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長編文学小説・MとRの物語

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Mというのは、あの、三島由紀夫さんのことです。三島由紀夫さんが現代によみがえり、女子高生とともに小説を書いていく、というお話です。ファンタジーっぽいですが、純文学です。
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【まとめ】長編文学小説「MとRの物語」

前書き  タイトルの「M」というのは、あの、三島由紀夫さんのことです。三島由紀夫さんが現代によみがえり、女子高生とともに小説を書いていく、というお話です。ファンタジーっぽいですが、純文学です。  三島さんが死の直前に書き上げた、「豊穣の海」全4巻の大長編小説は、実は全5巻となる予定だった、またエンディングは実際に発表されたものとは違う予定だったという、わりと信ぴょう性の高い噂があります。本小説は、作者である私(超プリン体)が三島由紀夫さんになりきり、三島さんを現代によみがえ

01「MとRの物語」・序章 「シチショウホウコク」

(目次はこちら) 序章  シチショウホウコク シチショウテンセイ  アラヤサウナリ マクマノメイドウ  俺は漂うおびただしい光の粒を、ただただ見つめていた。  寄せては返し、寄せては返すその波は、  俺の心を洗い癒した。  眼前に広がる、ただただ白い、光の空間。  俺は今ここで、何をしているのか。  俺は以前ここで、何をしていたのか。  そして俺はこれから、何をなすのか。    焦燥は、あった。  だが今は、それを隠すのだ。  俺は右手を上げ、光の粒を慈しむ。  彼

02「MとRの物語」第一章1節「母と娘」

(目次はこちら) 第一章 1節 「母と娘」 「ただいま。おかあさん、これ、一緒に食べよう」 私はアルバイト先のコンビニでもらってきた2つのヤキソバを、 テーブルの上に置いた。 「うん、ありがと」 母はノートに走り書きをしながら、そう言った。 他にもテーブルには、書類やらノートやらが、ちらかっている。 仕事を持ち帰るのはやめて、と以前は言ったこともあったが、 そうしないとどうしようもないのだということがわかり、 最近では何も言わないようにしている。 そうだ。人生というの

04「MとRの物語」第一章3節 追手

(目次はこちら) 「それで……、再生した俺はどうなったんだい?」 にやにやしながら、俺は神に尋ねた。俺はすでに答えを知っていたのだ。 「ちょっとした事故がありました。彼の意識は、ある女の子の肉体に入り込んでしまいました」 「ほう……、その女の子はどうなったんだ?」 「わかりません。今ちょうど、様子を見ている所です」 「わからないだって? 時間さえ超越できるはずのお前がか?」 「ええ……」  神はくすっと笑った。俺は理解した。彼女は楽しんでいるのだ。その状況を。 「見え

05「MとRの物語」第一章4節 病院

(目次はこちら) あれ? 救急車のサイレンが聞こえる。 ここは……。  私が目をあけると、そこは見覚えのない部屋だった。私はベッドに横たわっていた。左腕には、点滴がされていた。病院だ。誰かが私に話しかける。母だ。 「気がついたね、よかった。大丈夫?」 「私、なんでここに?」 「ヤキソバを食べて、文庫本を読んでいて、お茶を飲んで。そのあと大きな音がして、あなたが椅子から落ちて倒れていて、全然起きないから心配で、救急車を呼んだの。びっくりしたけど、何もなくてよかった」

06「MとRの物語」第一章 5節 サンドイッチと黒犬

(目次はこちら) 何の検査をするかという話になり、CTとか、MRIとかいう言葉が出ていたようだけど、私が受けたのは、血液検査とX線検査だけだった。少しほっとした。まるでSFに出てきそうな機械の中で、私は目をつむり、検査終了を待った。長い時間だった。  結果は午後に出るということで、母と私は、病院を出て食事が出来るお店を探したけど、驚くほど高いお店ばっかりで、結局、コンビニで買ったサンドイッチとお茶を持って、病院の近くの大きな公園でベンチを見つけ、座ってそれを食べた。 「昨

07「MとRの物語」第一章 6節 シンプルな世界

(目次はこちら)  暗くひんやりとした病院の玄関を通りぬけ、診察室へ向かった。お昼すぎの待合室。平日というのに、人が多かった。こんなにも多くの人が、助けを必要として、ここにきているのだ。私達病人にとって、病院とは、なんとありがたい存在なのでしょう。でも私がそう気付けたのも、ヤキソバを食べて気を失ったおかげ。人生とはなんて、数奇なものなのでしょう。少したって、整理券の番号を呼ばれた私は、母とともに診察室に入った。  病院の診察室というものは、薬品臭くなくてはならない。それに

08「MとRの物語」第一章 7節 接触

(目次はこちら) 「MとRの物語」第一章 7節 接触  Mさん? Mさん? 聞こえる?  少女が俺を呼んでいる。だが俺はその声を無視した。当然だ、少女が俺を目視できたように、この電車の中に、俺を目視できる、いわゆる霊能力者とか、超能力者とか呼ばれる者達が、いないとも限らない。いや、ほとんどの場合は、そういう者達はイカサマ、インチキであるということを、今の俺は知っている。しかしごくまれに、我々「意識」の存在に気づく者がいて、ぎょっとさせられる。海外でいうとシャーマン、日本

09「MとRの物語」第一章 8節 抱擁

そろそろ「官能」の要素が入ってきます。 小説としてうまく成り立つのかは、やってみないとわからない。 (目次はこちら)  人は悲しみを知ることで、優しくなれるというけれど、きっとそれだけじゃない。Mさんと言葉を交わすことの安心感、それが私を、優しくさせる気がした。心いっぱいに温かさを感じながら、私は椅子に座り、テーブルの上の本に手を置き、眼を閉じてみた。つるっとした紙のカバーのひんやりした感触が、きもちいい。私の心の中で、私に触れるMさんが喜んでいるのがわかった。本を手に取

10「MとRの物語」第一章 9節 幻の五巻

いつもありがとうございます。 官能的なシーンは少しだけ自重して、この小説のテーマを語ります。 (目次はこちら)  食事をしてパジャマに着替えた私は、玄関の脇にある小部屋で、タオルケットにくるまった。常夜灯は、点けたままだ。いつも私は、この部屋で一人で寝ているんだけど、今日は特に、一人の時間がうれしい、変な意味ではなく。ただ、これから何が起こるにしても、明日の学校に備えて寝ておかないといけないから、起きていられるとしても、2時3時くらいまで。考えようによっては、こんなにわく

11「MとRの物語」第一章 10節 図書室その1

いつもありがとうございます。 少し物語がスムーズに進みそうな気配。 (目次はこちら) 「MとRの物語」第一章 10節 図書室  Mさんと、遅くまでは話をした翌日、私は眠い目を擦りながら、登校した。1日のお休みにも関わらず、誰から声もかからない、どころか、私は誰とも、挨拶すらしない。みんな私を、怖がっていた。そう、私の暗い過去。それが原因で私は、クラスでただ一人、のけ者になっていた。荒れていた中学時代。私にとっての黒歴史。でも、別にそれはいいんだ。それはいつものこと。

12「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その2)

今までの小説にはない手法。 うまく書けるかどうかの、あたりもつけながら。 (目次はこちら) 「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その2)  退屈な授業に、何度も居眠りしながらも、お昼休みにこぎつけた。母のお手製のお弁当をかきこむように食べて、図書室へ向かった。10台あるPCのうち、あと1台だけ空いている。あわててカードリーダーに、IDカードを通すと、PC借用の手続きをすませた。他の9人のほとんどは、下級生っぽかったが、窓際のひとつの席だけ、見覚えのある男の子が座って

13「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その3)

図書室のシーンが続きます。 後ろに座った男子が、いい感じにからんでくる。 この男子には、名前をつけるべきか否か。 つけるとしたらどんな名前にするべきか。悩みは尽きない。 (目次はこちら) 「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その3) 「この涙は花粉症によるものです、だから心配しないで」と、 そう告げて、私は小説に集中することにする。  Mさん、私に欠けているものは、私にとって悲しすぎるよ。  欠けてるものが、多すぎるんだよ。    そうでもないかもしれない。  例

14「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その4)

図書室のシーンは終了。 あらたな伏線が仕込まれますが、それはMさんとRちゃんにとって、 吉と出るのか凶と出るのか。それは作者である私にも、まだわからない! (目次はこちら) 「MとRの物語」第一章 10節 図書室(その4)  照れて顔を上げられずにいる私に、Mさんがすかさず言った。  大丈夫、これは正真正銘、お前の考えたストーリーだ。  俺はお前に問いかけて、発想を促しただけ。  俺の問いへのお前の反応や、イメージを、  いい感じに文章化しただけだよ。  そう、なの