【サステナダイアログ#5】学校教育ってなんのため?
こんにちは。Sustainable Weekの豊田真彩です。
Sustainable Weekメンバーが毎回ゲストをお招きして、SDGsやこれからの社会について対話する企画「サステナダイアログ」。
今回は、私と佐藤彩香が、濱野優貴さん(彦根東高等学校教諭/立命館大学経済学部卒業)をゲストにお招きし、お話を伺いました。
教育に関わるきっかけ
(濱野さん自己紹介)
濱野:今年の春から彦根東高校で社会科の教員をしています。大学は立命館大学経済学部国際経済学科を卒業し、そのあと滋賀大学の教育学研究科に進学して地域の環境や環境教育について研究していました。
佐藤:環境教育など教育に興味を持ったきっかけは何だったのですか?
濱野:実は、教育に興味を持ったきっかけにこれといったものはわからないんです。教員という職業がいいなと思ったのは、塾の先生の影響かもしれないです。授業が面白い社会科の先生でした。それから特に決めきらないないままだったんですが、将来は教員になろうかなと周りに言っていたので外濠がうまっていた感じですね(笑)
佐藤:なるほど。教員への思いがあったにもかかわらず、経済学部に進学したのはなぜですか?
濱野:まず、社会の先生になりたかったから。でも、得意な科目は数学や物理などばりばり理系。社会教員免許が取れて、授業では数学的な要素もあるので、経済学部がぴったりだったんです。つぎに、国際援助とかに興味があったからです。高校生のときには国際援助に関する本を読んでました。立命館大学には(当時)国際経済学科があり、理系の授業があり、社会科の教員免許もとれる上に、国際関係についても学べる。。それで学部と学科が決まりました。あと、高校の時から学校のある守山市で環境の研究をしていて、大学でも先輩とその活動を続けるために、滋賀県にあるびわこ・くさつキャンパスに進学したいという気持ちもありました。
ストーリーはあとからついてくる
佐藤:自分の好きなことややりたかったことは実際とちょっと違っていたということですか?
濱野:最終的に絶妙にマッチした感じはしますね。学科で学んでいた国際経済の考え方だったり、アジアの農村の研究だったり、それから守山の水環境の活動だったり。実はそれぞれに共通する感覚がありました。SDGsが出てきたときには、これだ!と思いましたね。環境と経済と国際的な視点がある。一方でローカルな視点もある。
佐藤:やりたいことがあるなかでそれがマッチする環境があったということですね。
濱野:それもあとで分かるのかも知れないですね。ストーリーっていうのは後でつくられていくものだと思っていて。当時は成り行きに任せて行動していました。あとからそういえばあれもこれもみたいな感じで、どんどん詰め込まれてストーリーになっています。なので、その場その場で目的がないことを悩まなくてもいいと思います。特に大学では、良い意味でも悪い意味でもこうじゃなかった、ということが多いのではないでしょうか。
佐藤:たしかに、私も自分がこのような活動をするとは思ってもいませんでした。でも、大学に入る前の進路選択などで、夢や目標を明確にと言われた経験がある人も多いと思うのですが、、。
濱野:大学に入る前、高校の時からあまり明確にしすぎると予想外の出来事になってしまったとき、ショックが大きく挫折のように感じてしまいます。そもそも最初から既定路線を作っていなければ道から外れるということなんてないし、それが本来の道になるわけですから。僕はいま、教員の立場で生徒から相談されることがありますが、今面白いと思うことをやったらいいというふうにアドバイスしています。
佐藤:先生は明確な目標(夢)をもって進んでいけと言うイメージでした。以前はずっと同じ仕事という人生が主流のようでしたが今は少し変わってきてますよね。
濱野:以前は直線的でしたよね。一方で今は、複線的というか、いろんなことを経験して絞っていくという生き方もありますよね。例えると、インスタの投稿ですね。いろんな所へ行って写真をたくさんとっているけれどすべては投稿しないじゃないですか。それっぽいものをそれっぽいハッシュタグで繋げながら提示していく。それを見る人は外面だけで判断していく訳です。投稿する人は、こういう写真をこういうハッシュタグでするとこういう人生に見えるんだろうなと思って投稿するわけです。これができる時代。全部世間に出すわけじゃないけど、いっぱい写真を撮っておくとあとからいくらでも映える投稿ができる、みたいな感じですね。
佐藤:今の時代は選択肢が本当にたくさんありますもんね。
濱野:そうそう。逆にそれが大変だったりもするけどね。いろんなカードをもっているひとはすごいストーリーをつくって出せてしまう。一方で、いろんなことをやっていない自分をだめだと思ってしまいがちなことは、いまの時代の難しいところだと思います。
佐藤:その中でポイントになってくるのが教育だと思うのですが、昨今は教育格差の問題がよく議論されていますよね。濱野さんは教育格差についてなにか考えておられることはありますか?
濱野:公立高校に行った理由がまさにそこにあります。以前は、大学院に通いながら私立の中学校で講師をさせてもらっていたので、そのまま私立の教員になるという選択肢は大いにありました。しかし、佐藤さんがおっしゃっていたような問題にチャレンジするために、あえて公立高校の教員の道を選びました。教育の問題解決が難しいところは誰がこのシステムをつくっているのか、この問題の原因は何なのかが分からなくなっていることです。その中で、個人的に大きなカギになっているのがIoTだと思っています。例えば、今まで塾行けなかった子もデジタル端末で自分で学べる、これまで出会えなかった人ともデジタル端末を活用すればどこにいても出会える。経済格差や地域格差による教育格差の問題をデジタルで解決できるのではないかと考えています。デバイスを導入することは始まりつつあるので、あとはインターネットの世界の可能性をどれだけ体系的に生徒に伝えられるかです。あえて授業でZoomを使ったり、YouTubeを取り入れたり色々と試行錯誤していくことが必要ですね。
佐藤:これまでの学校はネットを制限するイメージでしたが、これからは正しい使い方、接し方を教えていく感じですね。
濱野:そうですね。でももう一つ問題なのが、高校は学力で分けてしまっていることです。現状だと、学力で分けることは、経済格差で振り分けていることとほぼ同じです。塾に行けているか、ご両親がそろっているか、ご両親がどういう環境で育ってきたか。全てではないけれどほぼ直結しているといわれています。なので、高校からではなくむしろ小中でデジタルデバイスを教えていくことが必要だと思います。
佐藤:こうなると教える側の教員にも知識が必要になってくると思います。大学もオンライン授業ですが、先生によって活用のレベルは様々です。デジタルの活用だけではなく、探究の授業でも同じような話を聞いたことがあります。
濱野:以前勤めていた学校の先生がしきりにおっしゃっていたことは、いかにこどもたちに謙虚になれるかです。いまのこどもたちはデジタルネイティブ世代で、デジタルデバイスに慣れています。探究に関しても、こどもたちにとっては砂場遊びやレゴブロックで遊ぶような感覚で、実はもともと探究が得意だと思うんです。遊んでいる時、途中から目的を自分で見つけはじめたり、自分たちでハンデやルールを決めていったりしますよね。それと同じような感じで。だからこそ、教員だから何かを与えてあげるんだといった考えやプライドを捨て、こどもたちに謙虚になって教えてもらう姿勢が重要です。
教育現場における多様性の重要性
濱野:特に日本には学校の中には教員しかいないです。実は海外に行くと違っていて。キャリアカウンセラーがいたり警察、心理カウンセラー、、いろんな人が学校の中にいるんです。日本の学校は同質性が高いんですよね。だから教員自身も心がけていなければ謙虚になれなくなっていく可能性が十分にあります。
佐藤:確かに、日本の学校は先生ばかりですね。
濱野:そうなんです。教員という色メガネでしか生徒を見ることができなくなっていることも問題だと感じています。だからこそ、サステナみたいないろんなことをしている人に生徒と関わってもらうことがいいなと思っています。いろんなロールモデルをその背中でみせてもらえたり、教員では気づかなかった生徒の新たな一面、可能性を発見してもらえたり。そうすることで、先生自身も刺激を受けるんです。だから私はこういう所に出てくるのが好きなんですよね(笑)。最初に言っていた、立命館には教育学部がないっていう話もそうです。立命館のような総合大学から教員になることがこれからは求められてくると思っています。教育学部はもともと教師になりたい人が集まっていてすでに同質性が形成されてしまっているんですよねそうすると100%ではないですが教員になるための大学生活を過ごしてしまい、視野が狭くなる可能性がでてきます。いろんな人がいて、教育以外のこともいろんなことにチャレンジできる環境が身近だったりすることも必要じゃないかと思います。
これからの「集まる場」の意味とは
佐藤:コロナウイルスの影響で、大学ではキャンパスという場としての価値が問われていますが、高校なども学校としての「場」がなす役割は何だと思いますか。
濱野:そうですね。まず今の教育市場で脅威になっているのがN高です。いままでの通信高校のイメージとは大きく変わり、既存の学校の枠にハマりきらない子がN高のような学校に行っています。その子たちはICTを使いこなして、起業したり、海外の大学に進学したり。通信でもそこまでできるようになると、もう集まる意味ってどこ?ってまさにそこなんですよね。でも、全部通信制にするかといえば違うんですよ。N高は確固たるものを持っている子。逆に、既存の学校は仲間と助け合いたい、仲間と一緒にすることで力を発揮できる、そういう子向けに進んでいくだ
ろうと思います。
佐藤:私自身も高校で何をやりたいだろうみたいな感じだったので、そこで通信制に進学する道を選んでいたかと言われれば違ったと思います。どちらかというとみんなで学びたいタイプだと思います。
濱野:これをやりたいという確固たるものが見つかってない状態でネットに追い出されてもそれは情報の洪水になります。知らず知らずのうちに情報に操作されて、自分が目にするものばかりが濃くなっていき、逆に視野が狭まりますよね。だからこそ、学校として提供できるものが重要になります。N高の登場とともに既存の学校の考え方の転機となったのがコロナです。コロナで学校にできないことが浮き彫りになったことで、学校教育のレベルが明らかになりました。受験のための暗記学習はYouTubeだってできてしまう。在宅でもドリルを配れば解決する。これまでの閉鎖的でさながら予備校のような教育だけではいまの学校はやっていけない、強みや価値がなくなっています。
多様性を認められるか
佐藤:学校教育の現状は、私立と公立、進学校かどうかによっても違っていると思うのですが。
豊田:私は公立高校で大学進学を目指した勉強をしていました。そのような環境で過ごして、今改めて思うのは自分らしさ、人と違う自分の強みを見つける機会の少なさです。同じ軸のもとでランク付はあっても周りとは違う分野を広く見れていなかったと感じています。
濱野:以前、同志社中学校に勤めていたんですが、そこではPBL(課題解決型の授業)を基本としていました。その授業では、成果物が特徴的なんです。提出するものが動画の子もいれば、レポート、ポスターの子もいる。伝えたい相手に伝わればやり方も形式も自由なんです。生徒は自分にマッチする方法を探すことができますし、最終的に自分の成長を何らかのカタチで表現すれば良いことを自ら学びます。学校だと校則からも分かるように、みんな同じ服、みんな同じ髪型、、決められた枠に当てはめられているんですよね。この枠があるおかげで少しでもハズレていると目立ってしまう。これも現状の問題ですよね。
佐藤:濱野さんは教育に対する疑問や考えをお持ちですが、この声を届けることはできるでしょうか?
濱野:明日あさってですぐ変えようとは思っていないので、まずは自分の授業から取り組んでいきたいです。スマホを使って調べてみようとか、できる範囲のことから挑戦しています。これを見たほかの先生がどのように感じられるかは分かりませんが、面白いと思って取り入れてもらえたらいいなと思います。もちろん自分も他の先生や生徒から学ぶ姿勢を大切にして、良いところは取り入れて、たりないところがあれば指摘してもらいながら変えていきます。自分から変えてみて、合うものを見つけられることが重要だと考えています。いろんなやり方、いろんな人がいて良いと思うので!
これからの教育の役割とは
佐藤:では、濱野さんはこれからもずっと教育に関わり続けられるのですか?
濱野:どうかなー。あまり同じ所にずっといるつもりはないです。かといって何をするか決まっているわけでもない。教員として転職するかも知れないし、政治家になっているかもしれないし。USJとかディズニーランドが好きで企画とかやってみたいからいつの間にかテーマパークに就職しているかも(笑)
豊田:ストーリーは後からってことですね(笑)
濱野:出たとこ勝負でやっていて、目標もその都度変えているので。そのおかげで目標は全部達成できるんだよね。
佐藤:私も2回生になって将来について考えるんですけど、将来像が描けなくて。。
濱野:後で振り返ったときに、自分に何が積み上がっているかだと思います。心の底からやりたいと思うことがすでにあればそれをやるべきだとは思いますが、そうでなければ自分から探しに行かなくても目の前の面白いと思うことを選択していったらいいと思っています。あとでこれとこれは実は繋がっていたのかも?というように線になっていくので。というか繋げられるんです(笑)たまたま繋がったそれらが縁でもあります。
濱野:印象的に残っていることで、教育は20年、50年後の社会を創っている、という言葉があります。生徒を”今”に適用させようとするのではなく、1人1人のとがっている部分を大切にしていくことが大切だと思います。educationはeduce、つまり引き出すということなので。
~おまけ~
佐藤:教育って面白いですね。
濱野:ほかの先生も話を聞いてみると、きっと面白いと思いますよ。先生が人生観や価値観を語れる機会があっても良いですね!
佐藤:私も見つかるまでいろいろチャレンジしてみようと思います!
濱野:ぐらぐらしながらで良いと思います。振れ幅があってしなやかであれば折れないですから。そしてどこかで軸が見えるとその振れ幅が自分の強みになると思います。
終わりに
いかがでしたか?キーワードは教育でしたが、すでに高校を卒業されている方や教員ではない方にとっても様々な気づきがあったのではないでしょうか。私自身も教育が専門というわけではないのですが、お話を通して教育って学校の中だけの話ではないと感じました。学校が50年後の社会を創るということは、現状の課題を解決し目指すべき理想の未来をつくるチャンスがあるのは教育現場です。まさに学校は社会をうつす鏡のようなものと言っても過言ではないと思います。
また、いろんなことに挑戦して点と点を線として繋げられるのを待つことや多様性が強みになるといった視点は私自身のこれからの大学生活においても参考になりました。自分の“好き”や“面白い”という気持ちを大切にしていろんなことにチャレンジしていきたいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。サステナダイアログではこのようにこれまでに私たちの活動に関わってくださった方をゲストにお迎えしお話しさせていただいています。フリーアジェンダのため、ゲストによって様々なトピックで盛り上がっています。ぜひほかの回もご覧いただけますと幸いです。
以上、サステナダイアログ#5でした!
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