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キャベツ

ひと玉のキャベツを手に取る


いつからだろうか。
大好きだった夫に抱かれる事が
こんなに苦痛に感じるようになったのは。

新婚当初は愛おしい夫に抱かれる時間が日常の中に当たり前にあった。


今日は、、ロールキャベツにしよう


当たり前すぎてそこに特別な"幸せ"など考えた事も無かった。
"幸せ"だと気付いたのはそれが全く無くなったからだ。
生き地獄の始まりだった。


「あっ、こんにちは薄焼先生」
「あらこんな所で珍しい」


誘われる事が無いのは勿論、誘う以前にその話をする事すら許されなかった。
どうすればいいのか分からなかった。
ただ1人で泣いた。


まな板を出す
キャベツを置く

夫と体で繋がれない事は、私にとって生きていく上でとても大切な大きな問題になっていた。

向き合ってくれない人に向き合い続ける。
嫌がっている人に求め続ける違和感。
閉ざしている心を開こうとするのは私には無理だった。

鍋に入れる
キャベツはあっという間に柔らかくなり
甘い香りが鼻をくすぐる


そんな状態が数年たっても
それでも夫を誘う事は辞めなかった。
もう心も体もとっくに夫を求めてはいなかったけど。


キャベツにひき肉をのせていく
形成する作業は楽しい


知らなかった。
拒まれ続けると好きな気持ちも消えていくこと。

知らなかった。
体が満たされないと心が死んで行くこと。

あとは煮込むだけ
今日はシンプルにローリエと塩だけで

色んな事を教えてくれてありがとう。

「あ~お帰り~!早かったね~。もうすぐご飯できるよ、食べよっ!」


かわるがわる展3 短編集
2020.06.29【キャベツ】より

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