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東京ラブストーリー

1980年代後半から90年代、トレンディードラマ全盛の時代があった。
当時僕は中学、高校生の年代。
大人たちのカッコイイ恋愛像として、たくさんのドラマを見ていた。
一番ハマったなと思うのが「東京ラブストーリー」。
小田和正が歌う主題歌「ラブストーリーは突然に」がドラマの後半、クライマックスで流れ、ドキドキしたものだ。
東京ラブストーリーは織田裕二演じる「永尾完治」と鈴木保奈美演じる「赤名リカ」の恋愛ストーリー。
田舎から出てきた永尾完治と東京のキャリアウーマン赤名リカが社内で出会い恋に発展していく。リカは完治のことを「カンチ」と呼び、二人の掛け合いは微笑ましかった。

リカは好きになったら一直線。
カンチにまっすぐにぶつかっていく。
カンチは少し優柔不断。
初恋の幼馴染の子へ気持ちが揺らいだりする。
話が進んでいくと、徐々に視聴者はリカに感情移入していく。

僕が思い出す場面はリカが待ちぼうけを食らう姿。
会えると思って、ワクワクして待っているいるのに、約束の時間になっても来ない。
約束の時間を過ぎても、雨に降られても、カンチがやってくるのを待ち続ける。
その姿が健気で、感情移入しまくった。

待ち合わせをする。
約束の場所、時間。そこでやっと会える。
会うことがドラマだった。

あれから随分時は過ぎ、今ではみんなが一人ずつ携帯やスマホを持っている。
あのドラマのようなすれ違いは起きにくい。
いつでもどこでも、連絡先さえ知っていれば言葉や文字を送ることが出来る。

いつも繋がっていなかったからこそ、繋がることに喜びを感じられた。
繋がりたいと、いつまでも待ち続けることが出来た。
この信じて待つという行為。今ならすぐに連絡を取って事実を確認してしまう。
同じ時間に住んでいれば、いつでもどこでも事実の確認が容易に出来てしまう。
来ることを信じて待つということはほとんど無くなった。最近はリモートで会うという選択肢もある。

テクノロジーの進化でコミュニケーション、私たちを取り巻く社会の形が徐々に変わってきているんだということに、昔のドラマを思い出したりすると気が付く。

もう一つ過去に見たテレビドラマで印象的だったシーン。
2005年放送の「電車男」。
この頃はあまりドラマは見ていなかったが、当時すごく流行っていて、最終回だけテレビ放映を見た。
電車男は恋愛経験のほとんど無い、オタク青年が美人OLに恋をする。その状況をネット掲示板に書き込みしながら恋が進み、ネット上で彼を応援するコミュニティが作られる。ラストシーンは主人公の恋が実り、その様子をネット越しにコミュニティの人々が涙ながらに喜んでいる。そんなシーンがあった。
最終回しか見ていないので、きちんと筋書きは理解できていないけど、僕はこのシーンを見た時、「バーチャル」だと思った。
既にバーチャルな世界が描かている。
ネット上の人々は掲示板の「文字」だけで想像を膨らませ、感情移入していた。
こういう形で恋愛が描かれるんだと驚いたことを覚えている。

東京ラブストーリーの時代から電車男の時代。そして今の時代。
ドラマの中で描かれるスタンスが変わり、コミュニケーションのスタイルも変わっている。こういった世の中の変化がよくわかる。

物理的に会える、会えない、だけではなくなった今の時代。
実際にはどんな恋愛が成されているのか、正直よくわからない。

東京ラブストーリーでの、カンチとリカのすれ違い。ちょっとのすれ違いが二人の距離を遠ざけたりもしていた。
書き残したメモが相手に届かなかったり、大事なことを伝えようと、かけた電話が話し中だったり、会う、話す、伝える、だけのことが大変貴重だった。
そんな時代もあったなと、懐かしく思う。

今年、ネット配信で「東京ラブストーリー2020」が放映されたらしい。現代版でリメイクされたようだ。

見てみたい気もするけど、僕はあの頃見た、東京ラブストーリーのままでいい。

携帯電話の無い時代の、あの頃のままで。