小説家中村航のおもしろい小説の書きかた 〜 段落を制するものは、小説を制する! 【段落の構成の仕方】
おもしろい小説には、3つのおもしろさがありました(前回の記事より)。今回はその3つのおもしろさを、大構造(プロット)から小構造(段落)に適用して、小さなところからおもしろくする方法をお伝えします。
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小説のおもしろさ
前回のおさらい。小説のおもしろさ(小説の読ませ方)は、次の3つの要素でした。
1.現在がおもしろい
2.未来(結果)が知りたい
3.過去(理由・原因)が知りたい
この3つの要素を大構造(プロット)に入れるというのが前回のお話でしたが、今回はこの3要素を小構造(段落)に適用します。小説の最小構造は「段落」。つまり、段落がおもしろくなれば、小説全体がおもしろくなるわけですね。
【格言】 段落を制するものは、小説を制する!
その前に、段落の構成を意識することには、メリットがあります。
・文章がビシッと締まる
・文章を論理的に構築できるようになる
段落を意識をすると、いま書いていることがハッキリするので、話がズレることが少なくなります。また、小説の中の論理展開(Aがあって、Bがあって、Cになるなど)が、段落単位でしっかり書けるようになるので、読者が内容についていきやすくなります。
段落が変わったときに、別の視点(カメラアングル)への切り替えが行われるということを作者が意識していれば、読者は視点が変わったことを自然に受け入れることができます。それが意識されていないと、複数のアングルが混在することでチラチラした印象になり、読者が混乱する原因となってしまいます。
「プレゼン・説明型」と「説得型」
それでは、小説のおもしろさの要素を使った段落の構成の仕方について。
段落の構成の仕方には、次の2種類あります。
・「過去(理由・原因)を知りたい」を使った「プレゼン・説明型」
・「未来(結果)が知りたい」を使った「説得型」
①プレゼン・説明型
最初に大事なこと(結論)を書いて、それを補足する文章を続けて書いていく型です。「過去(理由・原因)を知りたい」という読者の欲求を利用して読ませます。太字のところが結論で、そのあとで補足をしています。
十代の頃、モテるための努力を惜しまなかった。雑誌を参考にして誰かのマネをしたり、ギターを買ったり、話芸を磨いたり、前髪を伸ばしたりした。手品の練習をしてみることさえあった。
だが努力ではモテるようにならなかった。決して努力を怠ったわけではない。僕はモテるために全身全霊をかけて手品を練習したのだが、結果、手品が上手になっただけだった。
結局のところ、動機が不純な努力は、どこにも辿り着かないのだ。音楽が大好きでギターを弾き始め、最終的にモテるようになった人間はいる。だけどモテたくてギターを買うのは、そもそもチューニングが狂っているのだ。
このように書くと、段落の最初の一文を追うだけで、筋がわかるようになります。
何かを説明しなくてはならないとき、描写をする必要があるときに有効です。この型で書かれた文章の長所は、わかりやすいこと、読みやすいこと、理解しやすいことです。著者と読者の間に、共通の情報が少ないときに、その不足を埋めるのに役立ちます。
②説得型
最後に大事なこと(結論)を書く型です。最初に具体例などを書き、結論に向かうように書きます。「未来(結果)を知りたい」という読者の欲求を利用して読ませます。太字のところが結論です。
十代の頃、僕は時に話芸を磨き、時に前髪を伸ばした。ある時は思いたってギターを買い、またある時は手品の練習をした。あの頃、モテるための努力を惜しまなかった。
前髪を伸ばしたら、おでこが隠れた。ギターを練習したら、少しだけ弾けるようになったし、手品を練習したら、手品が少しだけ上手になった。だけどそういう努力をしても、それだけでモテるようにはならなかった。
音楽が大好きでギターを弾き始め、最終的にモテるようになった人間はいる。だけどモテたくてギターを買うのは、そもそもチューニングが狂っていると思う。結局のところ、動機が不純な努力は、どこにも辿り着かないのだ。
このように書くと、読み応えのある文章になります。共感を深めたり、深いい理解を促したいとき、感動を与えたいときに有効です。
③ハイブリッド型
さらに、ここで大構造のときにご説明した「未来に向かいつつ、過去に向かう(または過去に向かいつつ、未来に向かう)とモダンな構造になる」という原則を、小構造(段落)に応用します。つまり、未来(結果)に向かうメインの文章と、過去(理由)に向かうサブの文章を、1つの段落に入れる書き方です。
説得型の「未来(結果)を知りたい」という型の冒頭に、「どういうこと?」と思わせる1行をつけます。これで、プレゼン・説明型の「過去(理由・原因)を知りたい」という欲求も組み合わせることができます。
モテるためにする努力は無駄に終わることが多い。僕はモテるためにギターを買い、話芸を磨き、前髪を伸ばしたり、手品の練習をしたり、手品の練習をしたりした。努力は充分にした。だけどその努力によってモテるようになったことはなくて、ただ前髪が伸び、ただ手品が上手くなっただけだった。結局のところ、動機が不純な努力というものは、どこにも辿り着かないのだ。
キラーフレーズを頭に
段落の1行目は、工夫することを忘れずに書きましょう。1行目は穴埋め問題だと思って、そこに魅力的なキラーフレーズを入れようと、がんばらないといけません。
新しい段落に進むとき、読者の心理もそれまでとは違う、新しい状態になります。そのため、新しい段落は、場面・視点を切り替える効果があるといえます。また、地の文から会話文へ切り替わるときも同様です。理屈から音に変わることで、場面を切り替える効果があります。
切り替えと同時に、「どういうこと?」と思わせる、サプライズや謎を含むインパクトのあるキラーフレーズを書き、メインの結論を書き、段落の終わりにサブの結論(1行目の謎を解くこと)を書くことで、ハイブリッド型の段落を構成することができます。
まとめ
中村さんは、この書き方を発見してから、書くのが楽になったとのこと。段落を意識して書くことで、文章が引き締まり、おもしろくなり、読者の気を引くことができるようになります。ぜひお試しください。
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