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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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#おすすめ

こだわり抜いた素材の純粋無垢なチョコレート #green bean to bar CHOCOLATE

 カカオ豆の選別から丁寧に行う中目黒のbean to barチョコレート専門店。ダークチョコレートだけでなくエクレアやドリンクも用意しているので、チョコレートにあまり興味がない人でも十分楽しめるのも魅力的。  ダークチョコレートは王道のカカオ含有率70%と85%の2種類がメインで、カカオと砂糖のみで構成された純粋な味。2000円前後といい値段がするのは、砂糖もオーガニックシュガーにこだわっているからだろうか。和紙で包装しているのもさりげなくて素敵なポイント。  今回はベネ

クラシカルな江戸前の仕事が光る #松野寿司

 半年に1回のペースで通っているお気に入りのお店。普段は握りのおまかせ(5000円前後)だが、今回はつまみから握りまでの一通りを頼んでみた。「おまかせ全部レビュー」は以前に書いているので、今回はクラシカルな江戸前の技術を感じられるネタとつまみをいくつか紹介することにする。  軽く酢で締めているようで、しっかりした質感の身が咀嚼を誘う。脂をしっかりと感じさせながらもしつこくないメリハリのある味わいが、これから始まるコースへの期待を高める。  煮鮑の身と肝を一片ずつ。むちっと

懐かしく、愛おしい味 #登治うどん

 うどんはあまり好きではない。ただ、好き嫌いを超えた味が数年ぶりに私を呼び戻した。これは懐かしの味、高校の部活終わりによく食べていた青春の一部。昔は窓際の座敷で食べていたな、と回想しながら空いているテーブルに座る。  メニューを見渡す。親からの小遣いでやりくりしていたあの頃は一番安い「もり」ばかりを食べていたが、数年経った今はお金を気にせず注文できる。成長した私はちくわ天うどんにランクアップし、更にはミニかき揚げ丼を追加するまでに成長した。  合わせて1000円足らずのか

おまかせ全部レビュー #いしまる

 埼玉でビシッと決まった江戸前寿司を食べたい時は「いしまる」に。高価格帯のカウンター寿司では珍しく、客の訪問時間に合わせて個別で食事を始められるのが魅力です。時間指定の一斉スタートが現在の潮流ですが、親方は信念を持って個別スタイルを貫いています。  開店当初はフジタ水産の鮪を使っていること、居酒屋出身の親方が独学で握っていることばかりが注目されていましたが、最近では沼里親方の仕込みが光る実力派として知名度を上げているように思います。その証明として、食べログの百名店にも選ばれ

おまかせ全部レビュー #冨所

 コロナで半年続けていた予約が途切れ、それからは月初めの予約戦争に負け続けていた私は、我慢できずに2万円以上する夜のおまかせコースを予約(6000円~のランチコースは人気過ぎて予約が取れません)。  一食にかけるお金としては理に適っていないように見えますが、本当に美味しい鮨が食べたい人は知らなきゃ損するレベルのお店です。「旨い」ではなく「美味しい」と表現した裏には丁寧な仕事と、分かりやすい味のインパクトに頼ることのない繊細な味わいへの尊敬の気持ちがあります。  店内は6席

すっぱい梅を求める夏 #ume cafe WAON

 望めば何でも手に入る東京は刺激が多くて楽しい一方で、そんな環境にばかり身を置いていては感覚が麻痺して、大切な何かを失ってしまいそう。そんなことを無意識に思ってか定期的に大洗まで来る。内向的でネガティブ(だと思っている)な私は海の見えるここで考え事をすることが多い。"大きなものを前にして自分の悩みがちっぽけに見える"ことはないが、思考を遮るノイズのない海の前なら頭が整理されやすい気がするからだ。  平日の大洗は人がほとんどいないので駐車場も自由に使える。隣の駐車ロットにイス

流行とは一線を画す完成された韓国料理 #赤坂一龍 別館

 ソルロンタンと言えば、塩やオキアミの塩辛で自分好みの味を作り上げるもの。そのためスープが薄く、味気のない状態で出てくる印象があるが、ここはかなり完成されたバランスで提供される。背骨のビシッと通ったような牛骨スープに、食べ応えもありながら旨味を邪魔しない濃度の塩加減は、素人の私が下手に味変してしまったら申し訳ないと思わされるほど。  メインはソルロンタン一択で、足りなければサイドを頼む。入店と同時に人数分のソルロンタンを頼んで、後はその日の気分で食べたいものを追加すれば良い

自分なりのうなぎ屋の楽しみ方 #小川菊

 久しぶりに母と外出。私の母はあまり好みが合わないので、2人で食べるものは決まって鰻かとんかつのどちらか。とんかつは最近食べたので鰻をチョイス。川越では1、2位を争う有名店に1時間待ちで入店。  シンプルではあるが必要なものは全て揃っていて、老舗の余裕も感じさせる、そんなメニュー表。本日はお母様がご馳走してくれるとのことなので遠慮なく食べたいものを決める。  まずは「うざく(鰻ときゅうりの酢の物)」を頼んでウォーミングアップ。正午の太陽に晒されて火照った身体を酸味と冷たさ

下町風情を味わう #七五三

 浅草散策の最終目的地に設定したお店。下町の味と言えばもんじゃとお好み焼き、こういう町は奇を衒わずに王道を楽しむのがいい。信頼できる浅草の住人がおすすめしてくれた「七五三」を事前に予約しておいた。  浅草は毎月祭りをやっているらしい。この日(6/11)は鳥越祭りだったらしく、男たちが豪華な神輿を率いて練り歩いていた。下町の枯れないエネルギーを感じながら店に到着。町の賑わいを吸収して増幅させる場所。  お腹が空いたのでまずはがっつりお好み焼きを食べたい気分。定番の豚玉は有無

おまかせ全部レビュー #鮨一

 ”寿司不毛の地”渋谷でおすすめできる数少ないお店の1つ。若手の親方は明るく会話を絶やさず、カウンターデビューにも安心して臨める雰囲気。特に土日限定の8000円ランチコースはハイコスパが有名で、若者から年配の方まで広く利用している。  店名の「一(はじめ)」は親方の名前ではなく「皆が一つになる」という意味らしい。握り手が一人ではないので、チームワークを重視した温かい店内だ。ネタへの仕事は江戸前そのもので、1つ1つの説明からはシャリから薬味まで細部に至るこだわりを感じた。

正統な"和食"としてのとんかつ #とんかつひなた

 とんかつ激戦区の高田馬場で頭ひとつ抜けた人気を誇る「とんかつひなた」。普段なら衣のインパクトでお腹を満たす対象として捉えていたとんかつも、ここではじっくり味わいたい和食として再定義する。  和食にはカウンターが似合う。調理の過程を見せる潔さ、五感で楽しめるライブ演出、出来立てを食べられる安心感、目の前の凛とした空気感がとんかつに体験価値と気品を与える。料理人の真剣な眼差しを前に、客側としても背筋を伸ばして待たざるを得ない。  メニューはロース・上ロース・上リブロース・上

大手町の"うまい、やすい、はやい" #リトル小岩井

 仕事が長引き、遅めのランチ。大手町の地下街の端、時刻は14時を回っているにも関わらず活気に溢れたお店がある。先客2人の後に並んでどれを食べようか、メニューを眺めながら気分と相談する。それにしても、全てが安い。大盛りもたったの60円。こういうお店はピンかキリのどちらかであることが多いからハラハラしてくる。  並びながらメニューを決めあぐねていると、すかさず店員さんに注文を聞かれて自分の優柔不断さを知る。いや、9種類という絶妙な品数が私を優柔不断にさせている。メニューは多すぎ

レバーがうまい店は全部うまい #大膳

 下手な焼き肉や居酒屋から入ると苦手意識を持ってしまう人の多いレバー。苦手な人でも「ここなら食べられる」と言わせるお店の1つ。連れて行ってもらった先輩が予約の電話をする時、どうやらレバーだけは予約注文をしていたので期待がぐっと高まる。  18時前、まだ空いている居酒屋のスピード感は気持ちいい。お通しも注文も客の目線だけで全て察する店員さんの連携プレーに倣って、自分も早速レバーステーキをレビューすることにする。  ここほど大きくカットしてくれる店を知らない。これなら確かに「

“冨所の鰆”はやめられない #冨所

 そもそも「鰆」の読み方すら知らない人も多いのではないでしょうか。私もそうでした。「さわら」と聞けば少しは耳馴染みのある”あの魚”くらいにはなるかもしれませんが、個人的にはそれでも印象の薄い魚でした。日本人の文化とも言える回転寿司でも出会うことは少なく、あるとすれば家で食べる西京焼きか煮つけくらい。そのせいか、私が冨所で鰆に出会った時、初めてソフトクリームを食べた赤ちゃんのように目を見開いて夢中で食べていました。 8月 正確には「青箭魚(さごし)」というまだ小さい鰆のこと。