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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
運営しているクリエイター

#カフェ

シンプルに作り上げる濃厚なガトーショコラ #Minimal

 Bean to Barのチョコレートを食べていると必然的に意識するようになるのが”素材”本来の味。素材そのものを表現するためには複雑性を避け、できるだけ1つのものに集中し、如何に手をかけるかが重要になると思います。  このシンプルさを「引き算の哲学」や「素材なり」と表現し、そのフィロソフィーを名前にまで反映したのが『Minimal』。カカオ豆と砂糖だけで作り上げる、だからこそ個性が際立ち、それぞれに違いを生み出します。  ブランドストーリーの中で日本食を例に取り上げてい

大人もアイスクリーム #BIG BABY ICE CREAM

 アイスクリームは子どもだけのものではない。20代半ばの男も通いたくなるような手作りアイスクリームのお店がこんなところにあった。  新丸子駅から歩いて数分、白塗りの壁にシンプルな書体のBIG BABY ICE CREAMはコンパクトにまとまったミニマルな外観。手作りの純粋さと透明感を感じられる今っぽい印象。  想像とは違い、若くて勢いのある男性スタッフがお迎え。ヒップホップな若者からファンシーなスイーツへのギャップ。どんなアイスクリームが食べられるのだろうか。  この日

こだわり抜いた素材の純粋無垢なチョコレート #green bean to bar CHOCOLATE

 カカオ豆の選別から丁寧に行う中目黒のbean to barチョコレート専門店。ダークチョコレートだけでなくエクレアやドリンクも用意しているので、チョコレートにあまり興味がない人でも十分楽しめるのも魅力的。  ダークチョコレートは王道のカカオ含有率70%と85%の2種類がメインで、カカオと砂糖のみで構成された純粋な味。2000円前後といい値段がするのは、砂糖もオーガニックシュガーにこだわっているからだろうか。和紙で包装しているのもさりげなくて素敵なポイント。  今回はベネ

すっぱい梅を求める夏 #ume cafe WAON

 望めば何でも手に入る東京は刺激が多くて楽しい一方で、そんな環境にばかり身を置いていては感覚が麻痺して、大切な何かを失ってしまいそう。そんなことを無意識に思ってか定期的に大洗まで来る。内向的でネガティブ(だと思っている)な私は海の見えるここで考え事をすることが多い。"大きなものを前にして自分の悩みがちっぽけに見える"ことはないが、思考を遮るノイズのない海の前なら頭が整理されやすい気がするからだ。  平日の大洗は人がほとんどいないので駐車場も自由に使える。隣の駐車ロットにイス

キッシュで始める朝 #DEAN & DELUCA CAFES 丸の内

 同僚から朝活に誘われ、何も食べずに向かった朝7時の東京駅。待ち合わせのカフェに一足早く着き、ショーケースを眺める。DEAN & DELUCAは食の「美しさ」を中心に据えた"マーケットストア"。パンの香ばしい茶色に玉子の光る黄色、アボカドの爽やかな緑にマフィンの柔らかいオレンジ。早朝から人が集う朝市の活気がショーケースの向こうに。  空っぽのお腹を優しく温めたい気分がアボカドのキッシュを選んだ。奥の台所に覗く大量のフレッシュアボカドが味の想像を膨らませる。ケースのキッシュは

コーヒーとチョコレートの行きつくところ #蕪木

 コーヒーとチョコレートの専門店。蔵前の並み居るカフェや喫茶店の中でも個性的で実力派として名高い。扉の向こうはコーヒーの香りに満たされ、内と外にはっきりと境界線がある。1階はコーヒーとチョコレートの販売、2階が喫茶室になっているので、狭い階段を上って部屋に向かう。  床と机のブラウンに壁のホワイト、机と壁には一輪挿しの花の差し色。それ以上無駄な色のない喫茶室は豆電球の淡いオレンジに照らされている。先客が10名程いたが無駄な音もなく、コーヒー片手にそれぞれの時間を過ごしていた

"普通"を積み上げたおいしいお店 #ラドリオ

 神保町は雰囲気で人を酔わせる。ぼんやりと薄暗く、歴史を凝縮したような密度の高い空間が一人一人を場に溶け込ませ、街を1つにする。そこには自も他もなく、逆に大きな孤立を生むような感覚。浮遊感のある孤独というのか、私には心地良く感じる。  そんな神保町を更に濃縮したのがラドリオ。路地を極めたような場所にある、大人の秘密基地を彷彿とさせる喫茶店だ。店内は神保町らしく本で囲まれたスペースや、年季の入ったバーカウンター、寛ぐには丁度良くも物足りないような赤いソファで独自の世界観を構成

【実食編】ビターチョコレート / もえぎ(萌黄) / そうかい(蒼海) #Little MOTHERHOUSE

 「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことを軸に、アパレルからフード事業に場を広げたLittle MOTHERHOUSE。前回はブランドの紹介に留まりましたが、今回は3種類のチョコレートを実食レビューします。  第一印象のほのかな甘みが、カカオエッグのアクセント通過することで苦みをメインとした香ばしさや酸味の複雑な味へと進化/深化を遂げる。スラウェシ島を結晶化した王道の味。  真夏を凝縮したマンゴーとパッションフルーツに、涼しい風を吹かせる新茶の香り。ホワイトチョ

素敵な時間と出会いをありがとうございました #おくたま文庫

 好きだったブックカフェが一時閉店をしてしまいます。普段、SNSに自分の姿は載せませんが今回だけは特別に、自分がここにいた証として残します。5回目の訪問、今日がこの場所での営業最終日です。  到着したのは15時過ぎ。カフェが最も賑わう時間帯はここも例外ではありません。陳列された本を眺めながら席が空くのを待っていると、通されたのは店の一番奥。いつも日本酒を嗜むおじさんが座っていた場所です。最後に私が座ってしまうのはおじさんとソファに申し訳ない気もしつつ、おくたま文庫の感触を忘

「無」が「ある」空間 #渓谷展望カフェ

 自然との境界線をなくし、あくまで自然の一部として人間を捉えるアジア的思想と文化。時代の経過と共に西洋化してきた日本の中で、原点に立ち返るための空間。何もないが、"むなしい"意味での「虚」や「空」ではなく、デトックス的な意味での有益な「無」がある。無音すらも心地良い。自然との一体化を表現するのは大きな窓ガラス。畳の上で冬は温かく、冬は涼しく室内から渓谷の色をストレスなく見渡せる場所はここくらいかもしれない。  この静寂を保つのは奥多摩の自然と完全予約制のカフェ。広間を貸し切

チョコで満たされたいのなら #ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前

 文字通りチョコを一から作るファクトリーはカカオで満ちていて、この分厚い香りで鼻腔が一瞬にして塗り替えられた。この匂いで口がチョコモードにならないはずがない。チャーリーとチョコレート工場もこれに似た空気が漂っていたのか、いや、多分ここはもっと濃いぞと一人で妄想を膨らませる。  食に興味を持つようになって知ったが、カカオ業界には"Bean to Bar"と言う、豆(Bean)からチョコレートバー(Bar)までを一貫して製造するというトレンドがあるらしい。昔から慣れ親しんだチョ

表参道に行ったらあったiittala #イッタラ表参道 ストア&カフェ

 耳慣れない“イッタラ“はフィンランドのインテリアショップ。メインで扱っているのは食器で、表参道の本店にはカフェが併設されている。ショップを見て回る前にこちらで一休憩。 ラスキアイスプッラ 770円  フィンランド版マリトッツォのような「ラスキアイスプッラ」なるものを注文。マリトッツォよりも上品に盛られたクリームの中でジャムが酸味を輝かせ、ほのかなカルダモンは上品な香水を纏っているよう。北欧ってスイーツもおしゃれなのか。  ハーブティー パラダイスミックス 605円

定期的に通う奥多摩の天国 #おくたま文庫

 「贅沢な時間」って多分このこと。  余計な事を考えずに、本を通して自分と向き合える空間。物理的・心理的な喧騒から脱するには奥多摩という距離感が大事なのだなと。  常連の多さからも明白な魅力。それはつまり店主の魅力。お店に来るというよりも、店主に会いに行くという表現の方が正しいのかもしれない。店主はスナックのママになりたいと言っていたが、私の目には既にそう見えた。  「話上手よりも聞き上手」とはよく言うが、それをどう測るか。どれだけ人に話しかけられるのかが1つの指標にな

天国は奥多摩にあった #おくたま文庫

 2021年最大の発見。自分の求める全てを兼ね備えた場所は奥多摩にありました。自然の中の静寂×選書された古本×ふかふかのソファ×旅館の中の喫茶店。ここが気に入らない人とは友達になれないってくらいストライクゾーンど真ん中で、もしかして自分のためにあるお店?と錯覚してしまうほど。そんなお店も契約期限満了で、今の場所で営業できるのは3月までとのこと。お店が無くなるわけではないけれど、今のおくたま文庫を超えられるのかなって思う位に総合点が高い。  奥多摩の渓谷と森に囲まれた場所で、