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美術館を守るために知って欲しいこと 〜パブリック・ドメインとクリエイティブ・コモンズの認識ついて一考

アート系の記事を書いてきた、ひとりのnoterとして、この記事を書く。

現在、国内外、どの美術館も財政状況が深刻だ。

ほとんどの美術館が入場料で経営が成り立っている。もし、あなたが美術鑑賞や美術館で過ごす時間がスキならば、読んでいただければ幸いだ。好きな美術館を支えるため、そして彼らの所蔵する作品の「価値を守る」ために、これから書くことを知って欲しいと思う。

もちろん、私も含め、それぞれの考え方や流儀があるだろうから、強制でも何でもない。ただ、どんな媒体でもプラットフォームでも「画像を使用する記事」を書くのであれば、知っていると知っていないとでは、知っていた方がいいと思う。

パブリック・ドメインの作品に表記されているクリエイティブ・コモンズの意味

最近、世界の有名美術館の公式サイトでは、所蔵作品がネット上で公開されるようになってきた。以前とは比較出来ないほど、ダウンロードも出来る作品画像も増えてきた。ただ、それらの作品にクリエイティブ・コモンズのライセンス(権利)の表記がついているケースが多くなってきている(*1)。

パブリック・ドメインは、著作権の期限が切れている状態、あるいは著作権がない状態を意味する。ただし、それらのパブリック・ドメインの作品の所有者(美術館等)は、他者がそれらを利用する際に、作品の所有者という立場で様々な権利を主張している

その「様々な権利」を、欧米の美術館では、クリエイティブ・コモンズのライセンス(権利)として表示することが一般的になってきている。

では、クリエイティブ・コモンズとは、何ぞやという話になる。

クリエイティブ・コモンズとは、2001年にネット上の知的所有権を守るために設立された国際的な非営利団体で、このクリエイティブ・コモンズが定義したライセンスをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスといいCC(クリエイティブ・コモンズ)と表記する。

ある作品の著作者あるいは、その作品の所有権を持つ者は、クリエイティブ・コモンズの表記(あるいは説明)をつけることにより、他者がその著作物を利用する際条件(表示、非営利、改変禁止、継承、の四項目を組み合わせる)を宣言する。

一般的に、美術館の公式サイト等で見受けられるクリエイティブ・コモンズの表記には、クリエイティブ・コモンズの公式サイト先がリンクされており、条件の詳細がわかるようになっている(同サイトは、英語版が主だが言語の選択により日本語版もあり)。

実際、米国のほとんどの美術館、最近では、英国のナショナル・ギャラリーや、テートも、所蔵作品の画像にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの表記をはじめた。

実際に、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの違いを意識してnoteで記事を書いてみた

クリエイティブ・コモンズを無視して作品画像を利用しても、先方が訴えない限り、問題がないようにみえる。ただ、彼らの提示する条件を満たすことは、画像を利用される側とする側の間に存在する、暗黙のうちの礼儀であると思う。

が、正直、クリエイティブ・コモンズを気にし出すと、結構、手間がかかることも事実だ。

例えば、先日、当方が投稿したnoteの記事「アートのよもやま話」で、米国・ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵の作品と英国・ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵の作品画像を利用したときのことを説明しよう。

どちらの記事で利用した作品も著作者の死後70年経過しているので、パブリック・ドメインという状態になっている。しかし、当方が使いたい2つの画像は、異なるクリエイティブ・コモンズのライセンスが表記してあった。

例えば、下記の記事で使用したメトロポリタン美術館所蔵の作品(フィリッポ・リッピの《開き窓の男女の肖像》)は、パブリック・ドメイン(PB)の表記がつき、クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(すべての権利を放棄するCC0)の説明がついていた(サイト上で表示を日本語に選択可)。

つまり、その作品の表記(クレジット)を書かなくても、切っても貼っても、金儲けしようが、ご自由に!ということだ。なので、私も、画像を使わせていただいたが、念のため、作品の表記も出典元も記事に書いたし、無料記事にした。そして、(作品の画像が見切れてしまうが)note記事の見出し画像にも利用させていただいた。

一方、以下の記事で使用したナショナル・ギャラリー所蔵の作品(サンドロ・ボッティチェリの《若い男性の肖像》)には、同美術館が提示するクリエイティブ・コモンズ(表示-非営利-改変禁止)リンクがついていた。

つまり、サンドロ・ボッティチェリ《若い男性の肖像》は、ダウンロード出来るけれども、「(作品情報を)表示をすること、非営利であること、改変禁止すること、以上の条件を満たした上で、利用可」と宣言していた。

そのため、noteでの記事を投稿する際に、美術館が表示する作品のキャプションを全て表示し、無料記事にした。そして、記事の見出し画像では、フルサイズ表示出来ない(改変になる)と考え、《若い男性の肖像》を見出し画像として使用しなかった。そのかわり、当方が撮影したナショナル・ギャラリーの画像を利用した。

正直、noteの記事として(内容はさておいて)見栄えがしないし、注目もされにくい。しかし、クリエイティブ・コモンズを尊重するということは、こういうことだと思う。

つまり、パブリック・ドメインの作品でも、米国と英国の主要美術館で、条件が異なる。前述のメトロポリタン美術館のCC0の所蔵作品の提供は、寛大な計らいのようにも考えられるが、これは一種のマーケティング的な戦略かなと思った。「いつか本物を見に現地を訪れてほしい」という彼らの本来の願いを実現するための、投資的サービスかなと思う。

一方、ナショナル・ギャラリーの(表示-非営利-改変禁止)の条件は、「容易に中途半端な形で作品を利用されて公開されることは嫌だ」という、美術館側の作品に対する思い入れを感じる。手間がかかっても、彼らの希望を尊重することは、ナショナル・ギャラリー所蔵の作品を愛する我々としては、あたりまえのサポートだと思う。

美術館の所蔵作品の価値を守ること=美術館をサポートすること

いくらパブリック・ドメインの作品とはいえ、美術館の所蔵作品は、保険、保存、補修、人件費にいたるまで、その維持費は莫大だ。

だからこそ、海を越えて、輸送されてくる海外美術館の展覧会の出品作品は、画像利用の規制がかかる。つまり、展覧会の公式サイトでは、コピーガードが施され、展覧会が開催中、出品作品の画像を主催者の許可なしに利用することは出来ない(*2)。

なぜなら、展覧会の入場料=主催者側の収入だからだ。つまり、著作権切れの作品だとしても、所蔵作品の画像を易々と利用してもらいたくないのだ。そこには、現実的に現地へ訪れることが出来ない人々へのサービスの他に入場料を支払い出品作品を鑑賞する人々への配慮と、現場で作品の鑑賞する価値を落としたくないという、彼らの願いが見え隠れする。

正直、個人的には、ウィキペディアで提供されている美術館所蔵作品の画像を、noteのアート系記事で利用することも躊躇する。なぜなら、パブリック・ドメインの表記がついている画像でも、出典元が不明瞭な画像もあるからだ。ましてや、美術館が公式サイトで同じ作品の画像を提供しているのであれば、そちらの画像を使う方が「法的に安全だ」と思う。

現在、美術だけでなく、音楽や演劇も含め、全ての文化の現場が瀕死の状態だ。正直、今後、大型の西洋美術の展覧会も開催されるかどうかわからない。一般的に大規模な展覧会の企画は、開催の5年前からはじまっている。すでに中止になった展覧会もある。クラウドファンディングを募らなければ、経営困難の美術館も出てきた。

クリエイティブ・コモンズを守らなくても、罪にならない。守っても守らなくても関係ないように思える。手間もかかる。正直、日本では、一般的に知られているとは言いがたい。でも、芸術作品の画像を大切に扱うことも、文化をサポートするひとつの形になると考えれば、苦にならない。

今の状況が変わったとき、以前のように、あの美術館で自分の大好きな作品をみるために。


NOTE:
*1.ちなみに、ウィキペディアもクリエイティブ・コモンズのライセンスを表記している。クリエイティブ・コモンズの詳細も含めた、こちらの記事をご参考までに。

*2.例えば、現在国立西洋美術館開催中のロンドン・ナショナル・ギャラリー展の公式サイトは、コピーガードが施されており、画像のダウンロードは出来ない。現在、この展覧会の出品画像の用いた記事が存在するならば、同展覧会事務局に画像の利用申請をし許可を得ているはずだ。そうでないのであれば、ウィキペディアからにせよ画像の出典元の明記が必要。ロンドン・ナショナル・ギャラリー展、公式サイトは、以下の通り。


(見出し画像は、著者が撮影した、英国・ロンドン、テート・ブリテン内部)