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【小説】エイプリルフール

4月1日。エイプリルフール。
この本丸でも、この日は嘘をついてもよいことになっている。普段は嘘になってしまうから言えない願いや祈りを、この日だけは気にすることなく素直に伝えようというのがこの本丸の主の方針だった。

今年の4月1日に1番に主と顔を合わせたのは鶯丸である。不寝番だったのだ。
「大包平は『叶わぬ願いなどない!俺は嘘はつかない!』と今年も言っていたぞ。あいつならばそうなのかもしれんな」
くつくつと笑いながら語る鶯丸に、主はそういう自分はどうなのかと尋ねる。
「俺か?俺はそうだな……。ずっと主と茶を飲んでいたいな」
のんびりと叶わぬ願いを口にする鶯丸に、主はそうだねと微笑みながら答えた。

朝食の席に向かう主と廊下で会ったのは歌仙兼定だった。
「おや主、おはよう。……山吹のたちそよひたる山清水汲みに行けよう道知らずとも」
にこやかに告げると、お先にと足早に歩いて行ってしまう歌仙の背中を見送って、鶯丸がふうむと唸る。
「情熱的だな」
『主が死んでも黄泉の国まで会いに行く』とは恐れ入ると呟く鶯丸に、嬉しいことだねと主が返す。

朝食の席で、主は本丸の皆に毎年こう告げる。今日はエイプリルフールです。嘘をついてもいい日です。普段は言えないことも、今日だけは言ってみませんか。
私はこの戦いに絶対に勝って、それからみんなとずっと一緒にいます。

優しい嘘を毎年繰り返す、そんな本丸のお話。


おしまい。



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