就職活動を控える君へ

ぼんやりといたずらな考え事をしていることが多い自分が稀有なことに、実用的な文(?)を書きたくなった。書きたくなった、というよりは書いたほうがいいのではないか、と思った。

最近、質問箱を開設した。ありがたいことに、いろいろな質問をツイッターのフォロワーから頂戴するので様々な人々の洋服に対する価値観や、困りごと、時々自分のツイッターやスタイリングに叱咤激励を頂戴することがあり、仕事を始めてからも半ば強制的に洋服のことで考えを巡らせる時間が確保できる。(https://peing.net/en/odbodbodbodbo)


よくある質問だと、恋人へのプレゼントであるとか、服の収納だとか、洗濯のことがある。自分は洋服は衣食住の一角を担う極めて実用的な存在としてある一方で、洋服が持ち得る精神的な面と言えばよいだろうか、着ているだけで個人の気分を上げたり、何者かになれたりするような目に見えないパワーであったり、デザイナーや消費者が服を介して自己表現や意思の表明をするパレット的な役割を果たすことが可能、或いは可能性を持ち得るという点で洋服、ひいてはファッションが大好きなわけだが、世の中の多くの人が洋服というトピックの上で思い悩んでいることのほとんどが実用的な側面に沿ったものだということを改めて感じた。

過去の記事 (https://note.com/sushi_in_tokio/n/n4a699f891263) でも主張したように、健全な範囲で洋服を楽しみたい、洋服の持ち得るメリットを享受したいと考える人たちは多くの場合、自己表現というベン図よりも他己表現・自己防衛的ベクトルのベン図に参加しており、且つ、そういった人たちが「洋服に興味がある人」という大きなフレームワークの中でマジョリティとなってきている。それは現代での自己表現の場や方法の多様化や、洋服そのものがかつての古典的なルールを超越しどんどんとリベラル化している事実を鑑みれば極めて合点のいく事実である。そういった前提に立った際に、質問者が最もシリアスなトーンで最適解を導き出そうとしているように感じられる質問群が「就職活動におけるファッションについて」だ。ここから3,000字ほど概念的な前置きが続くので、さっさと具体例が欲しい人は後半まで読み飛ばしてほしい。悪い癖だ。


「就職活動におけるファッション」の何がおかしいのか

就職活動におけるファッションは前提として非常に実用的な情報が少ないと思われる。”就活 スーツ”などと検索をしてみてもお手上げの状態で、黒か紺の無地スーツをきて、熱血さを出したいときは赤いネクタイを締めろなどという、しょうもない御託を並べることしかできないザマだ。こういった情報しかない中、空っぽの頭と雀の涙ほどの知性しかなかったために本質の凡そ斜め上のアプローチで就職活動を何とか乗り切った自分の経験をこういった形で書き記すことは、恐らく何らかの価値があることじゃないかと考えた。

自分は3年前に就職活動をしていた身なので、あまりに時間が空いて陳腐化したアドバイスになってしまわないようにこのタイミングで発信したいが、本記事は「就職活動におけるファッション」をテーマに、少しでも学生が自信をもって面接等に臨めるようにアドバイスをしていければと思う。前提として本記事の内容は男子学生のスーツに限った論点で書き記していくので、女性にはあまり意味がないかもしれない上に、就職活動における本質とはほとほと離れかけている話なので、一つのアイデア程度に受け取ってもらえるとありがたい。(そもそも論として近年まれにみる疫病の影響でオンライン面接が増える中で、目下こういった見た目の議論をすることの意義自体に疑義が生じるような気もするが、一旦良しとする。)

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「就職活動におけるファッション」の合理性について

冒頭で上げた通り、就職活動においては自己分析とか、企業研究をするということが最も重要なことであり、本質だ。人は見た目で判断されるべきではないとかいう話があるように、就職活動という場は頭脳の明晰さや朗らかで成熟した人間性を学生時代に培ってきた人間が日の目を見る舞台であり、企業側も実際にそういった学生を採用するためにあの手この手で学生のことを調査してくる。最も大事なのは見た目ではなく中身なのである、ということ自体は就職活動において至極真っ当な前提だ。

一方で、だ。手付が早い人間では一年以上をかける就職活動は非常に長く感じられるものではあるものの、実際に諸君学生が企業と面を突き合わせて話す機会は異常に儚いと思えやしないだろうか。例えば、一般的な企業でも面接はどんなに多く見積もっても5回もやるところは多くはなく、採用面接の回数が非常に多いことで知られる金融業界、特に銀行を上げてみても、10回が限度だ。面接にかける時間は一回15分~長くて1時間、平均してみても一回30分程度に落ち着くのではないかと思われるが、それでも合計してい見れば長いところで合計5時間が限界といったところだ。もっと言えば、面接は毎回同じ人間が行うものでは多くの場合無いし、そう考えれば一期一会的に巡り合う”御社社員”に自分の人間性や知性をアピールする時間は30分~1時間程度しかない。たった1時間の会話、しかも多くの場合は学生にイニシアチブのない質問攻めの状況の中で、一体全体自分という人間の何が解ると言うのか。せいぜいケース面接の対応を密に行ってきたことぐらいだと思わないか。

「人は見た目が9割」という著書が存在するが、自分はこの考えはあながち間違っていない、しかも面接というタイムリミットが解りやすいほどに設けられている状況では猶更だと感じる。自分が就職活動を始めたころ、面接練習会なるものに参加し、5~6社の上場企業人事に模擬面接の機会を頂いたことがあった。逆質問、というモノが就職活動には存在するが、当初自分は、面接をして頂いた人事全員に「どのタイミングで私の印象は何となく決まりましたか」という質問をした。軒並み早いタイミングで印象が決まっていたことに加え、某メーカーの人事からは「人を見た目や雰囲気で判断するのは良くないが、ここだけの話おおよそ開始5分くらいで9割は決まってしまう。」との知見を得た。採用面接という前提に立った企業人事でさえも、人を見た目で判断している側面は大いにあるということは自明の事実であった。

あくまで自分個人の経験に基づく意見でしかないことに変わりはないものの、上記を考えれば見た目を整えて、さらにはより良く見える努力をすることに一定の効力があるように思えないだろうか。例えば、同じスペックを持った人間を二人並べた時に、見た目を整えている人間と、起きて着の身着のままやってきた人間のどちらを採用したいと思うだろうか。就職活動は、皆がある程度の準備をしてきている中で他の学生を出し抜かないといけない。皆が大抵同じような人間だった場合、他を出し抜くために手っ取り早く且つ面接官の心理にコミットできるのは見た目を整えることだと思わないだろうか。そう考えると、就職活動におけるファッションについてある程度気にすることは、ある程度合理性の担保されたものであるように思えないだろうか。


「就職活動におけるファッション」の効用について

就職活動について見た目を気にすることの合理性が確保された(?)ところで、実際にその点をケアした際にどの程度効力があるだろうか?前段で書いた通り、同じタイミングで就職活動に身を投じ、同じ企業を受けている学生は履いて捨てるほどいる上、現在の経済状況を見ても、気の毒だが志望する企業の門は不可抗力的に狭くなっていく。そんな状況下を以てして、この期に及んで見た目をケアすることにメリットはあるだろうか?無論、あるからこんな記事を書いているのだが、この記事が有益であると考える基盤には就職活動における”見た目の均一化”という暗黙の了解がある。

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冒頭で書いたように、いたずらにネットで就職活動におけるスーツの着こなしについて調べても、”黒スーツに紺のレジメンタルタイ”という解を得るのが関の山だ。確かに、リスク管理の観点で言えば出で立ちで悪目立ちをして印象を下げるのでは元も子もないので、各大学のキャリアアドバイザーなどは見た目については無難でよい、という指導をするのは当然だ。だが、ほとんどの学生が同じ出で立ちをしているという状況は、逆手に取れば印象に残るチャンスでもある。

加えてこの記事がわざわざ「就職活動におけるファッション」を取りざたす理由は、ほとんどの就活生は見た目が均一である上”見た目が明らかに就活生である”からだ。街を歩いてみても、就活生というのは一目で見てわかる。就活生は思考停止状態でフォーマットに乗っ取った就活スーツに身をまとい、「就活生ですよ」という出で立ちでいることを良しとされている世界線なのである。故に、見た目をケアすることでよい目立ち方を目指すことも十分可能なように思えないだろうか。

若干データが古くて恐縮だが、上記の経団連のアンケートでは企業が求める人材の素質は第一位「主体性」、第二位「実行力」、次いで「課題解決能力」とのことだ。この結果は自分が就職活動をしていた当時から大差ないように記憶をしているが、なんと抽象的な話であろうか。学生にはあんなにも具体性を求める割にはこの体たらくである。こういった概念的項目は口頭で定量的にアピールすることが難しいが、要するに企業が求めているのは”主体性や実行力、課題に対するコミット力がありそうな、成熟したビジネスパーソン的雰囲気のある学生”なのである。

雰囲気のある学生である必要がある、且つ、企業人事の多くは見た目で学生をある程度判断しているという事実を踏まえれば、見た目をケアすることは就職活動の場においてそれなりに効力を発揮するように思えないだろうか?しかもフォーマットが均一化されている「就職活動におけるファッション」というトピック上であれば、ある意味簡単に他の学生を出し抜く事ができるように思えないだろうか?


雰囲気のある人間に見せるために

前置きにゴタゴタと4,000字も費やしてしまったが、何故「就職活動におけるファッション」についてよく考える必要があるのかという自分の主張の下りは大方片付いたので、ここからは”じゃあ何を着れば・すればよいのか”ということを掘り下げていく。冒頭で実用的な内容を書くと言いながら漸く具体例の下りで申し訳ない。

身体的な改革

身体的な改革というのは、要するに着るもの以外の見てくれの部分の話だ。これはローコストで実践できるので一番とっつきやすいかもしれない。読めば解るが凡そ人として当たり前のことが殆どであるが、意外と適当な人間が多いと思う。

✓髪の毛

最低限、清潔感のある程度に散髪をするのは当然のことながら、自分がこれが良いのでは、思うのは襟足は多少短く、髪の毛をちゃんと上げて七三で分けることだ。たいてい元気のある商社志望の学生はもみ上げに親を殺されたのかと思うほどツーブロックにしているが、七三分けであれば清潔感、ビジネスぽさという最低限のハードルは越えつつ、昨今ではしゃれた髪型として人権を得ているので、そこまで浮いたことにはならないだろうし、他と多少は差別化できるのではないだろうか。もみ上げを刈り上げるか否かは個人の判断に任せる。

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✓眉毛

驚くことに適当な人間が大半である。せめて眉芯の周りのムダ毛程度は沿っておくと良いと思う。細すぎると良くないので、ある程度は太さを確保して、印象の強さは眉毛の濃さで調節するのが良いと思われる。眉毛の整え方は適当なサイトを参考とするか、女性の知り合いに恥を忍んで頼むことを強く推奨する。https://www.azura.jp/column/column_theme/cat-180/12074


✓肌

肌に関しては生まれつきの体質などもあるが、脂ぎっていたり、目脂などが付いていると清潔感もへったくれもないのでフェイスペーパーなどでのケアを要する。自分は清潔感を出すために男性用ファンデを使っていた。当時はメンズメイクはまだ認知度が高くなく、自分はシャネルの製品を使っていたが、最近は薬局などでも気軽に手に入る。肌に自信がないのであれば課金の価値はある。

https://www.chanel.com/ja_JP/fragrance-beauty/makeup/p/boy-de-chanel.html


何を着れば良いのか

自分に寄せられた「就活におけるファッション」関連で最も多かったのがスーツ・靴に関する質問だ。冒頭で挙げた通り、就活用スーツに関してはテンプレート的な回答が異常に多く、ほとんど参考にならない。が、ほとんどの学生がその参考にならない参考に倣っているので差がわかりやすい。

✓スーツ

就活のスーツはセミオーダーでも既製品でもいいので5万円は出して欲しいと思う。大方のの学生は一年程度の就活のためにお金をかけるのが馬鹿らしいため、1万円くらいでペラペラのスーツを青山とかで買うと思うが、グリーンレーベルのスーツでもかなり見た目には差が出るし、最もメリットがあるのは今時の感性のある店員が丈詰めや採寸をしてくれるというところだ。出来るだけ新卒感・就活生感の出ないように店員に見繕ってもらうのが手っ取り早いと思われる。

肩パッドの有無、ベントの仕様などにこだわりがある場合はセミオーダー、あまりそういったことにこだわりや知識に自信がない場合はセレクトショップで店員と一緒に選ぶのが良い。セレクトに行く場合はお近くでも旗艦店の大きいお店で、スーツ担当のスタッフがいるお店に行くことを強く推奨する。自分は撫肩がコンプレックスだったため、情けなく見えないように今どきはあまりない肩パッドを入れたスーツを作った。スタイルもすらっと見えるよう日に当たればわかる程度のシャドーストライプのものをチョイスした。

入社後も使い続けるつもりなのであれば、黒以外の無地を選ぶと良い。ネイビーなどのダークトーンが基本かと思うが、チャコールグレーの方が着てる人は少ないので印象に残るのでは。

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✓靴

就活におけるファッションの中でも、一番目に付くと思うのがネクタイと、靴だと思う。長年のサラリーマン生活でスーツスタイルにある程度目が肥えてきているベテランは、靴とネクタイに関しては手の付けやすい投資なので良いものに触れてきているパターンが多い。そういった社会人と向かい合う就活という場において、靴とネクタイをしっかり選ぶという行為はテンプレ化した就活生の中で違う雰囲気をだすのには手っ取り早い。

就活で履ける靴となると黒のキャップトゥが現実的だが、セミブローグくらいであれば問題ないし、他の就活生よりちょっとカッコよく見える気がする。靴下はスーツの色と合わせた無地でいいだろう。

そこまで良いものを買う必要もないと思うが、個人的には靴についてはある程度見て良いか悪いかわかる人が多いので、気を抜かない方が良いと思う一点でもある。扱いやすさ的にソールはダイナイトソールが良いと思うが、アッパーについては一つ強いリコメンドがあり、それがシボ革だ。雨風に強いシボ皮などであれば悪天候でもみっともない足元になる事もない上に、年次が上でスーツスタイルにそこそこ金をかけている人間に意外にもウケがいいことが就活をしていて分かった。黒シボ×ダイナイト×セミブローグは靴としてはうるさくない上に「俺はまあまあ靴拘ってるぞ」感が出る組み合わせなのでぜひ探してみてほしい。


✓ネクタイ

ネクタイについては、巷のテンプレートは悲しいほどにどうしようもない。レジメンタルかソリッドの二択しかネクタイはこの世にはないのかと思うほどそんな陳腐な回答に溢れている。にも拘わらず(散々繰り返しているが)大方の就活生はその二択かつ大抵紺色しか頭にないので、印象付けるのにはいい要素だ。(ソリッドもレジメンタルも一般のビジネスの場ではもちろんカッコいい選択肢であることは誤解しないでほしい。)

自分がレコメンドしたいのは小紋柄、且つ色は落ち着いたダークトーンの物。イメージとしてはブラウンかグレー。この辺りの色はネクタイの配色としてあまりパッとイメージされないが、落ち着いた印象で使いやすいかつ被りづらい。学生というだけである程度若いというフィルターがかかっているのだからネクタイくらいは落ち着いた大人っぽいものを選んだ方が、学生と社会人という企業人事との決定的な隔たりも幾分か狭まって見えるかも知れない。


✓時計

時計については最もピンからキリまで幅広く品が存在するものなので、現時点ではこれこそ見た目の雰囲気重視で選んで構わない。働いて稼いだ給料でいい時計に買い替えるつもりで選んでしまおう。見た目で言えばなるべくコンパクトなもので黒の革ベルト・白の文字盤、金or銀色の側ケースがおそらくシンプルで見栄えもいい。かつケースが薄めのものであれば上品でいやらしさもない上、年代等を問わなければヴィンテージで手軽に手に入る。ステンレスの時計は慎重に選ばないとかなり安っぽく見えてしまうし、文字盤が大きい時計は案外主張が激しい。

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何故”就活生感”を払拭するのか

こんなにも長い文章を読んでくれた人は薄々思っていることと思うが、自分がここで推奨してきた「就職活動におけるファッション」とは、ありがちな就活生を脱却し、(あくまで就活のテンプレと比較してだが)少し背伸びをしたファッション/スーツスタイルで臨むということだ。序盤で述べた通り、企業側が求めている曖昧な学生像は”成熟したビジネスパーソンの様な雰囲気のある学生”だ。しかしこれは曖昧な偶像のため、面接などで目立ったアピールすることは中々難しい。だったら、”人間は見た目が9割説”と”周りの就活生は見た目がほぼ同じであること”を利用して、見た目でまずは印象付けをするのが簡単じゃないか、というのが邪な自分の就職活動に対する戦略だった。企業人事がよく言う話で、内定を出す学生は「一緒に働くイメージができた」なんていうものがある。だったらまずは見た目からそこら辺の就活生を脱却し、現場のリアルなビジネスパーソンの様な雰囲気のある格好をしてみるという取り組みは、ある程度理にかなったことだと自分は考えている。上記で羅列したお勧めは、就活生だけじゃなく、そっくりそのまま社会人にもお勧めできると思っている。就活生ではなくビジネスパーソンを意識したお勧めだからだ。もちろん、実際に揃える際にはやや主張の強いネクタイには無地スーツを合わせるなど、トータルを意識してうまくバランスをとってほしい。

とはいえ、何べんも前置きした通り、見た目を整えるということは、無論就職活動における本質的な部分ではない。見た目を整えることは手っ取り早いが、それは企業分析だとか、自己分析といった就職活動に先立つ本質的な努力をさらに良く見せるための装備でしかないことは、見失わないでほしい。



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