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小説

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#ショートショート

背中

「パリピ、パリピってうるさいんだよ。楽しんでる奴らの仲間に入れないからって僻んでじゃねえよって思うわ。なあ?」
 佑人はコーヒーに砂糖を大量に入れながら訊いてきた。
 彼のこの光景を見る度に顔を顰めそうになる。大学生にもなってという思いを無理矢理引っ込めた。彼は小学生のときからコーヒー牛乳やカフェオレばかり飲んでいた。
「確かにそうだね。文句言ってくる連中ってどいつもこいつも教室の隅っこにいるよう

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初速と終速

初速と終速

 最近、平成最後の夏という言葉をやたらと目にするし、耳にする。
 だからなんと言うのだろう。ツイッターには平成最後の夏なんていうハッシュタグが並ぶ始末だ。

「平成最後の夏には絶対彼氏を作るぞ」「平成最後の花火大会はいい思い出に」「平成最後の夏ってエモいよね」などの言葉が次々に網膜に焼き付いては消えていく。

 おそらく地球は滅亡しないだろう。来年も再来年もこの先もずっと多少の気候変動を伴いながら

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居酒屋

僕は昔から雑音が嫌いだった。

外出するときはいつもイヤホンをしているのが常だった。僕の耳に流れてくるのは、決まって美しい歌声や均整の取れた楽器群の演奏だけだった。自分とは人生が交わることのない人たちの些末な会話は耳に入れないようにしていた。

その日、僕は2年ぶりに大学の友人と再会した。社会に出て、2年が経ち、積もる話も多くあったので、楽しみにしていた。

集まったのは僕以外に中尾と谷口だった。

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