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国防としての核融合炉

こんにちは、トリトンです。ウクライナとロシアの戦争が始まりました。SNSやニュースで流れてくる映像を見るたびに、酷く心が痛みます。この記事の執筆時点ではウクライナの首都キエフも攻撃を受けており、ウクライナ国籍の男性は武装のため出国を禁じられ召集を受けているようです。現在進行的にウクライナ軍とロシア軍の衝突が続いています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は何度も他国への支援を呼びかけていますが、軍事的に有力かつ直接的な支援は未だ受けられていないようです(2/27時点でNATO加盟国であるチェコ・オランダ・ポルトガルがミサイルや銃などの軍事的支援を行っています。また、ドイツも軍事支援を行う政策転換をしました)。日本はロシアと、ロシアを支援したとされるベラルーシへの経済制裁を発表しています。

私は政治や外交は専門ではありませんが、今回の「特にドイツにおけるウクライナ軍事支援の遅れ」をエネルギー資源の観点から分析してみようと思います。さらにその分析からみえてくる日本のエネルギー資源問題とその危機的状況、さらに核融合炉の重要性についても解説します。

※繰り返しますが私は核融合炉を専門に研究する博士学生であり、政治の専門家ではありません。政治に関する分析は専門家を信用してください。

ロシアが、ドイツのエネルギー資源=生命線を握っているという事実

言うまでもありませんが、現代の国家においてエネルギー及びエネルギー資源・燃料・技術は生命線そのものです。電気がなければ、現代社会では何も出来ないと言っても過言ではないでしょう。戦争が始まる前、ロシア軍がウクライナ領へ侵攻し緊張が高まっていた頃(1月から2月中旬にかけて)、欧州各国がウクライナへの軍事・経済支援を発表していました。その一方で、イギリスが脱退した現在ではEUの盟主とも言えるドイツが行った軍事支援は「鉄のヘルメット5000個」というあまりにも拍子抜けしたものでした。

その後もドイツは戦争が始まりキエフへの攻撃が始まるまで、支援に関して慎重姿勢でしたが、これにはドイツのエネルギー事情が大きく関係していると考えられます。

こちらの情報によると、ドイツのエネルギー自給率は原子力を0とした場合、約29%であり、発電は再生可能エネルギーや石油・ガス・石炭による火力発電がメインです(ドイツは2022年に完全脱原発を掲げています)。

ドイツにおける原油の最大の輸入相手国はロシアであり、輸入全体の35.8%を占めます(2015年時点)。更に天然ガスの輸入もパイプラインを通して行っており、ロシアからの輸入は輸入量全体の55%にも上ります(2020年時点)。

つまり、ドイツは国家の生命線たるエネルギー資源の主要な部分を、ロシアに握られているのです。ドイツが軍事支援に弱腰だった理由の一つが、このエネルギー資源にあったと考えられます。仮にロシアがドイツへの全輸出を打ち切った場合、その影響は甚大でしょう。

また、昨年から欧州諸国の電気代は異常なまでに高騰しています。例えばスペインの卸電気料金は2020年4月と2021年9月を比較すると、10倍以上高騰しました。EUは脱炭素政策を掲げ、石炭・褐色火力の発電量を減少させてきましたが、その減少分を再エネでは完全にまかないきれず、天然ガスでカバーしてきました。この天然ガスがまさにロシア由来なのです。

もちろん、エネルギー資源だけでなく様々な事象が複雑に絡み合って、政治の世界は動いているでしょうが、如何にドイツが危機的状況にあるのか明らかだと思います。

つまり、エネルギー資源の輸入元を侵略国家に頼っている国は、有事の際のフットワークが重くなることが今回明らかになりました。ロシアは昨年のEUのエネルギー事情を注意深く観察し、このタイミングを好機と見たと考えられます。

これは日本にとっても決して他人事ではないでしょう。いままでは、日本にどこかの国が侵略戦争を仕掛けても国際社会が黙っていない、というような風潮がどことなくありました。しかし、仮にロシアと中国が手を組んだ際に、エネルギー資源(に加えて工業製品など)を握られている国の数やその割合は計り知れません。本当に、国際社会の有力な支援が期待できるでしょうか?

日本におけるエネルギー資源

もはや常識ですが、日本のエネルギー自給率はかなり低く、11.8%程度です。東日本大震災以前は原発を利用した発電があったため自給率は20%を超えていましたが、震災以降は一時6%台まで落ち込みました(こちら)。

原油の輸入はサウジアラビアが35.8%、アラブ首長国連邦が29.7%で、この2カ国で大部分を占め、ロシアからは5%程度です。

天然ガスと石油は、オーストラリアに大きく依存していますが(38.9%と68%)、幸いにもオーストラリアとは政治・経済的にも友好的であると言えるでしょう。

ロシアからの輸入資源で目立つものは、石炭が12%、ニッケルが10%で、その他にはプラチナやパラジウムなども気になるところです。

中国からの輸入は電子機器・電子部品や工業製品などがあります。日本の他にも中国からの輸入に依存している国は多数あるため、仮に中国が日本に侵略を仕掛けた場合、日本側に有力な支援を行うことが出来ない国があらわれることも予測されます

もう一つ恐ろしいことは、日本が今回のドイツのようになってしまわないか、ということです。

日本はこれまで憲法9条を理由に、有力な軍事的支援を拒否してきた経緯があります。この事の是非は置いておいて、憲法9条がなくとも、仮にロシアや中国、その他の侵略国家に、資源の依存をしていた場合、友好国への有力な支援が行えない可能性があります。日本はエネルギーだけでなく鉱物資源や食料もほとんど輸入に頼り切りです。

肝心なときに支援してくれない(と予想される)国家を、誰が助けてくれるでしょうか

核融合炉という国防

さて「エネルギー問題は国防問題である」というのをSNSで見かけました。これまで書いたことから、この趣旨は十分ご理解いただけたと思います。最後はエネルギー自給、つまり「国防」としての観点から核融合炉を語ります。

核融合炉の燃料は重水素とトリチウムで、重水素は海水から実質無限に、安定して入手できます(以前の解説記事はこちら)。

トリチウムは自然界に存在しないため、リチウムに中性子を照射して製造します。リチウムの生産国はオーストラリア、チリがメインで、アルゼンチン、中国と続きます。埋蔵量はチリ、中国、アルゼンチン、オーストラリアの順で多いとされます。

核融合炉は少ない燃料で大きなエネルギーを取り出せるので、膨大な量のリチウムは必要としません。友好国であるオーストラリアから一定の量を輸入できる以上は心配ないでしょう。

つまり、核融合炉の実現は、日本にとっては国防そのものなのです

日本以外のエネルギー資源に恵まれない国も同様です。もちろん、全ての電源を核融合炉のみに頼り切るのは却って危険で、風力や水力、太陽光を始めとした再生可能エネルギーなどとうまく組み合わせて運用する必要があります。

ですが核融合炉が実現すれば、今回のロシアに対するドイツのような弱腰の姿勢をとらずに済む国家が増えることは明らかでしょう。そのような観点から、核融合炉は平和実現の手段であるとも言えます。

終わりに...

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。私は政治や外交の専門家ではありませんが、核融合炉については専門知識を有するので、その観点からも、今回のウクライナとロシアの戦争を考えてみました。戦争が早期終結し、少しでも流れる血が減ることを心から願います。

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