見出し画像

「少年の君」「ソウルメイト/七月と安生」

最近凄まじい作品と出会いました。
「それも2作も同時にだ・・・」
矢沢のことをつい考えてしまいそうになりましたが、実際に2作品。
しかも、同監督・同主演作品です。
というか、今回「少年の君」を日本で公開するにあたって、前作の「ソウルメイト/七月と安生」を同時に公開したような形でしょうか。

そのあたりの経緯は正直どちらでもよいのですが、「少年の君」の方が後に作られた作品のようです。私が観た順番としては「ソウルメイト/七月と安生」→「少年の君」です。
作品の色の問題ももちろんあるとは思いますが、「ソウルメイト/七月と安生」の方がストーリー、音楽、映像の調和がとれていて、美しい作品と感じました。

「少年の君」からは荒々しい勢いを感じます。
いじめを含む生々しさ。あまりにも残酷な現実を叩きつけてくるので、心を揺さぶられ、余震がずっと続いている感覚に陥ります。

荒々しくも心揺さぶる作品を作り、評価されたことでお金もかけて練りこまれた巧妙な作品を作ったのだと思ったのですが、順番は逆のようで、これはなかなか面白いですね。

「ソウルメイト/七月と安生」は小さな頃から親友の2人の女性の物語。
WEB小説で話題になった2人の女性。七月という正体不明の作家を探すべく、小説に出てくる安生を訪ねる男。安生の記憶はWEB小説を読むととともによみがえりはじめ、親友だった七月に思いを馳せる。小説によって、振りかえられる過去と安生の現在が交錯し始める。
内向的な七月と奔放な安生は全てを分け合って成長していくが、七月の恋心によって、はじめて分け合えない存在が生まれる。愛がゆえに離れる必要を感じつつも、愛がゆえに離れられない2人。物理的に離れてはみても、心の奥底でつながり続ける糸。断ち切ることのできないソウルメイトの2人。ぶつかり、離れ、葛藤する。互いを想う気持ちがもつれ、周囲をも巻き込んで様々なトラブルを起こしていく。交差する小説と現実。小説に秘められた思い。隠された過去。すべてが明らかになった時に2人の間には何が生まれるのか。
サスペンスの要素も含みつつ、なめらかに展開していくストーリー、撮られる画の美しさと、流れてくる音楽の調和が素晴らしく、映画の世界を漂うことのできる稀有な作品です。


「少年の君」は逆に生々しく、荒々しい作品です。
主演のチョウ・ドンユィさんは普段は隠しているはずの生々しい感情の演技が抜群に上手いなと感じました。
この作品はどうやら実際の事件をもとに作られたようですね。
受験戦争があるのは日本だけではないようで、過酷な受験戦争に巻き込まれ貧乏な生活から抜け出そうと孤独に努力を続ける優等生の少女。唯一の友達がいじめによって自殺し、次の矛先が自分に向けられる。警察、親、先生、誰にも頼ることができない中、ギャングの男が袋叩きになっている場面に遭遇する。出会うはずのなかった2人が出会い、2人で居る時だけが安らぎの場へと変わっていく。一方受験が近づくにつれ、いじめはさらに過酷になっていく。救いのない世界から抜け出そうともがく少女と、少女を守りたい不良。
いじめという、あまりにも残酷な所業を理想論で片付けることなく、生々しく描き切った作品。心揺さぶられること間違いなし。

韓国映画の「息もできない」とも似た構図、雰囲気を感じる映画。世間の作り出した階層では出会わなかった2人。救いのない2人は互いに傷を舐め合うことしか許されないのか。

最近では「プロミシング・ヤング・ウーマン」からも似たテーマを感じた。
加害者は全てを忘れ、輝かしい人生を歩む。
被害者は全てを失い、抵抗しようものなら悪人へと仕立て上げられる。

救いなき世界に一筋の光明を。
エゴを捨て、自分と向き合う。
できることをできる時にできる分だけ。
できないことは祈るしかない。

どちらの作品も上映日数は短く、上映館は少ないです。
ワダデミー賞受賞作は何かと皆さん観ていないことが多いので、劇場で観るチャンスをお見逃しなく。
今年度ワダデミー賞受賞候補筆頭です。

デレク・ツァン監督作品
「少年の君」「ソウルメイト/七月と安生」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?