ホクレンディスタンスチャレンジ全4戦:今季世界最高記録×3、日本新、日本歴代2位×2、日本高校新、U20日本新×2などの好記録に沸く

ホクレンディスタンスチャレンジの全4戦が終了し、コロナ渦のレースとして前半の2戦を無観客試合として開催、後半の2戦では少数の観客の動員があった。

全4戦において、男女のジュニアからシニアの至るレベルにおいて好記録が続出。男女10000m、男子3000mSCでは今季世界最高記録、女子1500mでは日本歴代2位、女子3000mでは日本新記録と日本歴代3位、男子5000mでは日本高校新記録、日本高校国際歴代3位、U20日本新記録、日本学生歴代2位、男子3000mSCでは日本歴代2位、U20日本新記録が生まれた。

ホクレンディスタンスチャレンジ全4戦で
・今季世界最高記録×3
・日本新記録×1
・日本歴代2位×2
・日本歴代3位×1
・日本歴代5位×2
・日本歴代6位×2
・日本歴代7位×1
・日本歴代8位×1
・日本高校新記録×1
・U20日本新記録×2
・U20日本歴代4位×1
・U20日本歴代15位
・日本学生歴代2位×1
・日本学生歴代7位×1
・日本高校国際歴代3位
が誕生。


【士別大会(7/4)】

男子3000m:遠藤日向(住友電工)7:49.90(日本歴代5位)
女子1500m:田中希実(豊田自動織機TC)4:08.68(日本歴代2位)


【深川大会(7/8)】

男子5000m:アントニー・マイナ(興国高)13:22.40(日本高校国際歴代3位)
男子10000m:べナード・キベット(九電工)27:14.84(今季世界最高記録)
女子3000m:田中希実(豊田自動織機TC)8:41.35(日本新記録)
女子3000m:萩谷楓(エディオン)8:48.12(日本歴代3位)


【網走大会(7/15)】

男子5000m:イェゴン・ヴィンセント(東京国際大)13:20.39(日本学生歴代2位)
男子5000m:鈴木芽吹(駒澤大)13.43.38(U20日本歴代15位)
女子5000m:田中希実(豊田自動織機TC)15:02.62(パフォーマンス日本歴代8位)
女子5000m:萩谷楓(エディオン)15:05.78(日本歴代6位)
女子10000m:ローズメリー・ワンジル(スターツ)30:38.18(今季世界最高記録・日本国内歴代最高記録)
女子10000m:小林成美(名城大)32:08.67(日本学生歴代7位)


【千歳大会(7/18)】

男子5000m:遠藤日向(住友電工)13.18.99(日本歴代7位)※5年ぶりの日本人選手の13:20切り
男子5000m:吉居大和(中央大)13.28.31(U20日本新記録)
男子5000m:石田洸介(東京農業大学第二高)13.36.89(日本高校新記録・U20日本歴代4位
男子3000mSC:三浦龍司(順天堂大学)8.19.37(日本歴代2位・U20日本新記録・今季世界最高記録
男子3000mSC:山口浩勢(愛三工業)8.25.04(日本歴代5位)
男子3000mSC:青木涼真(Honda)8.25.85(日本歴代6位)
女子5000m:一山麻緒(ワコール)15.06.66(日本歴代8位)


【全4戦で】
男子10000m:27分台3人(深川:伊藤達彦 27:58.43、網走:服部勇馬 27:56.32、 千歳:鈴木健吾 27.57.84)
男子5000m:13:40切り24人

(13:30切りの5名は全員スパイク着用)


【その他】
千歳大会男子5000m:小椋裕介 13:42.06(ID着用日本最高記録 ※たぶん)

(トップ大会でのID着用での競技は2019年4月の楠康成選手以来...)


千歳大会男子5000m:松宮隆行(40歳)14.05.34(マスターズM40日本新記録相当)※マスターズ申請競技者でなければマスターズ記録にはならない


これだけの好記録が連発したのはなぜか?

コロナ渦で、なかなかシーズン初戦のレースが決まらなかった状況から数ヶ月、やっとトラックレースが戻ってきた。

ほとんどの選手が今年のトラックレースとしては、シーズンインを迎えたこの数戦だったにも関わらず、かなり多くの選手が高いパフォーマンスを発揮できたのはなぜか?

様々な理由が考えられる。


① 例年にない“オフ期間”をしっかり取ることができた

館澤亨次(DeNA)や塩尻和也(富士通)など、東京五輪を目指す選手の中でも、彼らにとっては東京五輪の延期とコロナ渦での大会中止はプラスに働いた。なぜなら彼らは故障をしていたからだ。

日本にはかねてから“オフをとる期間がない”という声が囁かれるなか(特にエースクラスの大学長距離選手)、彼らだけでなく、一部の選手が緊急事態宣言の期間などで一度、心身ともに落ち着かせる期間を持てたのではないだろうか(それが全ての選手にとってプラスに働いたとは言えないまでも)。


② 余裕の持ったスケジュールで調整ができた

例年6月下旬に開催される日本選手権が、今年は秋と冬に開催される。

日本のトップクラスの中長距離選手は、春のトラックのグランプリシリーズを挟んで(スタンフォードでのペイトンジョーダンに出る選手も多い)、昨年から5月に日本選手権10000m(および実業団選手権)、6月の日本選手権と進む中、その後にホクレンディスタンスチャレンジを迎える。

そこで、日本選手権でピークを作った選手は、もしかしたらホクレンの頃にはピークアウトしている選手もいるかもしれない。夏に世界大会がある年は、代表クラスの選手はピークの持っていき方が難しい。

そして、大学長距離のエースクラスともなると、それに加えて関東インカレ (および地方インカレ )、大学によってはそこから全日本大学駅伝予選会(暑い中での10000mはダメージが大きい)、その後に日本選手権。

これでは到底、スケジュールが厳しすぎる。

その後にホクレンディスタンスチャレンジを迎えるので、大学のエースクラスともなると連戦を経てそこでホクレンにピークを持っていける選手は少ないだろう。

今年の場合は、シーズン初戦ということで、疲労を溜めた状態でない、フレッシュな状態でホクレン初戦を迎え、数戦を経て感触を確かめながら状態を上げて行った選手が多い印象だった。

レースは時に、少なめに設定して、このレースに絞ろう!というような持って行きかたの方が好記録が出ることがある(BTCのようなレーススタイル)。

期分けの観点から、半期に1回はオフ期間を設けて走らない週を作り、基礎構築に1番時間をかけるというスタイルの重要性が、これから再考されていくのではないだろうか(特に大学長距離選手はキャリアの中で本来、1番基礎構築に時間をかけられるはずなので、本来はそれが良いとされているが、レーススケジュールがタイトすぎる)。

中長距離におけるピリオダイゼーション(期分け)では、基礎構築期に1番時間をかけなければならない、ということを忘れたくないものである。


③ これまで以上にギアが競技力の向上に貢献している

これに関しては日本のレースだけでなく、世界中のロードレースやトラックレースでの記録が向上していることから測り出せる推測点である。

良いギアがあれば、良い練習が詰めることにも繋がる。

例えばZoom X入りのドラゴンフライなどの新しいスパイクの登場、トラックレースでのアルファフライの活躍、スパイクのように履けるフューエルセル5280など、数年前に比べて良いシューズの選択肢が格段に増えた印象である。

もちろん、普段の選手の練習での頑張り、という前提があるが、統計で見てもこの数年のロードやトラック(特に今年から)での好記録ラッシュをみるにあたり、中長距離走におけるシューズの貢献度が以前よりも高まっていることは否定できないだろう。

間違いなく断言できるのは、シューズ、スパッツなどのギアの進化によって、中長距離選手はレースだけでなく、練習での走破タイムも以前よりも速くなった選手が増えたのではないだろうか。

私も最近、練習で色んなシューズを履いているが、数年前までのレーシングフラット(ソーティシリーズ、タクミシリーズ、ストリークシリーズなど)よりも明らかに最近のロッカー形状の厚底シューズ(ネクスト%、エンドルフィンプロ、中国各社の厚底シューズ)のほうが少ない力で体を前に運べると感じている。

ちなみに、こちらの記事にも書いたが、今回の全4戦において非スパイク着用(ヴェイパーフライネクスト%やアルファフライ)の選手も多かったが、各組でトップになった選手のほとんどがスパイクを履いていたこと、この大会の男子5000mで13:30切りをした全選手がスパイクを履いていたのは偶然ではないだろう。

(この1年間のトラックレースで長距離選手が使用するシューズについて、本質を突いたツイートではないだろうか。マリカーのスターやキノコのように一時的にシューズの後押しを得れたとしても、それはそのキャラクターのエンジン性能が上がったわけではないし、これと同じことを考えている人や陸上指導者や選手も多いのではないだろうか)


④ 気象条件が良かった

例えば、網走大会は例年、猛暑や大雨などなかなか例年好天に恵まれなかったが、今年は全4戦を通して、気温や風速など気象条件に恵まれた印象だ(もちろん昼は暑かった日もあったが)。選手たちは全4戦で運を味方につけていた。


⑤ ペーサーのクオリティが高かった

田中希実が先導した女子1500m、3000m×2回、5000m、千歳大会男子3000mSCを除いて、ほとんどのレースでケニア人ペーサーが素晴らしい役割を果たしていた。

ホクレンディスタンスチャレンジや、八王子ディスタンスチャレンジは、世界大会や日本選手権、インカレ 、インターハイ、国体といった選手権レースとは違って、終盤以外で先頭集団には駆け引きがほとんどないので、選手は安定したペースでレースを進めることができる。

そして、今回のペーサーは本当に正確なペースで引っ張っていた。日本にいるケニア人選手は本当にペーサーをするのがうまいと思う(特にカロキ選手)。

また、ペーサーが抜けてからも選手同士の競り合いで良い相乗効果が生まれていた。また、ネクスト%は脚が残るシューズとも言われているので、ペーサーが抜けてからも“脚が残っている選手”が例年のホクレンディスタンスよりも多かったのかもしれない。


以上に、好記録が続出した考えられるだけの理由を考察してみたが、今回の全4戦での多くの選手のパフォーマンスに拍手を送りたい。

このレースや11月末までの大会でのパフォーマンスの高い記録は、五輪標準突破をしていてもカウントされないが、記録にも記憶にも残るような全4戦のホクレンディスタンスチャレンジではなかっただろうか。

今回の素晴らしい大会を開催し、素晴らしいライブ映像、実況・解説を提供した日本陸連、そして地元陸協、協力者の方々、そして熱戦を繰り広げた全ての選手たちに感謝申し上げたい。


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