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要領が悪い(というかバカ)(10月エッセイ②)

2年連続で成田空港から旅行に行った。シンプルに遠い。
羽田発にすればいいものをなぜか成田発にしてしまっていた。
成田エクスプレスに課金し、少しでも時間を短縮しようとするけれど、遠い。
格安航空を使うため、第3ターミナルまで駅から歩く。やはり遠い。
荷物はバックパックひとつだけなのに、飛行機の受託荷物にも課金してしまった。
帰りはJALで羽田着にしたけれど、マイルは貯めていない。

成田エクスプレスには、2年連続でお世話になっている。
列車に乗り、席に向かうと、白髪で身なりの整っていないおじさんが自分の席に座っていた。
僕が座ろうとすると、慌ててどこかへ消えていったので、無賃乗車か何かだと思う。
これから楽しい旅行なのに、服装も意地も汚いおじさんが座った後の席に座るのが旅の始まりなのは不穏な空気感が漂っているように感じた。
思えば去年も自分の席に見知らぬ外国人が座っていて、僕を見るなりふたつ後ろの席に移動していた。この列車はちゃんと採算が取れているのだろうかと思った。

要領が悪い割には、他人に対して厳しい。朝早くに起きた時は余計にイライラしやすい。空港に向かう途中、ふと目についたことがただただ気になってしまう。
チケットが違うから改札を通れないのに、係員に声もかけず、何度も試している人を見て、イライラした。
カート禁止のエスカレーター前に立ち止まり、キャリーケースは載せていいのか迷って、立ち止まっている家族連れ3人があまりにも邪魔すぎる。
ターミナルまでの通り道は右側通行なのに、全く守らず、不貞腐れた顔で向こうから直進してくるカップルに対しては、2人の間に突っ込んでいくか一瞬迷った。
他人が奇天烈な行動を取った時、何でそうなるんだと思っても、自分も奇天烈な行動を取っている。 “まぁそういうこともあるよね”と寛大な心で受け止めるのは大分先のことのような気がする。

旅行自体は1人行動のおかげで、すんなりと目当てのグルメなどを楽しむことができた。帰り際、最後の追い込みとして空港でラーメンを食べることにした。
お店にはもう列ができていて、結構混んでいた。
“食券を買ってから並んでください”という張り紙があったので、券売機の前に立つと、列の先頭の男性に「並んでますよ」と言われた。
僕は
「食券買ってから並ぶんですよね」
と言ってそのまま買おうとした。
でもハッとして気づいた。
食券を買うということに対しての「並んでますよ」ではないか。思いっきり列を無視して食券を購入しようとした上に、話の通じないヤバい奴になってしまったのではないか。よく見たら列は2列あった。すぐに男性に謝って列の最後に並んだ。謝罪は無視された。ヤバい奴には極力触れたくないから仕方ない。
自分の前に並んでいたのは、家族連れ4人組だけだった。券を買って、席がひとつ空いていたのでそのまま通されると思い、店前で待っていると、全く案内されなかった。後ろを見ると、待機列へ別の店員が案内していた。
1回で2度恥ずかしかった。

旅行の最後に若干の後味の悪さを残しつつ、機内に乗り込んだ。JALのコンテンツに落語があったので、地方限定のおにぎりを頬張りながら、三遊亭夢丸師匠の「てれすこ」を聴いた。落語を聴くと、何かをやらかしても逞しく生きる人がたくさん出てくるから、なんとなく勇気がもらえる。自分の精神力を少し回復できた。
フライトも後半に差し掛かり、サービスで出された飲み物のゴミ回収がやってきて、食べてたおにぎりの袋も捨てていいですよと言われた。ありがとうございますと伝えると、めちゃくちゃいい笑顔で会釈された。男性CAの笑顔で、精神力がさらに回復させられた。
どうでもいい嫌なことがめちゃくちゃ目につくけれど、どうでもいい楽しいこともめちゃくちゃ目につく性格を楽しもうと思った。

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