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ある郵便局員の使命

※以下の文章は「囲碁将棋の情熱スリーポイント」に送って不採用だった年賀状メールです。


あけましておめでとうございます。

私は、郵便局員です。
なので正月近辺は、とにかく年賀状の配達で忙しいんですよね。

1月2日の今日も、私はずっと配達をしていました。
そしたらその途中で、少し気になる宛名の年賀状があったんです。

その年賀状は、宛名の所に『黒ヤギさんへ』と書いてありました。
そして差出人の所には『白ヤギより』と書いてあったのです。

これを見た瞬間、私は「ヤバいな」と思いました。


黒ヤギさんがこの年賀状を受け取ったら、確実に読まずに食べてしまう。
なんだかそんな気がしたからです。


私は想像しました。
もし私が、年賀状をこのままポストインした場合。

恐らく黒ヤギはこれを、読まずに食べます。そして、
「しかたがない・・・」と早々に切り替え、
「さっきの年賀状の、ご用事なあに」という内容を白ヤギに送るでしょう。

するとその年賀状を受け取った白ヤギは、
恐らくそれを読まずに食べます。そして、
「しかたがない・・・」と早々に切り替え、
「さっきの年賀状の、ご用事なあに」という内容を黒ヤギに送るはずです。


こうなった場合、もう地獄です。
“年賀状の螺旋”から抜けだすことは、ほぼ不可能。
「ご用事なあに」の無限ループのトリガーはすでに引かれてしまっているからです。


ですが私なら、それを防ぐことができます。

これを黒ヤギに渡し、
その場で読ませ、
その場で返事をもらい、
それを私が白ヤギまで持っていけばいいからです。

そうすれば、黒ヤギ・白ヤギ間の郵便史上初の、ワンラリーでのやりとりが可能になるかもしれません!


私は強い使命感に駆られて、黒ヤギの家のチャイムを押しました。
すると、玄関から黒ヤギが出てきます。

私は彼に、
「こんにちは!年賀状を届けにきました!
黒ヤギさん、この年賀状、絶対食べちゃダメですよ!今ここで、ちゃんと読んで下さい!」
と言いました。

すると黒ヤギは、

「あー、、、ハイ!
わっ・・・かりました~。

・・・うわ~!
うまそ~~〜!!!」

と言って私の手から年賀状をひったくると、いそいそと部屋へ去っていきます。

ヤバい。私は焦りました。今のはどう考えても年賀状食う奴の返事です。
黒ヤギは想像以上に、年賀状を食べ物として認識しているようでした。

やはり私の忠告ごときじゃ、運命は変えられないのか・・・。


いや!まだ諦めてはいけません。

ここまで来たら、私が無理やり年賀状の内容を確認すればよいのです!

私は閉まったばかりのドアを強引に開け、
「すみません!申し訳ないんですけどそれ、ちょっと私にも見せて下さい!」
と叫び、黒ヤギが握る年賀状を覗き込みました。

すると年賀状には、衝撃の文章が記されていました。


そこには、

「さっきの年賀状の、ご用事なあに」
と書かれていたのです。


遅かった・・・・・・・・・。


白ヤギはすでに年賀状を一枚食べた上で、黒ヤギに再送していたのです。

無限年賀状地獄は、もう始まっていました。


私は途方に暮れながら黒ヤギに
「もう年賀状、送ってたんですね」と言いました。

すると黒ヤギは、
「ええ、昨日で8625通目を送りましたよ」と返してきました。

私はさらに絶望しました。

ということは彼らは、何十年も前の正月から、毎日このやり取りをしているのでしょう。

絶対に年賀状の意味はありません。もはや執念です。
どっちもイカれています。
誰か止めてあげた方がいいと思います。

言葉を失う私の前で、黒ヤギはむしゃむしゃと年賀状を食べ始めました。ああもう、食べるの癖になっちゃってるんだろうな。

私もう、彼らのことは諦めて仕事に戻りますね。


今年もよろしくお願いします。



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