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視察レポート〈釧路市〜厚岸町〉

こんにちは、すさきのすづくり編集部です。
須崎市の新しい図書館等複合施設の運営を考えるために、このプロジェクトでは全国の先進事例に学んで須崎流のあり方を模索しています。

公立図書館の運営には、自治体が直営する方法のほか、民間の事業者に運営を委託する「指定管理者制度」を導入しているところもあります。須崎市にこの運営方法が適しているかを検討するため、2024年6月20日(木)〜22日(土)にかけて、事業者(arg、majima DESIGN)が釧路市中央図書館を中心に北海道東部の図書館を訪ねました。

釧路市立中央図書館に学ぶ指定管理制度

釧路市中央図書館は、釧路市中心市街地の大通りに面したビルの3〜7階にあります。以前は市街地から少し離れた高台にありましたが、施設の老朽化により、中心市街地のにぎわい再生をねらって2018年に現在の場所に移転しました。

写真:大通りに面したビル。「釧路市中央図書館」と書いてあります。
ビルの1〜2階には北海道銀行が入っています
写真:カーペット敷きのフロアに、サイドテーブルが付いた1人掛けの椅子が並んでいます。
釧路市街を見渡せる7階のラウンジスペース
写真:ガラスケースに本やパネルが展示されています。
館内には釧路文学館が併設されています
写真:図書館の様子。右手に本棚が並び、左手の窓際にはカウンター席があります。
地震に備えて減震書架が使われています

釧路市中央図書館では2008年度から指定管理者による運営を行なっています。2008〜2016年度の図書館流通センターによる指定管理を経て、2017〜2020年度は一般財団法人くしろ地域文化財団一般財団法人釧路市民文化振興財団のコンソーシアムが、2021年度からはくしろ知域文化財団が単独で指定管理を引き継いでいます。

釧路市の元生涯学習課職員として、図書館運営の指定管理への移行や新館移転業務に携わった高木真美さんが迎えてくださいました。

写真:女性が本棚の前で話しています。

図書館長の高玉雄司さん、くしろ地域文化財団の千葉誠一さんを交えてお話を伺いました。

写真:小さな会議室で、長机をロの字に並べて話をしています。
左から:千葉さん、高玉さん、高木さん

市の直営から指定管理に移行した経緯として、人員不足が大きな理由だったと振り返る皆さん。現在も指定管理費の大部分を人件費が占めており、人材の確保が大きな課題であることが伺えました。

2017年度の指定管理団体の変更の際には、北海道を中心に書店を含む大型複合店コーチャンフォーを展開する株式会社リライアブルの呼びかけで地元団体のコンソーシアムが結成されました。図書館に書籍を納入することで、地域の事業者にもメリットが生まれる協働の仕組みです。

しかし須崎市の場合、同様の事業者が地元にないため、図書館機能のみでは協働は起こりにくいと考えられます。子育て支援機能や外構空間の活用と一体的に運営を考えることで、協働の活路が見出せるのではという助言をいただきました。

写真:装飾的な外観の2階建ての建物。
コーチャンフォー釧路店
写真:広い書店に並んだ本棚
広い店内には児童書から一般書、参考書、CD、生活雑貨まで揃います

・・・

釧路市を後にした私たちは、なかなか訪れる機会のない道東の図書館をまわりました。それぞれの図書館で、その地域に暮らす人たちのための魅力的な取り組みが行われていました。写真を中心にダイジェストで振り返ります。

酪農・畜産のまち、別海町図書館

写真:広い緑の牧場に牛がいる風景

まず向かったのは別海町図書館です。道中、放牧されている牛や馬がたくさん見えました。図書館に入ってまず目に入ったのが、ヒグマに関する資料を集めた特設コーナーです。あちこちでヒグマの目撃情報が相次ぐ中、町民の関心に合わせて情報を提供している様子が伝わってきました。

写真:ヒグマの関連書籍をあつめたコーナー

館内には酪農や畜産など地域の産業に関わる資料が充実しており、まちで働く人の調べ物に応える蔵書になっているのが印象的でした。本棚の上には地元産のさまざまな牛乳パックが並んでいて、こうしたところからその町で働き暮らす人たちのシビックプライドが育まれるのだろうと感じました。

写真:牛乳パックが本棚に並んでいます
ずらりと並んだ牛乳パックが輝いていました
写真:図書館の一角
酪農や畜産関連の棚の前では、資料一覧表が配布されていました
写真:背表紙に雑誌名が書かれたファイルが並んでいます。
雑誌のバックナンバーは目次をファイリングして探しやすく
写真:文庫、新書コーナー
どの資料も丁寧に扱われている様子が伝わってきました
写真:天井に丸い虹の描かれたこどもの部屋。手作りの人形や節分鬼にタペストリーが置いてあります。

志が循環する、根室市図書館

北海道最東端の根室市図書館では、第50回古本市の“志”週間が行われていました。古本市では市民が古本を持ち寄り、その収益を図書館の児童書として寄付しています。古本市で残った本は“志”週間に持ち越され、来場者は欲しい本の購入価格を自分で決めて志用の箱に入れるそうです。

写真:窓際に並んだ箱に、本がぎっしり詰まっています。窓には古本市の参加方法を説明した紙が貼ってあります。
50回も継続されていることに驚きます
写真:大部屋の机に、たくさんの本が詰まった箱が並んでいます。
状態のよい本がたくさん並んでいました
写真:カラフルな本棚に絵本やかみしばいがおいてあります。
充実した児童書コーナー
写真:こどもたちが本を手にしている絵が描かれたバス
市内をまわる図書館バス大地みらい号・あすなろVI
写真:図書館バスの車内
車内にはみんなの好きな本がぎっしり
写真:テーブルやワゴン、ラックに新着図書が並んでいます。
カウンター周りの新着本コーナー
写真:いろんな道具に囲まれた机で、本を修理している様子
もくもくと本の修理をしていた方

多世代の居場所になる、本の森 厚岸情報館

写真:図書館を2階の吹き抜けから見た様子

最後に訪れたのは厚岸(あっけし)町の本の森 厚岸情報館です。館内に入ると、にぎやかな音楽が聴こえてきました。施設の2階には視聴覚室があり、子ども映画会が開催されていました。館内の防音性が低いことで、施設全体ににぎやかさを受け入れる雰囲気が流れているのが心地よく感じました。厚岸町にはそれまで映画館がなく、映画設備を備えた視聴覚室では大人も子どもも楽しめる映画鑑賞会が定期的に開催されているそうです。

写真:階段状に椅子が並んだ部屋。奥の部屋からプロジェクターで映像を投影しています。
写真:ホワイトボードの前に敷物をひいて、イベントの準備をしているところ
視聴覚室前のギャラリースペースは、おはなし会や地域活動の発表会に利用されます

“情報館”の名の通り、本に限らず、視聴覚資料や健康情報のパンフレットをまとめたコーナー、PCルームを利用した講座の開催など、地域住民がさまざま情報に親しめる環境を提供していました。マンガの蔵書も充実しており、世代を問わず利用したくなる環境になっていました。

写真:本棚にたくさんの漫画がならんでいます
マンガが並んだコーナー

また、北海道を代表する木工作家の高橋三太郎氏による椅子が館内のあちこちに配置されていました。書架の間や雑誌コーナーの周り、窓際など、椅子のある場所が心地よい居場所になり、滞在したくなる空間になっていたのが印象的でした。

写真:一般書の本棚のそばに、1脚ずつ木製の椅子が置いてあります
写真:窓に囲まれたスペース。丸い柱を囲むようにテーブルがあり、おそろいの木製チェアが並んでいます。
写真:本棚の側、カウンター席にそれぞれ椅子が置いてあります。

視察を終えて

北海道東部の図書館をまわり、各館それぞれに特色のある取り組みが見られました。その土地で働き暮らす人にとって魅力的な図書館であるためには、施設の建物もさることながら、そこで誰が何をどのように行うかという運営の観点が重要であると感じられました。釧路市でのモデルがそのまま須崎市には適用できないように、須崎にとってどのような運営が望ましいかは実際に須崎で生活する皆さんとの対話が欠かせません。

須崎市では、図書館等複合施設の運営方法について参加者同士で意見交換を行う市民対話を計画しています。これまでの開催レポートや今後の開催予定は、このnoteでも発信していきます。