見出し画像

映画「フード・インク」感想

AmazonのPrimeVideoで「フード・インク」を見ました。

あらすじ

簡単に概要を説明します。米国の農業(食料生産)は近代になって大きく変わりました。ここ100年での農業の変化は過去数千年の変化を上回っています。そんな背景の中で米国における「畜産」と「種子(遺伝子組換え)」の市場を独占あるいは寡占している巨大企業が生まれ、独占によって引き起こされる問題を提起してます。巨大企業は利益を優先して消費者の健康、生産者のやりがいや権利をおざなりにしているというのが本作品の主題です。
畜産については生産性重視のための品種改良、密飼い、食品衛生の問題、労働問題等が指摘されていました。
遺伝子組換え作物については一般的に指摘されている安全性の問題や、耐性雑草や菌の問題よりも、モンサント社が独占による特権的な立場を利用してやりたい放題しているということが指摘されていました。

農業の技術革新について

映画の中で指摘されている通り、ここ100年で起きた農業での変化を我々一般消費者は知りません。ひょっとして牧場で放し飼いにされて草を食べた牛が焼肉になっていると思っている人がいても不思議ではないですよね、しかし、機械化、大規模化、化学肥料と農薬、工場畜産等の変化が世界中で起きております。農業と言うと自然の中で土と共に生きるといったイメージがありますが、実際の農業は映画の中で指摘されている通り工場での技術や考え方が多く導入されております。特に畜産の変化はすさまじく厩舎はまるで工場のようです。
加えて米国では、もともと大規模化しており科学技術で先行しているため巨大企業による市場の寡占、遺伝子組換え作物の普及といった日本ではない現象とそれによる問題があります。

画像1

一見すると米国の方が日本よりも農業技術も資本主義も進歩しているように見えます。しかし、遺伝子組換えを導入せず、農協と言う明らかに共産主義的なシステムをとる日本の農業の方がはるかに消費者フレンドリーな食料供給システムを築いているということが分かります。日本人が求めているのは遺伝子組換えコーンを食べた牛肉で作った不自然に安いハンバーガーではなくて、安心して食べられる米や野菜だと思いますし、農協や生産者はそれに寄り添っていると思います。確かに日本でもハンバーガーは安いですが、海外と比べると日本の野菜はハンバーガーより安くて新鮮です。

日本の食料生産の行くべき道

実は日本の農地は急速に集約して大規模化していっております。農林水産省が提供している農地に関する統計1) によりますと、2015年には1経営あたり全国平均で2.54haだった農地が2021年には3.2haになっています。なんとたった6年で約20%も増えています!これはすごい変化です。おそらくこのトレンドは続き、今後日本の農地でも集約化が進むでしょう。
しかし、米国ではこれが400ha以上2) でかつこちらも拡大傾向にあり、いくら日本が規模が大きくなっていると言っても全然太刀打ちできません。映画の中では特によく畑や厩舎が放映されましたが、日米の農業のあまりの規模の違いに圧倒されてっぱなしでした。米国の様にとにかく安く大量にという競争は最初から勝ち目がありません。
ありきたりにはなりますが、少なさを活かして必要なものをスピード感をもって生産したり、向き合える時間を活かした高品質の農作物づくりを目指すしかないのかなと思います。幸いにして世界の食料生産における日本のシェアはそれほど高くはないのでニッチや高品質に特化しても市場はありそうです。農林水産省が策定している「みどりの食料システム戦略」はこのような視点も踏まえて策定して公表されているのだと思いました。

画像2

モンサントについて(ネタばれあり)

作中では遺伝子組換え作物の市場独占を狙うモンサントが、遺伝子組換えを利用しない農家や種子洗浄業者をマークしてつぶしにかかっておりました。種子洗浄業者は収穫した種を来年撒くために必要な洗浄などの工程を請け負う業者です。モンサントは、種子洗浄業者を無実の罪をでっち上げて訴え、種子洗浄業者は裁判費用が続かず和解しました。でっち上げた訴訟で相手の譲歩を引き出すモンサントの実質的な勝訴です。このようにしてモンサントは遺伝子組換え以外の種子を利用する農家やその協力者に圧力をかけて自社の種子の独占を築いております。
一方、モンサントは科学的には毒性も発がん性がないとされている除草剤ランドアップについて、使用者からの健康被害の訴訟で多額の賠償を命ずる判決を受けております。
私はモンサントが自社の種子を使わない農家や協力する業者を訴訟で攻撃するのは倫理的にも法理的にも正しくはないと思っています。しかし、一方でラウンドアップ健康被害問題でモンサントに賠償を命ずる判決が出るのは科学的には正しくないと思います。
訴訟社会と呼ばれて司法の判断が非常に重いアメリカ。しかし、訴訟社会は悪者に有利で決して正義が貫かれている訳ではないのだと感じました。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

1) https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/10.html
2) USDA/NASS, 2017 Agricultural Statistics Annual, Chapter IX, p.1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?