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コロナ禍でアメリカの大学スポーツが大打撃【名門ミネソタ大の男子陸上部が2020-2021年シーズンもっての廃部案の衝撃】

(トップ画:出典:SPIKES MAG

コロナショックは有名企業の倒産を国内外で引き起こしているが、スポーツの世界でも影響が出てきている。

西海岸の名門私立大のスタンフォード大が、11競技の廃部を決定。衝撃的なニュースは海を越えた私の耳にも入ってきたが、日本の大学は収益構造が違うこともあってか、まだこういったニュースが世間に広まることは現状ない(どちらかというと、部活動のクラスターがどうたら、というニュースが多いような...)。

そして、陸上競技の世界にもコロナショックがやってきた。

名門ミネソタ大の男子陸上部の廃部決定

2016年のリオ五輪に、ベン・ブランケンシップ(男子1500m)と、ハッサン・ミード(男子5000m)というオレゴントラッククラブのチームメイト同士が巣立った、Division I(DI)のミネソタ大のスポーツチームの“Minnesota Gophers”が、男子の※陸上部(室内陸上、屋外陸上)、男子体操部、テニス部の4つの男子チームの2020-2021シーズン終了後の廃部案を正式に発表。

注:クロスカントリーチームには言及されていない

2020年10月8日のミネソタ大の理事会での12人の投票によって、この廃部案が可決されるかの最終決定が下される。

この衝撃的なニュースはすぐにOBのベン・ブランケンシップの元に届けられた。

これまでの男子陸上部を創り上げた選手やスタッフ、保護者やファンなど、部の歴史を作り上げた人々の意見に耳を傾けず、大学の上層部でなされた厳しい廃部案にブランケンシップは異議を唱えている。

今回の廃部案の正式に可決されれば、大学側は廃部が決まったチームに所属する学生の転校などもサポートする構えだという。

OBのブランケンシップの悲痛の叫びはSpikes Magでも取り上げられた。

今回の男子陸上部などの廃部決定の表向きの理由はコロナショックによる財政難である。


コロナ禍の大学スポーツの現実

コロナ禍において、いまだに公式戦再開の全体的な目処が立っていないアメリカでは、陸上競技の大会も当然、これまで通りの試合スケジュール復帰の目処がついていない。

通常、9月にはシーズンが開幕し、11月中旬に全米学生クロスカントリーが行われるクロスカントリー競技は、2021年1月下旬から3月までを地区大会とし、3月15日に全米学生クロスカントリーを開催するプランが承認された。

しかし、この時期に通常開催されている室内シーズンを通常通り行うことは極めて困難であるといえそうだ。

このように、スケジュールの延期が決定されれば、それによってチーム編成の時期も変わってくるが、そもそも大会が開催されなければアメリカの大学スポーツは大打撃を受け続けるだろう。

通常、全米のカレッジスポーツで収益の柱となるアメフトの観客動員のチケット代などの収益があげられない状況において、どこのアメリカの大学も方向修正を強いられているが、全寮制が基本のアメリカの大学において、寮費の収益をあげられていないこの1年は“ギャップイヤー”と呼ばれている。

リモート授業が行われていることで、寮費を払ってまでも寮にいる必要がないため、実家に戻って授業を受講する学生が多い。また、この1年を休学、退学するといった選択に迫られている学生もある程度の割合いる。そうなってくると、大学側は通常見込める収益は落ち込むことになる。

しかし、大学スポーツには卒業生からの寄付で成り立っているという側面もある。スタンフォード大などは学生のインターンを雇って、羽振りの良さそうな業績の良い卒業生に寄付のオファーをするという(アメリカにおいて寄付は名誉である)。

ミネソタ大の男子陸上部はその運営に年間で約1億円の予算をかけているそうだが、一方ではミネソタ大の寄付金は累計で36億円ほどあるという。なぜ困窮しているスポーツチームの立て直しにその資金を注ぎ込まないのか?という自然な問いが生まれる。


タイトルナイン(Title IX)の影響

アメリカの大学では「タイトル9」という大学の学生数の男女比と学内のスポーツ選手の男女比は等しくなければならないする、連邦から資金援助を受けている高等教育機関においてのあらゆる面での男女差別を禁止する、といった内容の法律が1972年から適応されている。

今回のミネソタ大の男子のスポーツ4種目(男子室内陸上、男子屋外陸上、男子体操、男子テニス)を廃止するという決定は、女子のスポーツチームの廃部がなく、男子のスポーツチームの4種目が廃部されるという決定である。

これは、ミネソタ大の現在の女子が約54%、男子が約46%という在学生の数に調整した形となっている。全体的な財政難という表向きの理由によって、男女で25あったミネソタ大のスポーツチームのうちの4つの男子のスポーツチームはこの「タイトル9」という法律によって、無残にも消滅することになってしまったのだ。

この悲痛な廃部は、やはりブランケンシップや、ミード、同じくGophers出身のH. アブダ(オレゴントラッククラブのチームメイト)といった現在のプロ選手が積極的にこの件に関して発信している。

陸上競技というスポーツは、多民族、多様な文化で形成されているアメリカという国においてはある種のスタンダードだともいえるスポーツである(例えば陸上競技とは所得水準に関わらず、平等に誰もが比較的簡単に取り組めるスポーツであるといえるし、比較的多様性のあるスポーツである)。

海を越えた私の耳に入った陸上競技のニュースとしてはとても残念なニュースではあるが、大学スポーツのあり方や、大学スポーツの財政状況の見直し、コロナ禍でのスポーツ活動など、至るところにおいて深い思考を張り巡らせるようなニュースであったことは間違いない。


※10月21日追記:
ミネソタ大は10月の承認理事会で、屋外シーズンの男子陸上競技部の廃部を取り除いた改案された廃部案を承認した。それによると、“Minnesota Gophers”の男子の※陸上部(室内陸上)、男子体操部、テニス部の3つの男子チームの2020-2021シーズン終了後の廃部が正式に決定された。

(※)男子の屋外シーズンの陸上競技部、秋季のクロスカントリーチームは存続される。

とはいえ、室内競技に出場していた選手は、屋外競技に出場していた選手とほぼ同じメンバーである。長いミネソタ大陸上部の歴史の中で、室内陸上への参戦のためにチーム編成をしないということは、冬季に駅伝を専門としている日本の名門の大学長距離チームが廃部になるぐらい衝撃的なことである。

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