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語彙豊になりたい(5月エッセイ②)

 コミュニケーション強者、“コミュ強”という言葉がある。
臆せず人の輪に入っていけて、初対面の人ともフランクに話すことができるような人のことを指す。僕は人と話すのが上手くないので、初対面でも話しやすく、複数人で話している時でも上手く会話を回してくれる人はいてくれると助かる。
 たまにコミュ強と呼ばれる人の中に、話にガツガツ入り込んでくるだけのパワータイプが紛れていることがある。基本的にコミュ強はエネルギッシュなパワータイプが多いと思うけれど、話の流れや話している人の雰囲気を感じ取って、話し方や聞き方を変える柔軟性を持っているように感じる。ガツガツ来る人に対しては苦手意識があるけれど、こっちの話をきちんと聞いて、優しいリアクションを取ってくれる人には多少心を開くことができる。
 だけど、自信とエネルギーが余りあって、それが空回っているタイプとは距離をなるべく取りたい。知り合いと楽しく喋っていたのに、突然輪に入ってきて、文脈無視の自分の話を勝手にし出し、周りに雑ないじりをして自分で笑う。不快感をそれとなく表情や態度で示してみても少しも気づかない。むしろ『君、ノリ悪くない?』といったニュアンスの言葉を投げかけられ、その余計なお節介にいよいよイライラを隠し切れなくなってくる。しまいには隣にいた知り合いを連れて、どこかに去っていく。気づけば僕はひとりになり、遠くから聞こえる大きな笑い声は自分を嘲笑っているようにさえ感じる。
 ここまでひどい例は少ないけれど、こういう人が人から好かれていたり、信頼されていたりすると、モヤモヤとした感情が芽生える。

 苦手なタイプのコミュ強に関する陰口を僕がこそこそ言いふらしたとして、嫌な奴という印象がつくのは自分だろうし、そもそもそんな自信過剰な人間に陰口が効くはずがない。
 人目を気にせずガツガツ行けることは、自分を有利にする可能性が高いから、羨ましくもある。分からないことがあったらすぐに質問できるし、どんなところへ行っても孤立しないことは大事だ。
 だからといって、僕はされたことを簡単に許すわけもなく、根に持つ。では、こちらはされたことを適切に伝えるコミュニケーション能力を身につけなくてはいけない。

 語彙豊(ごいほう)、語彙が豊富にある人になりたい。そんな言葉はない。変に人に気を遣ってしまい、特に初対面の人に対して緊張することが多い自分はコミュ強になれなくても、表現力を身につけることで人並みのコミュニケーション能力を手にできるのではないかと考える。
 エネルギーや自信に満ち溢れていなくても、語彙に満ち溢れた会話ができれば、会話にガツガツ入り込めなくても、ワードひとつで相手に気持ちを伝えることができるのではないだろうか。
 もし今度パワータイプのコミュ強が近づいてきたら、語彙力で圧倒したい。相手の手数に対して、こちらは一撃必殺のカウンターを放つ。テクニカルノックアウトを決めたい。
 でも、今この瞬間に「まだ中二病引きずってんのかよ」って言われたら、ダウンして二度と起き上がることはできないだろう。


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