そして、西洋美術の肖像画は、ここまできた 〜 アートのよもやま話
先日、ボッティチェリの《若い男性の肖像》の記事を書いて、思い出した作品がある。
それが、こちらのアーニョロ・ディ・コジモ・ディ・マリアーノ(1503−1572)、通称ブロンツィーノの名品中の名品、《若い男性の肖像》(1530〜)、メトロポリタン美術館(米国、ニューヨーク)所蔵。クリエイティブ・コモンズ・ゼロの作品(*1)。
Portrait of a Young Man
Artist:Bronzino (Agnolo di Cosimo di Mariano) (Italian, Monticelli 1503–1572 Florence)
Date:1530s
Medium:Oil on wood
Dimensions:37 5/8 x 29 1/2 in. (95.6 x 74.9 cm)
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/435802
ブロンツィーノといえば、ウェヌスとキューピッドを中心として描かれた寓意画、ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵《愛のアレゴリー》(c.1545)が有名だ(*2)。
西洋美術史で、ブロンツィーノは、彼の師匠のヤコポ・ダ・ポントルモ( 1494-1557)と共にマニエリスム期の画家のひとりとして考えられている。そのため、(盛期ルネサンス時代のラファエロのような)伝統的な表現に反して、身体を不自然に描いていると思われがちだ。確かに、前述の《愛のアレゴリー》は、色調といい、不気味さといい、ポントルモの影響を受けているかもしれない(*3)。
しかし、本当にブロンツィーノが得意だったのは、肖像画だろうなと思うくらい、肖像画を描かせると上手い。実際にメディチ家の宮廷画家として一族の肖像画の名品を残しており、ウフィツィ美術館(イタリア、フィレンツェ)所蔵の《エレオノーラ=ディ=トレドと息子ジョバンニの肖像》(1544−1545)は、西洋美術史の名品の中でもピカイチの出来だと思う(*4)。
また、話がそれたが、このメトロポリタン美術館所蔵の《若い男性の肖像》も、ブロンツィーノが描いた肖像画として名品である。この男性が誰なのか不明だが、彼の手にある本が詩集だろうということで、ブロンツィーノの知り合いの詩人という説が有力だ(*5)。
エレガントな佇まいに自分を信用しきっている傲慢な眼差し。前回の記事で紹介したボッティチェリの《若い男性の肖像》が、西洋美術史上はじめて正面から描いた肖像画だったすると、西洋の肖像画もここまできたか、という完成度の高さだ。
ブロンツィーノの《若い男性の肖像》で、男性が身につけている帽子、衣服、アクセサリーにも注目したいところだが、このあたりの詳細は、服飾史の専門家に任せるとして、少なくとも、当時のフィレンツェの最先端の流行を我々に伝えていることは、よくわかる。
一方で、テーブルや椅子に施されているグロテスクな顔が、《愛のアレゴリー》に描かれている仮面を思わせる。本来の意味は不明だが、詩人でもあったブロンツィーノだから、言葉を操るように、何らかの意味をこの仮面に含ませたのかもしれない(*6)。
フィリッポ・リッピからボッティチェリ、そしてブロンツィーノの肖像画をみてきたけれども、古代ギリシアのコインあたりから肖像画の歴史を考察すると面白い(*7)。
そういえば、「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING& QUEEN展 ─名画で読み解く 英国王室物語─」が上野の森美術館(2020年10月10日〜2021年1月11日)が開催中だったな。
ご参考までに。
NOTE:
*1.クリエイティブ・コモンズ・ゼロの説明は、こちら。なお、本稿では、作品情報を表記した。
*2. この作品の邦題は他にもいろいろあるようだ。ブロンツィーノの《愛のアレゴリー》は、所蔵先のナショナル・ギャラリー(英国・ロンドン)公式サイトの以下のURLを参考。
https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/bronzino-an-allegory-with-venus-and-cupid
*3.こういうのは、限りなく真実に近い証明にこだわる美術史家よりも、作家の方が自由に面白く図像解釈が出来るんだろうなと最近つくづく思う。
*4.《エレオノーラ=ディ=トレドと息子ジョバンニの肖像》の画像は、以下のウィキペディアのサイトを参考。
Wikimedia Commons contributors, "File:Bronzino - Eleonora di Toledo col figlio Giovanni - Google Art Project.jpg," Wikimedia Commons, the free media repository, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?title=File:Bronzino_-_Eleonora_di_Toledo_col_figlio_Giovanni_-_Google_Art_Project.jpg&oldid=354663982 (accessed October 27, 2020).
*5.メトロポリタン美術館(米国、ニューヨーク)の公式サイトの以下のURLを参考。https://www.metmuseum.org/art/collection/search/435802
*6.Ibid.
*7.西洋美術の肖像画の歴史については、この本がおすすめ。