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祖父と旦那と「雨やどり」

私は祖父が大好きだ。

祖父は私が生まれた時からハゲてるし、
酒飲みだし、めちゃくちゃ飲ませてくるし、
言うこと聞かないし、
よく祖母と喧嘩する。

でもなんかこの人が好きだ。

なぜか。色々理由はあるけど、
祖父も私のことをめちゃくちゃ愛してくれてるから、というのが一番にきてしまうかも。

孫は他にもいるけど、
私は小学生の頃から酔っ払ってめんどくさい話ばっかりする祖父の相手をするのが上手かったし、
遺伝子とは恐ろしく色の好みもとにかく祖父ゆずり。
そういうところにどこか自分を感じて、
好かれたのだろうか?

他の孫より大事に思われていることが
もろにわかる。

祖父との思い出で一番印象深いのは、
大学生の時、祖父の仕事場でバイトさせてもらったことだ。
祖父は工芸品や照明器具の部品を作る製作所を自営業していて、
私はその手伝いとしてバイトをしていた。
大学生になるまで
祖父と話すのは夕食を一緒に食べる時くらいだったので、ほぼシラフの祖父を見たことなかった。

いつも飲み潰れて
テーブルで寝始め、祖母に怒られる。
そんな祖父しか見たことなかったので、
こんな人と一緒に働けるか想像もできなかった。

ところがどっこい、
祖父はかなり仕事のできる人だった。
仕事ができるといっても、敏腕というよりは、
人情系?
とにかく受注の電話の時に、
みんな祖父のことを尊敬してたり、
あるいは好いてくれていることが伝わる。
かなりオーバーした納期を
「ハハハ、いつもすみませんね。」
と全く申し訳なくなさそうに誤魔化す祖父を
なぜかみんな「この人だから許してやるわ」みたいなテンションで許していた。
(正直納期には間に合わせた方がいいぞ。)

あと笑えるけど、
イベントなんかで接客的なことをすると、
おばあさまたちにとんでもなくモテる。
「お兄さんこれ教えて〜」とか言われて、
ヘラヘラしながら接客して相手は楽しそうに帰ってゆく。
(私の祖母はこういうことで色々苦労したと聞いてるけど、これだな。笑)

そうやって周囲から大事にされて、
ヘラヘラしながらも、しっかりそこに仕事で応える祖父。
ヘラヘラしながら80代半ばの今でも、
8:30〜17:00までフルタイムで働いている。
祖父もあんまり言葉にしないけど、
それなりの責任感とプライドを持ちながら仕事をしているらしい。

その頃から、
なんとなく祖父を「おじいちゃん」としてではなく、
「1人の人」として尊敬するように
なった気がする。

そんな祖父に先日初めて、
旦那を会わせた。

祖父は私のお母さんの結婚の挨拶で、
婿である私の父をベロベロに飲ませて潰した、
という前科がある。
私の旦那に対しても会う前から気にしてるのは、
年齢や出身じゃなく、
「その人はお酒飲めるの?」だったので、
「酒禁止」の約束のもと、彼を会わせた。

祖父は結構私の結婚を気にしていたので、
思ったよりも控えめだったが、
喜んでくれた。
私から話を聞いていた旦那が、
仕事場を見てみたいなんて祖父に言うもんだから、
ご機嫌で仕事場を案内しはじめた。

私を含む孫が全員女子だったので、
この年頃の男子と話すことも少ないだろう祖父は
いつもよりちょっと楽しそうに、
自分の仕事場や仕事道具を紹介していた。

一緒にいた時間は30分くらいだったが、
彼らはそこまで気を使わずに話しているようで、
安心した。

後日、私だけで祖父に会いに行った。
「旦那に会ってくれてありがとう」と伝えると
祖父は「気に入ったよ」とだけ言った。

あ、よかったよかった。
その後ビールを乾杯して、しばらくした後に唐突にこんなことを言い始めた。

「あんたの旦那はなんかさだまさしの『雨やどり』を思い出すわ。

ん?
なになに?

さだまさしさん、知ってはいるけど、
その曲は知らない。
というよりも、祖父が人と出会った時に、
その人の印象と音楽を繋げてるなんて、
なんか意外だった。

祖父のその脳内の動きを知ったことで、
祖父の新しい面を知った。

その時はとにかく曲がわからなかったので、
「さだまさし世代じゃないからわからないよ笑」と
笑ってスルーしたけど、
もちろん内容が気になったので、
後から1人で曲を聴いてみた。

そして、なぜかわからないけど、
泣いた。
どうせ適当でヘラヘラした祖父のことだから、
またイメージの偏った歌なんだろうな、と思っていた。

違った。
よくわからないけど、
私の旦那をめちゃくちゃ捉えているし、なんか同時に私のことも当ててるような気がする。
あんなに短い時間で、
私たちの関係性や旦那の本質的な魅力、
あの人は感じ取ったんだなぁとびっくりした。

「雨やどり」さだまさし

それはまだ私が神様を信じなかった頃
9月のとある木曜日に雨が降りまして
こんな日に素敵な彼が現れないかと
思ったところへあなたが雨やどり

すいませんねと笑うあなたの笑顔
とても凛凛しくて
前歯から右に四本目に虫歯がありまして
しかたがないので買ったばかりの
スヌーピーのハンカチ
貸してあげたけど 傘の方が良かったかしら

でも爽やかさがとても素敵だったので
そこは苦しい時だけの神だのみ
もしも もしも 出来ることでしたれば
あの人にも一度逢わせて ちょうだいませませ

ところが実に偶然というのは
恐ろしいもので 今年の初詣でに
私の晴着の裾踏んづけて
あ こりゃまたすいませんねと笑う
口元から虫歯がキラリン
夢かと思って ほっぺつねったら 痛かった

そんな馬鹿げた話は
今まで聞いたことがないと
ママも兄貴も死ぬ程に笑いころげる 奴らでして
それでも私が突然 口紅などつけたものだから
おまえ大丈夫かと おでこに手をあてた

本当ならつれて来てみろという
リクエストにお応えして
5月のとある水曜日に彼を呼びまして
自信たっぷりに紹介したらば
彼の靴下に 穴がポカリ
あわてて おさえたけど しっかり見られた

でも爽やかさが とても素敵だわとうけたので
彼が気をよくして急に
もしも もしも 出来ることでしたれば
この人をお嫁さんにちょうだいませませ

その後 私 気を失ってたから
よくわからないけど
目が覚めたらそういう話が すっかり出来あがっていて
おめでとうって言われて も一度気を失って
気がついたら あなたの腕に 雨やどり

うんうん、わかる。
旦那っぽいわwwwwwwと笑いながら泣けた。

虫歯があるし、靴下に穴が空いてるけど、
爽やかさが素敵で、
なんか「ませませ」感。笑
(さださんはこの曲をノリで作って歌ったらしく、そういうところもなんかイイ)

なんかこの主人公の女性も、
なんとなーく私っぽい。
2人とも王道の、正統派の男女じゃなくて、
ちょっとだけ抜けてる2人感。
確かに〜私たちっぽいよ。

祖父は一瞬で旦那のこといろいろ見たんだな、
一方で私のことはずっと見てきてくれたんだな、
その上で旦那を「気に入った」と
思ってくれたんだな。
なんか嬉しかった。

そして、さだまさしさんの素晴らしさよ。
去年の紅白歌合戦で「秋桜」を歌われていて、
とてつもなく心に響いた。

昔は北の国からの
「あ〜あ〜〜〜〜」の人!と思ってた。
ただこれも大人になったのだろうな。
さださんの心の機微の捉え方、
そしてそれが詩になったとき、
言葉が人肌感を帯びて温かく心に入り込む。
そしてそれをのせる声と表現。
まるで、昔からの馴染みの場所で、
気の許せる相手に本音を話す瞬間のように、
心が懐かしく感じてほぐれていく、
そんな魅力を感じる。

祖父もきっと、さだまさしさんをこんな気持ちで
今までずっと聴いてきていたのだな。

祖父に少し恩返しできたかな。
みんなに気に入ってもらえるような人が、
私のことも気に入ってくれて
一緒にいてくれることを選んでくれた。

そういう私の幸せを、
きっと自分の幸せとして喜んでくれたはずだ。

そして、なぜかさだまさし。
そんな幸せの一瞬に、祖父の頭の中に
さだまさしさんの「雨やどり」が流れたわけだ。

じいちゃんが
私や、私の大切な人のことを大切に思ってくれていることを大事にするね。
そしてその思いとともに、「雨やどり」がそっと横で流れている気がする。

なんか結婚って、当の本人がどうのではなく、
周りの家族や友人がどんなふうに自分たちのことを大切に思ってくれているのか、
そういうことを改めて確認させてくれるんだなと
してみて初めて気づくことがありますね。

ちょっとした話なので、
締めが思いつかないですが、
ありがたいですね。こういう機会をもらえることは。結婚してよかったな、がまた一つ増えました。

気がついたら、祖父と旦那と雨やどり。

じいちゃん、もうすでに長生きだから、
無理せず自分らしく生き抜いてね。

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