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この木なんの木、気になる木 「シュロの狂気に取り憑かれた」の巻

『世田谷クロニクル』の「正月から3月」の8ミリ映像を鑑賞仲間と一緒に見ていたときのこと。Мさんが「子どもたちが遊んでいる庭の、ツンツンしている植栽が気になるんだよね」という話をした。
わたしはまったく気にならず、逆に見てさえもいなかったので、その自分にない視点にびっくりした。だって、この映像のメインでもなく、たまたま映り込んだ、しかも、一見、価値がなさそうなモノへのクローズアップなのだもの。

time code  1:30のあたりの映像。
女の子の後ろにあるツンツンした植栽が気になると言う


でもその発想の洗礼が、わたしの映像の見方を変えていった。重箱の隅をつつくように、舐めるように、映像をじっくり「見る」ようになった。見ると「見る」とは違う。ひとは、見ることを常に頭の中で取捨選択している。だとしたら、わたしたちの目玉はカメラのレンズで、頭の中で常に見えてくるものを編集しているとも言える。

 「気になるんだよね」と言われると、自分も気になってしまうことはよくあることで、わたしもこのツンツンが気になり、この植栽はなんなのだろうか、と、植物図鑑や庭造りの本なんかを見て、あれか、これかと空想する日々が続いた。

 ツンツンしている葉っぱのことを庭造り業界では「剣葉(ケンバ)系」と言うらしい。このツンツンしている葉の形は、庭でも公園でも校庭でも、どこかでかつて見ていた気がした。けれど、具体的な記憶や名前はわからない。

 『世田谷クロニクル』の「正月から3月」の映像を植物に詳しい母に見せてこれは何かと質問したところ「おもと、ハラン、シュロではないか」と候補を出してもらった。ちなみに全部、うちの庭にあるよ、とのこと。まずは、それらの植栽の写真を撮りまくり、並べてみた。8ミリ映像のシュクショとも比較したりして。

色々な剣葉系!近所でも探してみた

その中でも、とくにシュロが気になった。

【シュロ】
棕櫚、棕梠、椶櫚。ヤシ目ヤシ科シュロ属。トウシュロ、ワシュロなどの種類がある。常緑高木。温暖で、排水良好な土地を好み、乾湿、陰陽の土地条件を選ばず、耐火性、耐潮性も併せ持つ強健な樹種である。生育は遅く、管理が少なく済むため、手間がかからない。

参考 Wikipedia

気になりだすと、シュロがやたらと目に飛んでくるようになる。今まで気づかなかったけれど、見渡せば、シュロの木は、うちも含めていろいろな家や道路、山などに生えていた。どこにでもあるような気がする。

近所の子にシュロのある場所を教えてもらった
これは鳥のフンから芽吹いたシュロだ

 明らかに、鳥のフンを介して広まったと思われるシュロが、空き地に自生して生えているのも見られる。自生シュロの分布を見てみると、鳥の生態系や鳥のトイレの場所の推測地図も作れそうで面白い。夏休みの自由研究のように、自分の住む地域のシュロマップを作ってみようかと思った。

 シュロの木の写真をとにかく撮りまくった。近所の家やお寺、水戸芸術館のまわり、公園の中、デパートの裏、、、、意外と街中でもある。田園風景の中に、ひょろっと一本、背の高いシュロが生えているのは絵になる。
もともとシュロは実用的な木で、箒や寺の鐘の紐の材料にもなり、墓地で植えられているこも多いと聞いたので、古くからある墓地にも行ってみたところ、明らかに、ひとが植えたというシュロはなかったけれど、代わりに、こんなところにシュロの木が、という感じに、墓石の隣とか、狭い通路とか、駐車場などにシュロが自生していて驚いた。 

墓石の間にシュロが!

こんな風に、外出すると、いつも目でシュロを追ってしまう。なんだか恋しているみたい。シュロに夢中だ。

写真にもたまたまシュロが映り込んでいるのを発見してひとり悦に入るようにもなってしまった。小野和子さんの「あいたくてききたくて旅にでる」(PUMPQUAKES)や「はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くり返す」(武蔵野市立吉祥寺美術館)の書籍の写真の中、自分の卒園アルバムの中や家族写真の中にも、シュロが映り込んでいたのを見つけると、まるで大事な打ち明け話をするかのように8ミリ鑑賞仲間へ報告した。もちろん仲間たちには思いっきり引かれたが、めげなかった。

 とにかくシュロについて熱心に語り、シュロの写真を見せまくるわたし。仲間のAさんから「狂気を感じる」と言われ、思わずハッとした。そうだ、わたし、狂おしいくらいにシュロに取り憑かれてしまった。

 そして、Aさんから、シュロのマガジンが出ていることを教えてもらった。パルム書房「写真とまんがと文 シュロ」というシリーズだった。

「写真とまんがと文 シュロ」のマガジン!

シュロに取り憑かれているのは、どうもわたしだけじゃなかったみたいだ。凄い!  


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