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2021年の良かったマンガ 4作

今年の良かったマンガについて書いてみる。
「今年」という言葉の基準は、今年始まったか終わったもの。
とはいっても今年は始まったものだけの4作になった。
以下、ベストワン以外順不同。


矢野くんの普通の日々

クラス委員長の吉田さんは、毎日大ケガをしながら登校してくる矢野くんのことが気になる。

この手のラブコメ作品(○○さんの、○○くんは、というタイトルが共通しているので、名前系と呼んでいる)自体は大量に出ているわけなのだが、いくらか読んだ中でこれは圧倒的に良かった。
『塩田先生と雨井ちゃん』や『女の園の星』など、今やひとつのモードになりつつある「80年代くらいの絵柄で心もちシュールな笑い」みたいな感性って、どこから来ているんだろうか?
自分などは『動物のお医者さん』とか思い出すのだけど、これらの作品の作者がリアタイするにはちょっと世代がずれているよな。


ブランクスペース

狛江さんは、同級生の片桐さんが「透明な道具を作り出す」という不思議な力を持っていることに気付く。

飛び道具のSF的なアイディアを軸に、青春の痛みや苦さを描く。
セリフなしにイメージの連鎖で見せるような箇所や吹き出しの密度自体に意味を持たせる手法など、マンガ表現の鋭さとシンプルな絵柄のコントラスト。
「透明な道具」として作り出されるものがそのまま物語上のメタファーとしても機能するというマンガならではの想像力。
SF的な「飛躍」がしっかりこっちの予想を超えてくる「飛躍」なのもいい。


作りたい女と食べたい女

社会でのサヴァイヴ負荷を料理で昇華する野本さんはついご飯を作りすぎてしまい、お隣さんの春日さんを夕食に誘うのだが…。

ちょっと最近、百合という言葉を使うことへの違和/抵抗感がある。
それは額縁から先に用意するから(作品タイトルに平気でこの言葉を入れちゃうとか)ジャンルとして硬直化し始めてるよね、っていう創作上の理由もあるけど、それ以上に、消費する側の抑圧的な目線を感じて、オタクミームにありがちな配慮のないヤダみみたいなものにウッとなってしまうみたいなことが増えたと思ってて。
去年の『マイ・ブロークン・マリコ』ってそこに気持ちよく一撃を加えてくれた印象がある。ジャンル的な蓄積、系譜の上に立ちつつ、換骨奪胎して新たな物語を語るというか。
そこに来て本作。
今なにを/どう語るべきか。
しなやかな抵抗。やさしさによっても世界は変わるんじゃないか。そういう感想を抱いた。
他にも『今夜すきやきだよ』とか、いい流れが生まれている感じがあって、そういう流れをあとから振り返るときにこの作品って重要なものになってくるかもしれない、と思っている。

『チ。』とか『バトルグラウンドワーカーズ』とか読んでいて、表現の倫理的な動機っていうものを感じるのね。
理不尽な苦しみを負っている誰かを助けたい。そのために世界を変えたい。
そういうものに対して、今はもう、素直に尊さを感じる。


ベストワン。

ゆうやけトリップ

学校の新聞部の取材で、女の子二人が町の怪談現場を巡っていく。

まず卓越したビジュアル。
線よりも濃淡で描く水墨画的な手法。モノクロの中に豊かだけれど統一された色彩のトーンを感じられる。横浜をもっと極端にしたような異様な高低差の町は、『BLAME』あたりの巨大建築のような良さも備えている。
それから、作品の持つ「怪談観」。
この作品に幽霊は登場しない。ただ、枯れ尾花を見つける。そのことによって、そこにひっそりとあった物語、小さな美に気付く。それが静かにノスタルジックに描かれる。
仄暗く、ほんのりと温かいような独特の手触りがある。
自分もやっぱり仕事で怪談をやっているわけなのだが、本作の提示する「怪談観」には感銘を受けた。


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