえ~」と軽い調子で答えてくれたのですが、「いつ買ったの?」と質問した時にしばし間があって、「これを買う前にね・・・・」と声が真面目になり、ある知人との会話を話してくれました。その会話から母親に今までにない感情が生まれ、その感情に押されて買ったのがそのバックだったようです。

見たところ、そのバックは数千円くらいの特徴のないものです。母親が持っていた姿を見ても、特に何も感じませんでした。ただ、思いがけずそこから数年前から母親の行動が少し変わった理由、彼女にとってここ最近の転換期を知ることが出来ました。最後は「そうなんだねえ」「話してくれてありがとう」としんみりと電話を切り、「うーん。なんかすごいことが起こった気がする」と思ったのでした。

この話は「なんか最近変わったね?どうして?」では聞けなかったと思います。また、母親の行動変化に内心「やり過ぎ~」と思っていたのですが、長年の悩みが解決した結果と分かって、多少おおげさになっても仕方ないな、と分かりました。この話を聞いてなかったら、「少し抑えたら?」と言ってしまったかもしれません。

こういう経験が少ないながらもあったのですが、たいていの場合、質問をした時に相手が一瞬沈黙します。その瞬間は曖昧な答え、後日その質問から失敗体験を思い出したことを話してくれたこともありました。特に「いつ」は取り扱いが難しい気がして、相手が話したくなさそうであれば、深堀りしたら良くないな、と気を付けています。

4.好きなところ

対話型ファシリテーション(メタファシリテーション)は、「事実質問を重ねながら相手の行動変化につながるような気づきを促す手法」と説明されています。これは何か問題を抱えて困っている相手を外から支援する際に有効な方法なのですが、「支援する」ことは、「小さな親切、大きなお世話」になることもあります。そこに迷うことがありました。

ただ、この本では「『変化は内側から起こる。外部者は信じて待つのみ』というのがファシリテーションの神髄」と書いてあり、外部者(質問するファシリテーター)は主役ではない、という考えが貫かれているのが好きです。

ファシリテーション全般についてほとんど知らないのですが、色々な手法があるのだとは思います。ただ、今まで会ってきたファシリテーターの中には、自分が一番多く話して、場を仕切って他の人にずばりと提案を行う・・・という方もいらっしゃいました。言い方は悪いのですが、自分が主役でいたいがためにファシリテーターをしているのかな、と思うこともありました。

ただメタファシリテーションは他の人がより良い人生の主役になるサポートをする、そういう方法であると感じています。

5.最近の活用方法

こんな風に書きつつ、最近は他者へは事実質問をしていません。理由は、仕事の内容が変わり相談を受けることが少なくなったからです。日常生活で使いたくなる場面はあるのですが、自粛しています。理由は興味本位で聞いてしまうのと、つい提案をしてしまいそうになるからです。これは私の自制心の弱さに起因するのですが、一旦質問を初めてしまうと、思わぬ情報が聞けたりするので面白くてつい聞きすぎてしまうのです。

職場の雑談でお悩み相談的な話題になって、それがバシバシの空中戦と感じても、ぐっと抑えて何も言わないようにしています。問題解決したいというより感情を表現して受け止めてもらう場面なのかなと思うので・・・。

また、自分が「なぜ~ですか?」と聞かれた時も、いつ、に置き換えて回答するようにしています。仕事で大切な時には少しだけ使いますが、すごく気を遣うので、もう少しうまくなりたいな、と思ったりします。

昔メタファシリテーション講座の受講生同士で、事実質問で雑談を進める、という試みをしたことがあるのですが、すっごく楽しかったです。色々思わぬ話が出て。恋バナとか盛り上がる盛り上がる(笑)プライベートな事をかなり聞くことになるので仲良くないと出来ないのですが、またあの事実質問を心置きなく使う会を開きたいと思ったりします。

 今一番事実質問を使っているのは、自分に対してです。日記を書くときに事実質問への回答にそって書いているのと、このブログでも「いつ/どこに対して素敵と思ったのか?」を考えて書いています。これは自分の好みを明確にするためで、より心地よい生きるために、自分の好みを正しく知ることが必要だと思っているからです。自分とのコミュニケーションがうまくいけば、他の人ともうまくコミュニケーション出来るのかな、と思ったりするので、これからも続けていきたいです。

6.終わりに:補足

よりメタファシリテーションについて知りたい方のために補足情報です。
・2020年11月10日に中田さんが話された講演「ムラのミライができたこと できないでいること」
8ページで、メタファシリテーションやこれまでの中田さんのご経験の要点を知ることが出来る貴重な資料です。

「途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法」
中田さんと和田信明さんが書かれています。内容の実用性はもとより、こんなにお互い尊敬している感が伝わってくる共著はあまりないなあ、と読んでいて心が温かくなる本でもあります。

和田さんがこの対話術を創始して、その職人芸的な対話術をメタファシリテーション手法として誰でも使えるよう体系化したのが中田さんなのですが、真摯に仕事をされてきたお互いへの敬意を感じるのです。この手法の成り立ちや国際協力の事例が豊富でとてもおすすめです。  

・研修
研修を受けると練習が出来て、講師に具体的に質問出来るので、とてもおすすめです。今はオンラインで受講できるようなので、関心がある方は是非ムラのミライさんのページをご覧下さいー。
2021年4月に講座の構成がリニューアルされたようで、見ていたら受講したくなってきました。昔は近くの講座が開かれるのを待っていたので、オンラインで受講出来るのは有難いですね。