見出し画像

この作品を描いたアーティストは、誰でしょう? (答えあわせ) & シカゴ美術研究所所蔵作品

一昨日の記事の質問、「この作品を描いたアーティストは、誰でしょう?」。 

画像1

この作品は、《葡萄、檸檬、洋梨、林檎》(クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0))。1887年の秋頃に制作されたと考えられている。ちなみに、米国のアートの聖地のひとつ、シカゴ美術研究所所蔵の作品だ。

では、誰が描いたのか?

答えあわせをする前に、いつも通り、ちょっと寄り道をしていこう。 

まずは、お馴染みの「シカゴ美術研究所のもう一度みたい作品」のシリーズから、上記の作品と同じアーティストが描いた《春の釣り人、クリシー橋にて(アニエール)》(1887)(クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0))。

画像2

川の流れの表現が、《葡萄、檸檬、洋梨、林檎》のテーブルクロスの筆致を思わせるけれども、どことなく「印象派」っぽい。ちなみに、アニエールは、パリ郊外にあるコミューンだ。となると、このアーティストは、このあたりに住んでいたのだろうか。

そして、これらの作品を描いたアーティストは、フランスの画家ポール・シニャック(1863- 1935)の友人だった。さすが、シカゴ美術研究所、ポール・シニャックの作品《Les Andelys, Côte d’Aval》(1886)も所蔵している(*1)。

画像5

このシニャックの同志がジョルジュ・スーラ(1859-1891)。そして、スーラの代表作といえば、同じくシカゴ美術研究所所蔵の《グランド・ジャット島の日曜日の午後》(1884-86)(*2)。

画像4

シニャックとスーラといえば分割描法だ。膨大な小さな色の点を用いて描くその技法は、点描画法ともいう。そして、この新しい画法で描く彼らを新印象派と呼ぶようになる。

そして、前述のシニャックの友人であり、《葡萄、檸檬、洋梨、林檎》と《春の釣り人、クリシー橋にて(アニエール)》を描いたアーティストの《自画像》(1887)が、やはりシカゴ美術研究所に所蔵されている(*3)。

画像4

もうおわかりだろう。この《自画像》を描いたアーティストは、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)。

1886年、ゴッホは、故郷オランダを去り、画商をしていた弟テオドロス(通称「テオ」)がいるパリへ移り住む。クロード・モネをはじめとする印象派が活躍する一方で、シニャックとスーラの新印象派が登場し始めた頃の芸術の都パリ。

そのパリで、ゴッホが、(印象派的な)《春の釣り人、クリシー橋にて(アニエール)》や、(新印象派的な)《自画像》を描いた理由がわかるような気がする。

実は、シカゴ美術研究所の公式サイトによると、ゴッホは、この《自画像》を描く際に、スーラの《グランド・ジャット島の日曜日の午後》の分割描法に影響を受けたと推測されている(*4)。しかし、この作品のゴッホの点描のタッチは、スーラの幾何学的な点描の表現とは異なり、荒々しく激しい複雑な表現だ。

諸事情により十分な資料が手元にないので、断定は出来ないが、今回紹介した、ゴッホが1887年代に制作した3点の中で《葡萄、檸檬、洋梨、林檎》が、一番ゴッホらしいと思う。

なぜなら、印象派でもない、新印象派とも異なる、ゴッホ独特のタッチが生まれ始めていることがわかるから。

そんなことを考えながら「もう一度みたい」。


というわけで、正解は「フィンセント・ファン・ゴッホ」でした。

NOTE:
*1.シカゴ美術研究所所蔵、ポール・シニャック、《Les Andelys, Côte d’Aval》(1886)の参考資料及び画像は、シカゴ美術研究所の以下の公式サイトより引用。なお、正式な邦題のタイトルが存在しないので、オリジナルのままにした。ちなみに、レ=ザンドリは、ノルマンディー地方のコミューン。同作品は、クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0)の作品。

*2.シカゴ美術研究所所蔵、ジョルジュ・スーラ、《グランド・ジャット島の日曜日の午後》の画像は、シカゴ美術研究所の以下の公式サイトより引用。同作品は、クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0)の作品。なお、スーラの《グランド・ジャット島の日曜日の午後》については、以下の当方の記事をご参考までに。

*3.シカゴ美術研究所所蔵、フィンセント・ファン・ゴッホ、《葡萄、檸檬、洋梨、林檎》(1887)、《春の釣り人、クリシー橋にて(アニエール)》(1887)、《自画像》(1887)の参考資料及び画像は、シカゴ美術研究所の以下の公式サイトより引用。全ての作品がクリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0)の作品。

*4.Ibid.