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grandmother 「まじないをすれば、油汚れはとれるんだよ」

祖母が台所に立って、洗い物をしている姿が目に浮かぶ。油で汚れた皿を左手で持ち、ひょっいと横に倒したたかと思うと、洗い桶にある水を右手ですくって油で汚れた皿の裏側へ2回かける。

「こうすると油汚れがとれるんだよ」と祖母は言っていた。わたしが幼稚園生の頃だっただろうか。このシーンはいまも目に焼き付いている。

祖母の言うことを素直に信じていたわたしは、祖母の言いつけをきちんと守り、小学生になって食器洗いのお手伝いをするようになったときは、油で汚れた皿は裏返しをして皿の裏側へ2回ほど水をかけた。果たして、これで本当に油汚れが落ちたのかは記憶にない。でも、この「おまじない」は習慣化され、わたしはかなりの間、このおまじないを使って皿洗いをしていたと思う。

大学生になった頃、たまたま読んだ雑誌の中に、水道の蛇口の下にお皿を裏側にして置き、勢いよく水道を出すと、皿の油汚れが落ちやすくなる、というおばあちゃんの知恵袋が載っていた。これに我が家の「まじない」は近いかも知れないと思った。

今回、いろいろと調べ直してみたら、油汚れの皿の裏側に水をかけるという習俗について、ブログに書いているひとがいて、その方もなぜそのような行為をするのか、根拠やルーツは分からず不思議だ、と書かれていた。やはりうちの祖母だけの呪法ではなかったようだ。

その他にも祖母の思い出はいろいろとある。戦時中は食料不足で庭にさつまいもを育てていたけれどうまく実らず、さつまいもの葉を食べていたことやはったい粉で麦こがしを作って食べていたことなど。いつか、苦楽を共にしたひとたちと集まって、当時を思い出しながら当時の食事を再現して食べてみたいなぁ。そんなことを遠い目をしながら話していたことを覚えている。

戦時中の銃後のはなしは、もう少し聞いておくべきだった。10年前に祖母は鬼籍に入ってしまい、もうはなしは聞けない。子どもにとっては退屈なはなしだったとしても、聴いておけば良かった。

新しい靴を始めて履くとき、祖母は、かならず靴裏をライターであぶってくれた。新しい靴を履くとき、靴裏に唾を吐いたり、マジックでペケを描いたりと少しダメージをつける風習は、日本中にあると聞く。

大学生になって東京で一人暮らしを始めてからも、新しい靴を買ったときは自分で靴裏をライターであぶっていた。でも最近はしていない。いつの頃からしなくなったのだろう。

昭和は遠くになりにけり。でも、祖母との思い出は、遠くなったり近くなったりしながらも、わたしのこころの中に今もある。

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