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現場で活躍するDJから、新人DJへ伝えた1つの大切なこと #東北ハードコア新人戦

新人王決定戦のダンスフロアでむせび泣く主催者

2020年8月22日、仙台CLUB SHAFTにて 東北ハードコア新人王決定戦 を開催しました。

この催しを要約すると、「現場キャリア2年未満のDJを集めてyoutube liveで配信し、プレイ中の投げ銭額がもっとも多かった人が総取り」となります。

とても白熱した内容に心を打たれた方も多かったのではないでしょうか。総額10万円を超えた投げ銭の合計額が物語っております。

自分を育んだエクストリームミュージックで出し惜しみなくプレイしたしあん君、キャラが目立つ一方あくまでハードスタイルの音で勝負した張本、本国のUKマナーや伝統を感じさせるミックスで明らかな成長を見せたユキちゃん、日本らしい音と東北ハードコアシーンに対する自分の思いを重ねた千照さん、ハードテックで普段よりもアクレッシブな新しいスタイルに挑戦したゆーくん、絶妙なバランスの選曲とミックスでクラブの良さすら伝えてくれたワーペニ、全員素晴らしかったです。

この日のために用意をしてきて、ここぞというタイミングで頑張る後輩のプレイは良い悪いではなく、心にガンガンと響くものです。

こんなに幸せなことはないな、と楽しませていただきました。おかげさまですごい量の酒を飲んだので目から鼻からいろんな水を流しながら踊らせてもらいました。

新人王決定戦-1

「セコンド制度」を導入した理由

投げ銭システム自体は以前DJ Shimamuraさんから誘われたサウンドクラッシュの方式と似ていて、オリジナリティを持たせよう、と思いついたのが「セコンド」のシステムでした。

元々は本気で戦って欲しい、本気で喜んで本気で悔しがってほしい、という思いで設定したものです。

クラブイベントの運営は、クルーという団体から、主催者と集められたDJという、トップ単独で意思決定を行う派遣型の組織が多くなりました。

初めから「呼ばれてDJすること」が目的になると、優しい主催者の場合は気まずくなるようなフィードバックはしないため、DJプレイの成功・失敗が曖昧になります。自分のプレイが正解か誤りかの判断がしづらくなります。

大抵は反省して作戦を変えて次に活かすことで成長するのですが、反省のしようがなければ成長もしなくなるため、魅力的なシーンが形成されません。いつまで経ってもゲストで集客するような、高コストな現場が続いてしまいます。

「一位を獲らなければ失敗」という条件を課して、準備や本番を妥協して「まあ、いいか」とならないために用意したのが、もう一人にDJ同様の責任を持たせたセコンドの存在です。


それぞれ共通の助言をしていたことが判明

配信終了後、磯丸水産での打ち上げで「何教えたの?」「どういう助言された?」の話題が挙がりました。

非常に興味深いのですが、半数以上のセコンドが、表現は違うものの、同じ事柄の指導をしていました。

それは「抜き」「タメ」など、それぞれの言葉で伝えられておりました。

簡単に言えば「盛り上がる曲以外の選曲」のことです。

盛り上がる曲だけでは疲れるため、盛り上がる曲を最高に輝かせるミックスをするためには、この「抜き」「タメ」が非常に重要になります。

かといって、あまりにも下げすぎてもいけません。いわゆる「しらける選曲」というやつで、ダンスの足は止まり、最悪の場合フロアからお客さんが離脱し、盛り上がる曲をかける頃には冷え切ってしまい、ベストな状態には持っていけなくなるからです。

この見極め、決断、行動は絶妙であり、DJの腕の見せ所です。キープする楽曲を選ぶのか、盛り上がる曲だけどキープさせる部分を長めに聞かせるミックスをするのか、質素なセクションだけどMCが入ると面白くなる部分をチョイスするのか、対応する選択肢はひとつではありません。多くの初心者はここが大きな壁となり、試行錯誤し、自分なりの定石が形成されていきます。

自分の経験の積み重ねが物を言うとても難しいポイントですが、クラブでDJをするにあたっての醍醐味とも言うべき、楽しく個性を出せる部分でもあると思います。


優勝者はやはりそれが上手だった

もう一度World Penis Organizationのプレイを見てみると実感できると思います。

ネタ物(もはやサンプリングしたブート等ではなく、存在そのものがネタの音源)ブッ込みで落ち着かせながら強烈に興味を引くスタイルはセコンドのセワシ君の十八番なので、その辺テコ入れがあったのかな、と予測できますね。

(ちなみにセワシ君は諸刃の剣とも言えるネタ物の打率が凄まじく、福島会津では感動のあまり彼の出番の後、「あれスベったら次の曲どうするの?どうやって元のレールに戻す?」と尋ねたことがありますが、「どうするんでしょうね…」と笑っていました。度胸も技術のうち!

美しいメロディーでダンスよりも聴きに入れさせるようなシーンもありました。ベクトルが押しと引きの二次元から離れられないDJもたくさんおりますが、まだ若いにも関わらず表現力の豊かさに感動しました。

様々な文化から感じたことの積み重ねから、その場にふさわしい感覚を、手持ちの楽曲というカードで表現するのがDJなのだなと、説教された気分になりました。


新人DJがさらなるステップアップのためにできること

この話題については、ただひたすらDJの練習をしても身につく感覚ではありません。

映画や小説、漫画や絵画など、たくさんの文化を消化すると、人は表現が豊かになります。そういった感覚を素早く身につけるには、まずはDJと最も身近な文化、クラブに行きまくるのが手っ取り早いです。

いつものジャンルと違うパーティーで、DJの選曲、お客さんの盛り上がるタイミングの異なり方を体感すると、単純に自分のプレイで応用できます。人から話を聞くのも良いのですが、言葉では伝えづらいこともたくさんありますので、実際に足を運んでみるのがおすすめです。

そういえば私自身も、現場に出始めた18歳ごろ、DJを上達するにはどうしたらいいのか、と先輩二人に訪ねたことがありました。そのときの返事は「キャッシャーに覚えられるぐらい、いろんなパーティーに行くんだよ」と言われたことをいま思い出しました。

新人戦は誰が勝ってもおかしくない面子でしたが、クラブで遊んだ後、金欠で野宿をするような人間に賞金が渡るのも、まあ理にかなうな、とあの夜に思いを馳せています。

また来年もやりたい。

日本各地で勝手に開催してもらって、全国大会もやりたい。

賞金でうなぎ食べたそうです。よかったね。

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