56「MとRの物語(Aルート)」第三章 17節 三保の松原
今回は少し、あわただしい執筆。
推敲すれば、もっとよくなるかもしれない。
でも、今は先に進むことを重視しよう。
この先どうなるのか、私自身、興味深々なのだから。
(目次はこちら)
「MとRの物語(Aルート)」第三章 17節 三保の松原
「海鮮丼とお刺身、おいしかったね!」 Rが言った。
「うん、来てよかった!」 Rの母が言った。
そのあと二人とMは、「豊饒の海・第四巻 天人五衰(てんにんのごすい)」の主人公の一人、透(とおる)の勤めていたと言われる通信所の、モデルとなった建物に訪れた。
これが、俺のモデルにした通信所だ。覚えておいてくれ。
うん……。でもそれって、ある意味チートなんじゃないかな?
チート……。コンピューターゲームなどにおける、
不正な行為、だな。確かにそうかもしれないな。
まあ、俺の力が人間離れしていたなら、こんなチートも、
必要なかったのかもね。そこは反省しないといけない所だ。
ううん? 大丈夫だよ?
天才のMさんにも、足りない所があったんだってわかって、ちょっとうれしいよ。
はは……。
「Mさんが言ってるよ。こんな所に連れてきちゃって、反省してるって」
「そうなの? そんなこと気にしないでって、言っておいて」
Rの母は、Rの肩に手をやって、ぎゅっと引き寄せた。Rはされるがままに、母親に身を預けた。二人は少し歩いて、一番の目的地である、「三保の松原」の、「羽衣(はごろも)の松」にたどり着いた。
天女の、はごろも。
うん……。しっかりと、目に焼き付けておいて欲しい。
ここに俺の見た、究極の「美」がある。
うん……。
それは一見、何の変哲もない、松だった。見ようによっては滑稽(こっけい)でもあった。
でも、これがMさんの考える、美なんだね?
ああ……。
少し歩くと、砂浜に出た。空気は澄みきっていて、富士山が美しく見えた。潮の香りが、ここちよく鼻をくすぐった。Rは、Mが自分に読ませたいものってなんだろうと、少し考えながらも、美しい風景を楽しんだ。最後に二人とMは、「清水港マリンターミナル」を訪れた。いくつかの船が接岸された、ちょっと高い位置にある船着き場だ。
これが清水港のターミナル。ここもよく覚えておいて。
うん。
Rは思った。「豊饒の海」というタイトルが、現実の海を現しているなら、ここがきっと、Mさんのたどりついた、人生最後の海なんだと。でも本当にそうなのかな。もしかしたら「海」という言葉には、もっと深い意味が、隠されているのかもしれない。Rは胸いっぱいに息を吸って、その隠されているかもしれない、何かを感じ取ろうとした。ふとRは、ちらっと母親の顔を見た。母は風を気持ちよさそうに受けながら、微笑み、水平線を眺めていた。そんな母を見上げながらRは、お母さんは海に似ている、と思った。母はRの視線に気づき、Rを見おろしにっこりと笑った。Rはうれしくなり、母の手を握って微笑み返した。すう、と息を吸って空を見上げると、富士山をバックに、一羽のカモメが飛んでいた。富士山の、青と白とのコントラストが美しかった。
MとRの物語・Aルート 第三章 暁の寺<了>
<つづく>