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ラストスパートはスピードがあるから、それともスタミナのおかげ?

(トップ画は2019年の全日本大学駅伝関東予選会:第4組優勝のY. ヴィンセントのラストスパート)

ラストスパートは、市民ランナーでマラソンだけを走るような人にはあまり馴染みがないのかもしれませんが、トラックレースにしろ、ロードレースにしろ勝負で勝とうと思ったら、練習の段階から競り合いによってラストスパートを磨くという局面があると思います。

さて、そこで皆さんに質問です。

ラストスパートはスピードがあるから、それともスタミナのおかげ?

この記事を書こうと思ったきっかけはこのようなツイートを見かけたことです(フォローしている人が少なくても、私のタイムラインには常時いろんな人のツイートが表示されます)。


ノビーさん(橋爪さん)の意見:「中距離レースの最後は脚が止まる」

「リディアードのランニング・トレーニング」の著者である橋爪伸也さん(通称ノビーさん)は、アーサー・リディアードの伝道師として活動されていますが、この本の108ページの小見出しがまさにこの、

「ラストスパートはスピードがあるから、それともスタミナのおかげ?」

です(ノビーさん、パクってすんません^^;)。

この108ページには非常に興味深いことが書かれています(序盤には突然、私のことが"ほんのわずかだけ"書かれています...!😅)

皆さんはこの動画を見たことがあるでしょうか。Twitterでよくリツイートされている1972年ミュンヘン五輪男子800mでのデーブ・ウォットルの追い込みです。プレッシャーのかかる五輪の決勝でこの戦法を決めて優勝したのですから凄いことです。

リディアード門下生のピーター・スネルのローマ・東京五輪での同じような戦術、最近だとロシアのユーリー・ボルザコフスキー(2004年男子800mアテネ五輪金メダリスト、世界選手権銀メダル×2、銅メダル×2)も同じように最後にマクる選手でした。

さて、これらの選手の単純なスピード能力というものはどれぐらいであったのでしょうか。おそらく、3人とも、200mのスプリントであれば決勝の舞台に立った中で下位のほうだったはずに違いありません。

こういう追い込みや差しの戦術がハマることは競馬の世界ではよくあることなのですが、サラブレッドの世界ではスプリント戦に出るような競走馬でもLT付近の乗り込みや、高強度でない調教が多くを占めています(私の幼なじみのJRAの厩務員に直接聞いています)。

つまり、有酸素能力が重視されているということです(+サラブレッドは高強度練習に耐えられる脚ではない=ガラスの脚)。

重要なのは、(よほどのスローペースでない限りは)ペースがタイトになれば陸上の800mも1500mも競馬の1200mも2000mもほとんどの場合で最後の100mの局面はほぼ全員(全馬)の脚が止まるので、その脚をいかにして持続させ続けるか、が重要になります。

ノビーさんも「陸上の中距離レースの10回に8回は最後の最後に選手の脚が止まっている」という表現をされています。

ですから、800mや1500mに出るときに「単発のスピードがないけど、スタミナベースがあるという人」がそこで勝とうとしたら、消耗戦になるようなタイトなペース展開で進むことを望むべき(そういうレースを作るべき)でしょう(ハイペースで進めるのとはまた違います)。淀みのない中休みのない平均ラップか、やや速めに入って、中間走で休みすぎないようなタイトな展開です。

こういったペース戦略やレースのバイアスを戦前に読むことは、競馬の予想では極々普通のことです。

ノビーさんの著書では、800mのニック・シモンズの例を出し、彼が世界大会でメダルが獲得できていなかった時の経験を経て、彼はロングランを増やすなど有酸素能力の開発に辛抱強く取り組み、その後、モスクワ世界選手権で銀メダルを獲得しているということを書いています。

大事なのは「皆さんロングランをやってください」ということではなく、その選手にとって不足している部分をどうやって補うか、ということです。


私(SUSHI MAN)の意見:「スパートにも種類があり私はロングスパートタイプ」

私のフラット3000mの高校時代のベストは8分58秒で、3000mSCは8分57秒76(当時の京都府高校記録)でした。

嘘やん!

と思うかもしれないでしょうが、本当の話です。

私が在籍していた京都府立桃山高校は当時、私が入学した時のエースの3年生の先輩の5000mベストが15分58秒でした。私が高校1年の夏から私はチームのエースになりましたが、陸上1年目の5000mの自己記録は15分32秒ぐらいだったと記憶しています。

3000mの当時の自己記録の8分58秒は、高校3年の全国インターハイ前の最終調整で土トラックで3000mを走った時のタイムです(高校時代にオールウェザーのトラックで練習をした記憶がほとんどありません)。その4日後ぐらいには全国高校総体の決勝で3000mSCを8分57秒76の2位でした。

そして、私は高校も大学でも1度も1500mの特異的な練習をしたことがありません。いわゆるレペの中距離練習というやつです。3000mSCのための練習といってもハードルを跳ぶぐらいで、3000mに対しての特異的な練習は全くやっていません。高2の時に始めた3000mSCのレースに出場して経験を積むことが練習のようなものだったのです。

私の高校時代の1500mのベストは高2の4分02秒で、3000mが8分58秒、3000mSCが8分57秒、5000mが14分38秒です。

私が高3の時の近畿インターハイの3000mSCで優勝した時のラスト1000mは2分51秒ぐらいでしたが、そのキレがあったのはおそらく冬季練から醸造していたスタミナがあったお陰だと思っています(基本的に学校内で競り合う人がいなかったので私は高強度練習はほぼしていなかったです)。

高校時代も大学時代も年代に合った程度の走り込みから、ペース走といったLTへのアプローチを経てレースに調整して行った記憶があります(もちろんインターバル走も、クロカンもします)。

このようなことを踏まえると、LTレベルはそこそこありましたが、単発のスプリントやラスト1周の爆発的なスパート持っていたかというとそうでもなくて、私はどちらかというと長くスパートすることや、レースの中間走で耐えることに長けていたと思います(そこでロングスパートされると、ラスト1周のキレに自信がある人でもキツい人も多いはず)。

こういったロングスパートは実は日本選手権の5000mでもよく見られる光景で、ラストのキレがあってもそこでふるい落とされると優勝できないので、中長距離種目はつくづく面白い種目だと思います。

続くは、私の大学時代の話です(自分の話ばっかりでスミマセン...)。大学3年の夏合宿直後の記録会で練習がてら1500mに出場しましたが、ラスト勝負でチームメイトに勝って3分58秒の自己記録で走ったのは、1周64秒のペースで押していくベースとラストで切り替えるスタミナがあったからです(その夏合宿でもスピード練習はほぼやってません)。合宿後の疲労状態での1500mのレースでしたが、この時も1500mに対しての特異的な練習は1度もやっていません。

この後、疲労を抜いて走った5000mは14分16秒でそれが私の自己記録です。おそらく5000mをこれぐらいで走れれば、夏合宿後の疲労状態でも、1500mの特異的な練習を1度もやらなくても、1500mで4分を切れる状態にあるといっても過言ではないと思います。

私はこの時の1500m3分58秒という記録を更新するために、33歳の今年から本格的な練習を5-6年ぶりに再開し、2021年・2022年に3分57秒ぐらいで走れるイメージを今から持って練習しています(まずはそれができる!と思うことが第1のスタート)。

そこで私にとってキモになるのが、やはりスタミナという有酸素能力からのアプローチだと考えています(ロングランとテンポランと乳酸性作業閾値の向上)。

とはいえ、私が日頃ジョグ以外で大切にしているのはウェイトトレーニングであったり、坂ダッシュであったりするので、結局のところバランスよくやらなければならないのですが、まずは基礎を半年から1年かけて作るフェーズから進めています。したがってレースへの出場予定はありません。


竹澤健介(北京五輪日本代表)の意見:「結局はバランスよく能力を開発しましょう」

さて、4years.に取り上げられるほどの突出した競技実績のない私の意見はこれで終わりですが、私の同期で、先週一緒にラーメンを食べた竹澤健介くんについて紹介します。

彼はとんでもない世代に生まれたため、インターハイでは5000mで日本人で3番目でした。優勝はモグス(大学時代に全日本8区、箱根2区で区間新、ハーフ59分台)、2位は佐藤悠基(10000m高校記録保持者)でしかも真夏の大会で13分45秒!その他にもこの4年後の北京五輪で金メダルを獲得するワンジルに、5000mの元高校記録保持者の佐藤秀和というモンスターもいました。

1つ上の世代に四天王たる神様たちがいましたが、今思うとモグス、W佐藤、ワンジルの4人が四天王で、高校時代はその次に竹澤がやっと肉薄するととんでもない状況でした。

しかし、彼は早大時代に5000mと10000mで日本学生記録を更新しています(5000mは今でも残っている)。

そんな彼の持ち味はラストスパート。

数多くの駅伝で競り合いを制したように、彼が北京五輪行きを決めた日本選手権のラストは見る物全てを驚かすスパートでありました(彼はその前の1ヶ月ぐらいほとんど練習をしていません)。

彼の走り方は生まれ持った“バネ”そのものです。しかし、高出力を出せてしまうのからか、彼が多くの故障に悩まされたのも事実です。

さて、そんなスピードモンスター竹澤健介が語る、このテーマ

「ラストスパートはスピードがあるから、それともスタミナのおかげ?」

ですが、彼の意見は以下になります。

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