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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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#寿司

まぐろに強いお店の秘密のネタ #海鮮三崎港

 回転寿司の楽しみがレーンに帰ってきた。タッチパネルと"新幹線"の登場で回っているお皿の需要が減り始め、今ではコロナの影響で外気に触れ続けるレーンを使う人はほとんどいなくなったようなもの。  私がタッチパネルを使う理由は2つ、「鮮度」と「衛生面」。ICチップでの時間管理や、カバーを用いた飛沫対策はよく見るものの、だからといってレーンからお皿を取る気にはならない。  マルハニチロが毎年出している「回転寿司に関する消費者実態調査」でも回転寿司の“新幹線シフト”が表れている。注

クラシカルな江戸前の仕事が光る #松野寿司

 半年に1回のペースで通っているお気に入りのお店。普段は握りのおまかせ(5000円前後)だが、今回はつまみから握りまでの一通りを頼んでみた。「おまかせ全部レビュー」は以前に書いているので、今回はクラシカルな江戸前の技術を感じられるネタとつまみをいくつか紹介することにする。  軽く酢で締めているようで、しっかりした質感の身が咀嚼を誘う。脂をしっかりと感じさせながらもしつこくないメリハリのある味わいが、これから始まるコースへの期待を高める。  煮鮑の身と肝を一片ずつ。むちっと

おまかせ全部レビュー #いしまる

 埼玉でビシッと決まった江戸前寿司を食べたい時は「いしまる」に。高価格帯のカウンター寿司では珍しく、客の訪問時間に合わせて個別で食事を始められるのが魅力です。時間指定の一斉スタートが現在の潮流ですが、親方は信念を持って個別スタイルを貫いています。  開店当初はフジタ水産の鮪を使っていること、居酒屋出身の親方が独学で握っていることばかりが注目されていましたが、最近では沼里親方の仕込みが光る実力派として知名度を上げているように思います。その証明として、食べログの百名店にも選ばれ

おまかせ全部レビュー #冨所

 コロナで半年続けていた予約が途切れ、それからは月初めの予約戦争に負け続けていた私は、我慢できずに2万円以上する夜のおまかせコースを予約(6000円~のランチコースは人気過ぎて予約が取れません)。  一食にかけるお金としては理に適っていないように見えますが、本当に美味しい鮨が食べたい人は知らなきゃ損するレベルのお店です。「旨い」ではなく「美味しい」と表現した裏には丁寧な仕事と、分かりやすい味のインパクトに頼ることのない繊細な味わいへの尊敬の気持ちがあります。  店内は6席

コスパも威勢も最高な回転寿司 #天下寿司 池袋店

 適度な空腹を保ち、寿司に向かって池袋を無心で歩き、店に着いたと思えば待ちの列に並ばされ、目の前にレーンがあるのに皿を手に取れない葛藤が最大に達した時に席まで通され、まず手に取ったのは本まぐろ赤身。最初は烏賊だの白身だの考えることもせず、ほとんど無意識にまぐろを手に取ってしまうあたり、赤い引力には逆らえない。  回転寿司と言っても大手チェーン店のような巨大な設備ではなく、2畳ほどの細長い板場を囲うこじんまりとしたレーンがあるだけ。狭い楕円の中には熟練の板前さんが2人体制で握

おまかせ全部レビュー #鮨一

 ”寿司不毛の地”渋谷でおすすめできる数少ないお店の1つ。若手の親方は明るく会話を絶やさず、カウンターデビューにも安心して臨める雰囲気。特に土日限定の8000円ランチコースはハイコスパが有名で、若者から年配の方まで広く利用している。  店名の「一(はじめ)」は親方の名前ではなく「皆が一つになる」という意味らしい。握り手が一人ではないので、チームワークを重視した温かい店内だ。ネタへの仕事は江戸前そのもので、1つ1つの説明からはシャリから薬味まで細部に至るこだわりを感じた。

おまかせ全部レビュー #築地青空三代目丸の内

 カウンター寿司デビューをしたい人や、ちょっと贅沢なデートをしたい大人カップルにおすすめしたいお店がここ。つまみ4品に加えて、業界では有名なフジタ水産の鮪3貫を含む握り9貫が8800円で食べられるミドル級の人気店です。4回目の訪問でもしっかり楽しめる質を維持している板長佐野さんの努力に頭が上がりません。  この店が面白いのは、チェーン店だということ。実は本店が築地にあって、東京はもちろん名古屋や沖縄にも複数店舗を構えている実力派です。更に面白いのは、仕入れや料理が全て板長の

おまかせ全部レビュー #冨所

 新年初のカウンター鮨は#冨所。好きすぎて去年の8月から毎月通っています。行く度に更新される感動、今回はどんな体験が待っているのか気持ちを高ぶらせながらコースが始まります。 ➀墨烏賊(すみいか)  初っ端に出てくる墨烏賊が大好き。サクッと×もちっと食感のネタの良さも然ることながら、鮨の命であるシャリ、そしてバチっと効かせた山葵を1番感じられる組み合わせ。その店の根幹を知ってもらうための名刺のような一貫かと(平目の時もたまにあります)。 ②細魚(さより)  トゥルんっと入っ

ミシュラン出身親方の本気 #まぐろとシャリ

 銀座の鮨とかみから独立し、はっこくを瞬く間に人気店に育て上げた佐藤親方が監修した人気沸騰中のまぐろ丼。とかみは日本最大の鮪卸である「やま幸」が運営しているため、その系譜を継いでここもやま幸から鮪を仕入れています。ちなみに「はっこく」はONE OK ROCKのTAKAが「白黒はっきりつける」とメッセージを込めて名付けたことで有名です。  場所は渋谷駅から徒歩5分程度のビルの中。7席のL字カウンター1本の細長い作りのお店です。渋谷は寿司屋が少ないのであまり来ませんが、今回は美

おまかせ全部レビュー #みこ寿司

 最近では親方とオーナーの異なる寿司屋が増えてきました。こちらもそのうちの1つ。CXOバンクというIT企業のCEOが"趣味で"始めたという完全予約制・住所非公開のお店です。これからも新橋を中心に出店計画をしているそうで、つい先日にも「みこ酒場」をオープンさせ、今最も勢いのあるお店と言えるでしょう。幸運なことにオーナーの中村さんとご一緒することができ、貴重な話を伺いました。  冒頭にも述べた通り中村さんには本業があり、"趣味で"やっていると本人も仰っていました。とは言え運営に

“冨所の鰆”はやめられない #冨所

 そもそも「鰆」の読み方すら知らない人も多いのではないでしょうか。私もそうでした。「さわら」と聞けば少しは耳馴染みのある”あの魚”くらいにはなるかもしれませんが、個人的にはそれでも印象の薄い魚でした。日本人の文化とも言える回転寿司でも出会うことは少なく、あるとすれば家で食べる西京焼きか煮つけくらい。そのせいか、私が冨所で鰆に出会った時、初めてソフトクリームを食べた赤ちゃんのように目を見開いて夢中で食べていました。 8月 正確には「青箭魚(さごし)」というまだ小さい鰆のこと。

春を探しに寿司屋へ行く #すし好 和 グランスタ丸の内店

 皆さんはどうやって季節を感じますか?春には花見をして、夏には海へ行き、秋には紅葉狩り、冬は雪で遊び。。。色々な楽しみ方がありますが、東京で季節を感じたいのなら寿司が一番だと思っています。トップに載せたのは白魚(左)と蛍烏賊(右)で、どちらも春を代表するネタのツートップです。  白魚は生のものを薬味と食べる場合と、桜の葉に載せて蒸したものを食べる場合の2パターンがありますが、どちらも旨いんです。それぞれ食感が異なり、生ならつるんと勢いよく、蒸せばほろっと儚い食感が感じられま

おまかせ全部レビュー #鮨はこざき

 さあ来ました。私が去年だけで10回お世話になった浦和の「鮨乃すけ」の箱崎親方が今年の1月にオープンした新店、「鮨はこざき」。真新しい店内は、「蛎殻町すぎた」と同じ内装屋さんが仕立てているんだとか。まずはおまかせで頼んだ日本酒「梵」とガリをつまみながら親方の仕事を眺めます。 ひざかけは持ち帰り可能  一品目に出てきたのはホワイトアスパラ。一品目から季節感を考慮した食材が出てきました。魚ではありませんが、食で季節を感じる点では鮨の大切な一部です。これから始まる食事に向け

回転寿司で1番好きかもしれない #魚べい

 トップの写真は魚べいの期間限定商品(3/19 訪問時)の「南まぐろ中とろ(80円)」。なぜこの写真を使ったかと言えば、ここに魚べいの理念が詰まっているように感じたから。寿司と言えばまぐろ。まぐろの中でも一番美味しいと言われているのが「クロマグロ」だが、なぜ魚べいは「ミナミマグロ」を使ったのか。他の要素と共に掘り下げていくことで何かが見えてくる気がする。  まずは入店。土曜日の夕方は家族客でごった返していたが、カウンター席なら1分も待たずに着席できた。回転のレーンは名残すら