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小説

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2018年3月の記事一覧

縁側

サンダル履きの足をぶらぶらさせながら、風鈴の音色に耳を傾けている。

風鈴の涼しげな音色は心を落ち着かせてくれるけれど、なぜだか今日は空しく響く。どうしてこんなにも寂しいのだろうと自問するも、理由ははっきりしている。私は気づかないふりをしているだけだ。

ゆうちゃんと呼びかける声がして、振り向くと居間からおじいちゃんがカルピスを持ってきてくれた。

「ありがとう」よく冷えたコップを受け取ってお礼を

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居酒屋

僕は昔から雑音が嫌いだった。

外出するときはいつもイヤホンをしているのが常だった。僕の耳に流れてくるのは、決まって美しい歌声や均整の取れた楽器群の演奏だけだった。自分とは人生が交わることのない人たちの些末な会話は耳に入れないようにしていた。

その日、僕は2年ぶりに大学の友人と再会した。社会に出て、2年が経ち、積もる話も多くあったので、楽しみにしていた。

集まったのは僕以外に中尾と谷口だった。

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