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47「MとRの物語(Aルート)」第三章 10節 女神の後悔と不安

序盤から仕込まれていた伏線が、次々と発動する。
ちょっと伏線多すぎた? いえいえ、まだ大丈夫。
でもさらに、「MとR」には、新たな伏線の用意がある。贅沢な悩みだ。
ひとまず少しでも伏線を回収し、本題(小説執筆の描写)へと進まなければ。

(目次はこちら)

「MとRの物語(Aルート)」第三章 10節 女神の後悔と不安

 Rは、母親の帰宅にあわせて炊飯器のタイマーをセットした後、麻婆豆腐の準備を始めた。餃子も買ってきたが、それは母が帰宅後に、ごま油で炒めなおす予定だ。

 Mと神は、少し喋っていたようだったが、今は黙り込んでいる。何が起こっているか知りたかったが、あまり気にしてもしょうがない。今は自分の身体の中で、喧嘩さえしないでいてくれれば、それでいい。しかし、面倒なことになった。Mの心がRの身体と合体してしまってからというもの、いろんなことが起こりすぎる。いや、それは何もRにとって、すべてが悪いことというわけではなく、いいこと楽しいことの方が圧倒的に多い。でもそれだけに、Rは逆に不安になっていたのだ。この楽しい時間が、いつか過ぎ去ってしまうのではないかと。また以前の、暗く鬱々とした日々に戻るなら、もしかしたら自分は、Mのことなんて知らない方がよかったと、考えてしまうかもしれない。今のRはそれだけが怖かった。

 そんなことない。きっと。

 ん? どうした?

 ううん、なんでもない。もうすぐ麻婆豆腐が出来るよ。

 そうか、準備が終わったら少し相談しよう。

 うん。あ、そうそう、女神さんのことは、母に伝えた方がいいかな?

 どちらでも……。いや、話が面倒臭くなりそうだから、
 何か聞かれたら答える、だけでいいかもな。

 そうだね……。

女神がテレビから視線をそらし、Mをちら、と見ながら言う。

 Mはもう、Rちゃんの母親とも、面識あるんだったわね。

 うん……。不用意に第三者に情報を漏らすのは反則かな、とも思ったが、
 これまでのお前の行動パターンから考えると、
 母親に迷惑がかかることも、もしかしたらあり得るかな、と考えた。
 神という存在自体は母親には伝えてはいないが、
 何かの危険が迫る可能性がなくはないことを、伝えておいた。

 ふうん……。それは賢明だったわね。私も少し出方を変えないと。

 やっぱり、何か仕掛けるつもりだったな?

 ええ。私がじゃないけれど。それ言うとネタバレになるから、秘密。

 ふん……。

 女神は「あの世」から転生させた、「もう一人のM」、ある少年のことを考えていた。女神は反省していた。Mも相当やっかいな性格だが、その少年はさらに輪をかけてワルだった。しかも女神はあろうことかその少年に、さらにやっかいな癖を持つ、もう一つの精神を、合体させてしまった。「Rと合体したMに対抗して、少年にももうひとつの精神を」、という、フェアネスに基づいたルール設定のはずだった。だが少年は、新参の精神を食らいつくし、持てる知識をむさぼり、さらなる怪物へと進化してしまっていた。精神が精神を食らう、などということは、女神さえも想定していなかったことで、大きな衝撃を女神に与えていた。「あの怪物を倒せるとしたら、私か、Mしかいない」、と女神は考えていた。しかしいくら、Mがあの世で最強の精神であるからと言って、2つの精神が融合したあの化け物に、敵うだろうか。難しいかもしれない。

Mに相談すべきか、いや、今は言えない。幽霊、地獄門ときて、さらに精神を食らう化け物とは……。いや、これはひょっとしたら、女神にとってのいいカードになるかもしれない。Mと戦うためのカード、ではなく、Mと女神が共闘し、「日本に浸食しようとするある巨悪」、と戦うためのカードに、である。しかし女神やMに、それらの禍々しい事象を御しきれるか、というと、女神の脳裏には、疑問符しか浮かばなかった。

 Rは一つまみの塩とともに豆腐を下茹でしてボウルに移し、挽肉を炒めて味を調えた。隠し味の豆板醤も忘れない。豆腐を入れ、中火にして煮込む。いい感じに煮えた頃に、母親が戻るという予想だが、帰宅が遅れたら、弱火にしておいた方がいいかもしれない。帰宅後に、水溶き片栗粉を加えてとろみをつけ、ゴマ油を入れれば完成だ。

 ガチャ……。

玄関の鍵が開けられ、扉が開く。母親だった。いいタイミング。Rは玄関まで出迎え、母親の荷物を持った。疲れていた母親の顔が笑顔に包まれるのが、Rにはとてもうれしかった。

<つづく>

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